企業の経理担当者や個人事業主の方は、帳票と呼ばれる言葉を聞き慣れていると思います。しかし、帳票の種類は様々で、目的や役割を正確に説明することは難しいです。
近年では様々な分野でデジタル化が進み、帳票も電子データでの保管が可能になりました。帳票は法律により一定期間の保管が義務付けられており、帳票について正しい基礎知識が必要です。
本記事では帳票の種類や管理方法をわかりやすく解説し、電子化が注目を集める背景や必要性をご紹介します。
帳票とは?
帳票の意味と役割
帳票とは、企業や個人事業主が営業活動で取引先とやり取りした書類で、帳簿と伝票の総称です。取引先とのお金の流れを確認し、経営状況を把握するために用いられます。
製造業で帳票を作成、管理する目的
製造業で帳票を作成して管理する目的は、一貫した製品やサービスを提供して顧客満足度を向上させるためです。製造業では作業チェックリストや設備点検票、生産日報などを帳票と呼び、国際規格ISO9001品質マネジメントシステムに準じて、帳票を管理している企業が多くあります。
ISO9001では帳票の保管期間が定められているので、規定に沿った管理が必要です。またトラブル発生時には対象製品の生産履歴を確認できるエビデンスとして帳票は有効な書類となります。
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帳簿や伝票、証憑との違い
ここからは帳票と似たような言葉で、混同しやすい帳簿や伝票、証憑との違いを解説していきます。
帳簿との違い
帳簿とは事業取引や資産について、お金の流れを記録した台帳のことです。会社の経理で作成させる会計帳簿が該当しますが、帳簿と呼ばれることが多いです。帳簿には取引内容をはじめ、取引先や取引をした日時など細かく記載する必要があり、最終的に決算書として扱われます。
帳簿は大きく分けて主要簿と補助簿に分かれており、それぞれ一定期間の保存が必要です。
伝票との違い
伝票は企業間の取引内容を詳細にまとめた書類で、入出金伝票や振替伝票などが該当します。翌月以降での決算が必要な場合では、売上伝票や仕入伝票が重要となり管理が必要です。
証憑との違い
証憑は「しょうひょう」と読み、取引の証拠となる書面や取引中に発行された書類で、トラブルを避ける役割も担っています。例えば取引先と認識にズレがあった場合でも、証憑を見れば取引内容を確認できます。企業間で交わす契約書の他に、給与支払明細書や雇用契約書なども証憑の一種です。
それぞれの主な種類と役割
帳簿と伝票、証憑の具体的な種類と各々の役割を説明していきます。
帳簿の種類/役割
帳簿の種類は主要線と補助線の2つに分けられます。
主要線
主要線は仕訳帳と総勘定元帳の2種類があり、複式簿記で記帳します。対象となるのは法人と青色申告する個人事業者です。
種類 | 役割 |
仕訳帳 | 全取引を日付順に記載し金銭の流れを把握する書類 |
総勘定元帳 | 仕訳帳をベースに勘定項目ごとに分類/記録した書類 |
補助線
主な補助線の種類は以下の5つです。
種類 | 役割 |
出納帳 | 現金の入出額や残高を記録する書類 |
買掛帳 | 仕入先への買掛金の発生を管理する書類 |
売掛帳 | 取引先への売掛金の発生を管理する書類 |
固定資産台帳 | 会社の固定資産をまとめた書類 |
経費帳 | 仕入以外の経費を記録する書類 |
伝票の種類/役割
伝票はお金に関する取引を記録した書類です。入出金伝票や売上伝票などが該当します。
種類 | 役割 |
入出金伝票 | 会社が商品やサービスを販売・購入したときのお金の出入りを記載する伝票 |
売上伝票 | 売上があったときに起票される伝票 |
仕入れ伝票 | 仕入れがあった場合に起票される伝票 |
振替伝票 | 入金取引や出金取引のいずれにも該当しない取引を記載した伝票 |
証憑の種類/役割
証憑は大きく分けて4つの種類に分類され、お金やモノ以外に人や契約に関わるものが対象です。
種類 | 役割 |
お金に関わるもの | 請求書、領収書、返済予定表、小切手帳、支払明細書など |
モノに関わるもの | 見積書、注文書、納品書、受領書、棚卸表など |
人に関わるのも | 履歴書、退職届、退職金支払資料、雇用契約書、給与支払明細書 |
契約に関わるもの | 賃貸契約書、銀行取引契約書、覚書、念書、議事録、送り状など |
帳票の管理方法
帳簿は経営活動の記録となる重要な書類であり、会社法や法人法で一定期間の保存が必要です。税務調査があった場合、帳簿を提示しなければ措置が課せられる可能性があるので、保管期間と管理する形式を理解しましょう。
保存期間について
法人の場合、事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存する義務があります。また欠損金の繰越控除を利用する場合、10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年間)の保存が必要です。一方で、個人事業主の場合も7年間の保存が義務付けられていますが、請求書や領収書などの伝票の保管期間は5年間となります。
”法人は、帳簿(注1)を備え付けてその取引を記録するとともに、その帳簿と取引等に関して作成または受領した書類(注2)を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間(注3)保存しなければなりません。
(注1)「帳簿」には、例えば総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳などがあります。
(注2)「書類」には、例えば棚卸表、貸借対照表、損益計算書、注文書、契約書、領収書などがあります。
(注3)青色申告書を提出した事業年度で欠損金額(青色繰越欠損金)が生じた事業年度または青色申告書を提出しなかった事業年度で災害損失金額が生じた事業年度においては、10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年間)となります。”
管理する形式について
帳票を管理する形式は以下の2つです。
- 紙の状態のままファイリングする
- 電子データとして管理する
それぞれ特徴を見ていきましょう。
紙の状態のままファイリングする
帳票を管理する形式の一つは、紙の状態のままファイリングすることです。帳票はパソコンを用いてエクセルやワードで作成できますが、出力して紙で保管します。
種類ごとに識別してファイリングすれば誰でも簡単に仕分けできるメリットがありますが、9年間分の帳票を保存する場合はスペース確保の問題やキャビネットの増設など、保管が課題となるでしょう。
電子データとして管理する
電子データとして管理することは、帳票を管理する形式の一つです。1988年に施行された電子帳簿保存法により、一定の条件を満たせば電子データとして保存が可能となりました。
紙の管理と比較すると電子データでの管理は手間が省けますが、電子帳票システムを導入する場合はコストがかかるのでデメリットを理解して管理方法を選択しましょう。
帳票の電子化/ペーパーレス化について
この章では、帳票の電子化やペーパーレス化が注目される背景や、電子化するメリットやデメリットについて説明していきます。
電子化/ペーパーレスを実現する帳票システムとは?
帳票システムとは、電子データで帳票作成や管理、配信できる電子化に不可欠なシステムです。帳票システムを導入すれば、取引履歴や顧客データをもとに自動で帳票を作成できます。従来のように紙での管理が不要になるので、業務の効率化を図ることが可能です。
またネットワークやプリンターと連携すれば、作成した帳票データを社内で共有したり印刷やWeb発行も含めた業務を自動化したりできるので、最適な環境を構築できるでしょう。
関連記事:帳票ツールとは?帳票の概要や機能、選定のポイントを解説!
電子化/ペーパーレス化に注目が集まる背景
電子化やペーパーレス化に注目が集まる背景は主に以下の4つが挙げられます。
- 電子帳簿保存法の改正
- クラウドサービス市場の拡大
- DXの推進が加速している
- 人手不足の解決に期待できる
電子帳簿保存法の改正
電子化に注目が集まる背景の一つは、電子帳簿保存法が改正されていることです。電子帳簿保存法は、紙で出力した帳票や書類の保存方法を定めた法律です。1988年に施行された当時は電子で作成した帳簿を電磁的記録で保存する場合は事前に税務署長の承認が必要でしたが、2022年の改正により事前承認制は不要となりました。
現在は電子著名が不要で、紙の帳票をスキャンした保存が可能になり、スマートフォンで撮影した帳票も認められています。
”1 税務署長の事前承認制度が廃止されました。
これまで、電子的に作成した国税関係帳簿を電磁的記録により保存する場合には、事前に税務
署長の承認が必要でしたが、事業者の事務負担を軽減するため、事前承認は不要とされました
(電子的に作成した国税関係書類を電磁的記録により保存する場合についても同様です。)。”
引用:「国税庁_電子帳簿保存法が改正されました」
また電子取引に関するデータ保存の義務化が盛り込まれ注目されました。2023年12月末まで2年間に行われた電子取引については従来通りプリントアウトして保存が可能ですが、各企業で電子化に向けた対応が急務となります。
クラウドサービス市場の拡大
クラウドサービス市場が拡大していることが、電子化に注目が集まる背景の一つです。場所や環境を選ばないサービスの普及、資産管理負荷の低減のニーズにより近年クラウドサービスの市場が拡大しています。帳票管理もクラウド化する動きが加速し、低コストで導入できるケースが多いです。
管理の手間が省けるメリットが大きく、業務の効率化が図れることから今後の帳票管理がますます便利になるでしょう。
DXの推進が加速している
電子化に注目が集まる背景の一つは、DXの推進が加速していることです。政府では2025年までに民間企業において帳票の電子化を進めています。この流れに乗れない企業は帳票の電子データを用いた外部とのやりとりが困難になり、競争力の低下を招く可能性が高いです。
企業や組織が成長するには、早い段階から帳票管理の電子化に取り組む必要があります。
人手不足の解決に期待できる
人不足の解決に期待できることが、電子化に注目が集まる背景の一つです。少子高齢化が進む日本では人手不足が顕著となり、業務の効率化や生産性の向上が急務です。帳票類を電子化すれば書類作成の工数や管理の手間が省けるので、リソースが足りない業務へ人を充てられます。
帳票の電子化は組織全体の業務改善に役立つツールとなるでしょう。
電子化/ペーパーレス化するメリットとデメリット
電子化やペーパーレス化するメリットとデメリットについて、それぞれ解説していきます。
メリット
電子化/ペーパーレス化のメリットは主に以下の3つが挙げられます。
人件費と事務費のコスト削減ができる
人による数値の入力作業が省けるので、単純作業にかけるコストが削減できます。他のリソースが足りない業務で付加価値が高い仕事に人員補充が可能です。紙管理が不要になるので、印刷する紙代や印刷機のインクの使用量を抑えられ事務費のコスト削減も期待できます。
一元管理で安全性を確保できる
電子管理で適切なセキュリティ対策を施せば紛失するリスクが低くなり、帳票類を安全に管理できます。さらに紙による情報の受け渡しやUSBなどでのデータ持ち出しを禁ずる運用ルールを設ければ、より一層セキュリティ性が高められます。データベース上で一元管理すれば、物理的に紙を保管するスペースも不要なので、保管費用の軽減や空きスペースを有効に使えるでしょう。
業務の効率化が図れる
帳票類が多い事業者にとって紙管理は工数が掛かる業務です。電子化すればファイリング作業や検索に掛かる時間を削減できるので、管理工数を大幅に削減できます。
帳票をクラウド上で送付すれば郵送作業が不要になり、修正や再発行も電子上で修正して再送付が可能です。受取側の企業も電子化を推進していれば書類を受け取る手間が省けるので、双方にとってのメリットが大きいでしょう。
デメリット
一方で、電子化/ペーパーレス化にはデメリットとして認識すべきことが2つ挙げられます。
導入時に初期費用が発生する
帳票類を電子化するためには、システムやソフトウェアの導入が必要です。既存のPCのスペックが低い場合は、新たなPCを購入する必要があり初期費用が発生します。求めていた機能や仕様でなかった場合、効率化とは反対に工数が掛かってしまったり、無駄なコストがかかります。
各社から便利なツールが提供されていますが、機能を追加するとその分の費用が必要です。どのような管理方法でどの範囲まで適用するかを社内で事前に議論しましょう。
取引先との合意が必要
帳票類を電子化する取り組みについて取引先に事前に説明しない場合、トラブルが発生する可能性があります。紙で郵送を希望される事業者もいるので、帳票の受け取り方は企業ごとに様々です。
企業規模によって帳票類を電子化するシステムやソフトを導入するメリットがない場合もあるので、自社で帳票類の電子化を進める前に取引先の事情を確認しましょう。
まとめ
本記事では帳票の種類や管理方法を解説し、電子化するメリットやデメリットなど必要性を説明しました。帳票の電子化は法律で義務化され、企業や個人事業主の電子化への対応が急務です。
帳票の基礎知識を正しく身につけ、電子帳票システムを導入すれば帳票の電子化は難しくありません。業務の効率化も図れるので、ぜひ自社に合った方法で帳票管理してみてください。