「自社の製品品質・作業品質が安定しない…」「品質バラつき防止のための取り組み事例は何があるのか?」このようにお考えの方も多いのではないでしょうか。
本記事では、品質改善の重要性とTQMについての考え方、製造業における品質改善で代表的な5つの手法を解説します。また、品質バラつき防止の取組事例についても解説していきます。
自社の品質安定を実現するヒントや、品質バラつき防止に関する他社の取り組み事例など、一通りの理解を得ることができます。ぜひ最後までご覧ください。
品質バラつきの原因の1つとして『ヒューマンエラー』があります。ヒューマンエラーの削減や再発防止には、「人は必ずミスをする」という前提で発生メカニズムを知り、それを除去することが必要です。
現場改善ラボでは、ヒューマンエラー発生メカニズムと除去する方法について、専門家の方が解説した動画を公開していますのでご覧ください。
目次
品質とは?
製品の品質
製品の品質とは自社製品が持つ特性のことです。一般的に、消費者がイメージする品質は「製品に対する品質」がほとんどです。製品の品質はひとつの要因だけではなく、様々な要素で決まります。
具体的に「自社製品・サービス供給は安定しているか」「納品まで対応は早いか」「消費者との信頼関係はあるか」「顧客対応にミスはないか、不良品は発生していないか」の4点で評価が決まる傾向です。
関連記事:品質管理の基本を解説!目的や品質保証との違い、主な手法は?
作業の品質
作業の品質とは生産過程の一連の流れにおける品質のことです。従業員のパフォーマンスに関わるもので、個人単位の作業品質を指す場合もあれば、チームとしての作業品質を指す場合もあります。
具体的には「作業手順に抜けやミスはないか」「作業工程に遅れは発生していないか」「標準作業フローは明確化」「最終的なアウトプットにバラつきはないか」の4点によって評価が決まる傾向にあります。
品質改善の重要性とTQMの考え方
品質改善の重要性は枚挙に暇がありませんが、顧客からの信頼獲得につながることが大きいとされています。顧客が求める品質を維持し、期日までに納品することで、信頼が生まれ継続的な取引を生み出します。
逆に、品質が顧客の求める水準に合わなかったり、不良品の納品や欠品が続いたりすれば、顧客との信頼を損なうことになります。顧客満足度を向上させるには、自社製品やサービスについて繰り返し見直すことが重要です。
そのためには、会社全体で品質向上を目指していくTQMの考え方が重要になってきます。TQMとは「Total Quality Management」の略称で、日本語では総合的品質管理と呼ばれています。TQMは、全社的または全部門的にどのような品質を向上するのかを目指すためにつくられました。
TQMにおけるTotalの項目は、全社的あるいは全部門的な品質の向上という意味にとらわれず、品質向上のための取り組みに制約をつくらないという一面も含まれています。TQMのねらいは、全社的または全部門的な質的向上を目指すと同時に、組織におけるほぼすべての業務を向上させることにあります。
TQMについては、以下の記事で詳細に解説していますので、こちらもご覧ください。
関連記事:TQM(総合的品質管理)の目的は?進め方やトヨタ式などの事例を解説!
製造業における品質改善5つの手法
PDCAサイクルに取り組む
「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」これらの頭文字を取ってPDCAサイクルと呼びます。このサイクルを継続することで、段階的に品質改善を図るのがPDCAサイクルの考え方です。
PDCAサイクルを回すメリットには「目標がわかりやすくなる」「無駄な部分が明らかになり、改善につながる」「業務改善に効果的な方法を、短時間に検証できる」「業務が継続的に改善され、同じミスが減る」などの項目があります。
達成できそうなビジョンのある目標が設定されれば、従業員のモチベーションアップにつながります。PDCAサイクルは上手く回り始めればスパイラルになり、目標達成や業務改善の意識が当たり前になっていきます。
業務のムダを取り除く
業務のムダとは、文字通り現在行っている作業工程における不要な部分です。業務のムダを取り除くことを作業効率化と呼び、生産性の向上に直接関わる重要な要素となります。
従業員にとってはムダな業務から解放されることによる気持ちの軽減や、理由もわからず行っていた業務の目的が理解できるようになり生産性が上がるといったメリットがあります。
企業全体で見ると、時間や経費といった削減し生産性が向上する結果を得られるため、利益率が大きくなります。効率化に伴い生まれた余剰資源を利用して新規事業に着手することも可能になります。
業務のムダを徹底的に取り除いた代表的な事例が「トヨタ生産方式」です。ムダな在庫や作業を現場から取り除くことで、在庫過多による経営圧迫を避けることが狙いです。特に「7つのムダ」と呼ばれる工程を、徹底的に取り除いていきました。
トヨタ生産方式や7つのムダについては、別の記事でも詳細に解説しています。併せてご覧ください。
関連記事:トヨタ生産方式(TPS)をわかりやすく解説!7つのムダ、メリットやデメリットとは?
関連記事:【トヨタ式】7つのムダとは?具体例を交えてムダを解説
「なぜ」を繰り返し課題を深堀する
「なぜ」を繰り返し課題を深堀することを「なぜなぜ分析」と呼びます。なぜなぜ分析の目的は製造現場で発生する問題の原因を突き止め、対策を考え現場の課題を改善を目指すことです。製造現場で発生する問題は業種ごとに異なり、原因を導き出す方法も複数存在します。
たとえば、設備機器の不具合や品質のバラつきなどが見られる場合は、なぜ起きたのかという因果関係をたどり、原因を特定する必要があります。
また、現場で作業ミスが後を絶たない場合は、作業指示書の抜けや不備などの欠陥を訂正することで、改善策を打ち出すことができるようになるでしょう。
なぜなぜ分析の効果的な進め方は、以下の動画で専門家の方が解説していますのでご覧ください。

多能工を進める
多能工とは、複数の業務を進めることができるスキルが身についており、流動的に工程に入ることのできる従業員のことを指します。この多能工化を推進することによって、企業は生産性の向上やバリエーションに富んだ生産工程を組むことが可能になります。
主に製造業の現場などで多能工化は推し進められていますが、時代の変化により様々な業界で多能工化が必要とされるようになりました。
特にサービス性が多岐にわたるホテル業や、レジや鮮魚などの部門が多いスーパーマーケットなどの流通業などでは多能工化が重要になってきており、他社との競合に勝つために柔軟な対応力が求められるようになっている背景があります。
多能工化のメリットやデメリット、導入を推進するポイントは以下の記事で詳細に解説しています。併せてご覧ください。
関連記事:多能工とは?メリット/デメリット、失敗しない進め方を解説
ルールを浸透させる
品質改善のためには、職場内のルールを浸透させる必要があります。職場内のルールが守られない原因の一つは、なぜこのルールが存在するのかという目的や重要性が理解されていない点にあります。
衛生面が重要となる場合、安全性や品質維持が最優先になるため作業効率が悪いルールが生まれることもあります。しかし、ルールの目的や重要性についての説明が浸透していないと、作業効率を優先する従業員が後を絶たなくなるでしょう。
ルールの目的は従業員が多数集まる場所、たとえば朝礼や夕礼の場所で繰り返し周知を促すことが重要になります。言葉の認識や基準は人によって違いがあるため、充分に伝えたと思っていても、正確に伝わらないこともありえます。
画像やデータを使用したり、イラストを掲示することなどで伝達方法を工夫していきましょう。ルールの変更を行った後はすぐに周知を始めることが大切です。
品質のバラつき防止に取り組んだ企業事例
品質のバラつき防止に取り組んだ事例として、大同工業株式会社をご紹介します。
自動車や産業機械、福祉機器など、さまざま領域を展開し、2022年現在では海外11カ国に拠点を持つグローバル企業である大同工業株式会社では、品質のバラつきが現場で起きていました。
そのバラつきの原因は、新入社員のOJTでトレーナーの知識や経験、指導方法の違いによるコツ/ポイントの差によって生じていました。この我流化を防ぐために、社内に動画マニュアルを導入したことで業務の効率化や最適化、最終的には部内での業務標準化を実現し、評価エラーを削減することを実現しました。
大同工業株式会社の取り組み事例は、以下の資料で詳細にご紹介しています。
変化に立ち向かう大同工業が動画マニュアルの課題解決力と有効性を検証
品質改善/品質向上を実現する5つのポイント
可視化
可視化とは、目に見えないものをデータ化して分かりやすくすることです。品質改善着手前の状態をエクセルやドキュメント化しておき、取り組み後に効果があったのかを一目でわかるようにしておきます。
具体的には「品質向上の対象とする範囲」「品質を形成している要素」「基準とする業務の状況」をまとめていきます。この段階で課題を定量的に組み込むことが難しければ、まずは定性的な状態について整理していきましょう。
定量化
定量化とは、可視化のプロセスで得た情報をさらに細かく数値化するための作業です。この作業において定量化した結果に合わせて品質改善についての計画を立てていくので、可能な限り数値を具体的にする必要があります。
項目は業種により異なりますが、具体的には「1ヶ月における案件数」「1件あたりの処理対応期間」「1件にかかるメンバー数」「1ヶ月で発生したミスの件数」を組み込むことが多いです。
業務情報の定量化が終わったら、最終目標も定量化します。段階を経て改善をしていくことが望ましいため、中間地点の目標値も設定もおすすめです。
課題化
課題化とは、設定した目標と現状の数値において欠落している部分を確認し、課題を明確にする作業です。課題が明確になったら、課題を解決するための解決策を検討し、実行に移していくことになります。
解決策については、具体的に業務と照らし合わせておくことで計画が細かく正確になり、迅速にアクションを起こせるようになります。チーム単位における業務の照らし合わせができたら、所属メンバーにタスクを割り振れるように細分化していきましょう。
実践化
実践化とは、打ち立てた品質改善案に沿って実践していくことです。
計画の進行においては、最初に打ち立てた計画通りに全てが進行していくことはまれで、どこかで何かしらのズレが発生することが多いです。定期的に目標値や計画との差を見直し、計画を修正しながら根気強く取り組んでみましょう。
当初設定した合格値の範囲内まで品質基準が向上すれば、品質改善に成功したということになります。あらかじめ想定していた解決策によって品質が向上しなければ、設定した課題が間違っていた可能性もありますので、課題化のプロセスから見直しを検討することをおすすめします。
定着化
品質は一時的に改良しただけでは安定的な向上は見込めません。組織の変更やサービスの状況によって品質は少しずつ変動していきます。実践化のプロセスによってどの手法が品質改善に最も効率的かが分かったら、その方法を定着させるための方法を話し合いましょう。
たとえば作業者が変わる場合には、業務マニュアルの更新を通達し、業務に関わるメンバーへ情報共有をすることが必須となります。使用する機械が変わる場合は作業手順書を分かりやすくしておく、使い方を説明するための講習会を開くなどの手法が挙げられます。
まとめ
品質改善を行う理由はいくつか考えられますが、その最たるものとして「顧客との信頼関係を獲得し継続してもらうこと」が根底にあります。近年の品質改善においては、あるセクションの一部のみの品質を限定的に引き上げるのではなく、組織全体の品質を上げるという認識に変わってきています。
品質改善を行う手法は何通りかの手法が存在し、最近ではデジタルツールを利用した手法が主流になっているため一目で品質改善において何が足りないのかという部分に時間をかけることは少なくなりました。しかしながら課題の原因の本質を探したり、従業員への周知を徹底させるのは依然として難しいままになっています。
大同工業株式会社の取り組み事例のように、品質改善を実現する手法は複数考えられます。自社にマッチする手法を見極め、効率的かつ効果的な品質改善を行っていきましょう。