労働安全衛生法において、一定以上の規模に当てはまる事業場で設置しなければならないとされている安全委員会と衛生委員会(安全衛生委員会)。一方で、設置しようと概要を把握しようとしても、法律が絡んでいることもあり、一度見ただけではわかりにくいといったお悩みがあるかと思います。

また、すでに設置している事業場では、議論するテーマがマンネリ化して新しいテーマ探しにお悩みといったこともあるのではないのでしょうか。

そこで本記事では、安全衛生委員会について目的と基準など概要を詳しく説明していきます。また、実施時の議論テーマ例も併せてご紹介いたしますので、ぜひヒントの一つとしてご活用ください。

安全衛生委員会とは?

安全衛生委員会の概要

安全衛生委員会とは、労働安全衛生法で定められている組織です。ある特定の条件(後述)を満たしている事業場は物理的・精神的に安全な職場環境を作るための「安全委員会」心身ともに衛生的な職場環境を整えるための「衛生委員会」を設置しなければなりません。

そして、この両方を開催しなければならない事業場は二つを統合し、「安全衛生委員会」として設置することが可能とされています。

安全衛生委員会を設置する目的/基準

安全衛生委員会を設置する目的は、安全かつ衛生的な職場環境を作りあげることです。

また、厚生労働省ウェブサイトには、委員会設置の目的は「労働者の危険・健康被害を防止するための対策などの重要事項について、労働者の意見を反映した調査審議を行う必要がある」という主旨の文言が掲載されています。

加えて、安全衛生委員会を設置する必要がある事業場の基準は業種によって異なります。

詳細な基準は厚生労働省ウェブサイトでは下記の通りとされています。

【安全委員会】

常時使用する労働者数が50人以上の林業、鉱業、建設業、製造業の一部(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業)、運送業の一部(道路貨物運送業、港湾運送業)、自動車整備業、機械修理業、清掃業

もしくは常時使用する労働者の数が100人以上の製造業(上記以外)、運送業(上記以外)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、 燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業

【衛生委員会】

労働者数50人以上の全業種

自身の事業場の業種や区分がわからない時は、労働基準監督署に確認することをおすすめします。

安全衛生委員会の構成メンバー

委員会の構成メンバーについて、大まかに以下の通りとされています。

【安全委員会】

  1. 総括安全衛生管理者、事業の実施を統括管理する者、これに準ずる者から1名
  2. 安全管理者
  3. 安全に関し経験を有する労働者

【衛生委員会】

  1. 総括安全衛生管理者、事業の実施を統括管理する者、これに準ずる者から1名
  2. 衛生管理者
  3. 産業医
  4. 衛生に関し経験を有する労働者

また、細かい規定については、厚生労働省ウェブサイトも併せてご確認ください。

安全衛生委員会設置の流れ

安全衛生委員会を設置するためには、上記の構成メンバーを事業場から選出する必要があります。安全管理者・衛生管理者はいずれも国家資格であるため、予め取得しているメンバーが必要です。

また、産業医に関しては一般的に事業場として産業医とのコネクションを形成し、スケジュール調整などを経て衛生委員会の際に意見を仰ぐとイメージしてもらえればいいかと思います。

安全衛生委員会の開催回数や議論テーマは?

開催回数

安全衛生委員会の開催回数としては、毎月1回以上開催しなければならないとされています。

安全衛生委員会にて話し合うべき事柄

安全衛生委員会にて話し合うべき事柄は、以下の事項が代表的です。

  • 安全に関して気にかかる、もしくは改善すべき事項
  • 衛生に関して気にかかる、もしくは改善すべき事項
  • 前回までの安全衛生委員会で挙がった事項の対策状況
  • 産業医からのアドバイス
  • 各部署等で行なっている安全・衛生対策の報告
  • 他事業者、他社、他業界などで行われている安全衛生対策や事故事例の共有
  • 各メンバーの気付き等の報告
  • その他安全で衛生的な労働環境を整えるための取り組み等の提案

議論するテーマ例

安全衛生委員会にて議論すべき事項は前述のように多岐に渡ります。
イメージがしやすい様、いくつかテーマの例を列挙していきます。

テーマ例1:各メンバーや部署ごとに気になったヒヤリハットの報告

ヒヤリハットとは「大事には至らなかったものの危険である、もしくは危険性がある」と感じた事柄を言語化する活動で、安全衛生意識の向上や危険箇所を事故が起こる前に対策することを目的として、広く行われているものです。

業種や部署ごとに違いはありますが、日々の業務を遂行する中で「危険だな」もしくは「もしかしたらあそこにこういった危険が潜んでいるかも知れない」と感じた部分を報告していきましょう。

例えば製造現場などでは「足元にコードが乱雑に置かれており、転びそうになった」、事務職などでは「棚の上に多くのものが置かれており、落下してくる危険性がある」といった具合です。それに対し、他のメンバーが感じたことや実行できそうな対策を発言してあげると良いでしょう。

コードの例であれば「コードが絡まっていることが原因で転倒だけでなく火災につながる危険性もある」、「コードをピンと貼り、養生テープなどで床に貼り付けることで対策できないだろうか」、「そういえば発表してくれた場所だけでなく、他の場所でも同様の事象を見たことがある」といった意見が出てくると理想的です。

テーマ例2:各部署ごとに行なっている安全衛生に関する取り組みの報告

各部署ごとに行なっている独自の取り組みなどを共有することも良い安全衛生委員会のテーマとなります。

例えば「業務時間内にスケジュール調整をして事故事例の読み合わせとそれに対する意見交換を行なった」という事例があったとしましょう。他の部署が「その取り組み、良いな」と感じれば取り組みを横展開していくこともできますし、発表した部署だけでは出なかった視点から意見をもらうこともできます。

テーマ例3:精神衛生分野に関して理解を深める

精神衛生に関する分野は安全分野などと比較し、理解が薄くなってしまったり、後回しにされたりしてしまうことが珍しくありません。一人一人が働く中で感じていることや、なかなか話題にしづらいハラスメントや精神疾患などに関して全員が理解を深めていくことが近年のマネジメントでは非常に大事なことであるとされています。

精神衛生分野の問題を放置してしまうと雰囲気の悪化や離職率の増加、生産性の低下など多くの弊害へと繋がってしまいます。長年勤めている職員ほどこういった分野に疎くなってしまうことも多く散見される事例です。「自分たちの頃はこうだった」「うちの会社ではこうやるのが当たり前」と一蹴してしまうのではなく、一人一人の声に耳を傾け、受け入れていくような意識が大切になりつつあります。

また、精神衛生に関する分野は年々新たな事実や症例などが増えてきております。対処法も以前では発見されていなかった様なものも存在しており、新しい情報を取り入れ、日々アップデートしていくことが大切になります。

既にこの3つは議論していて、他のテーマ例を考えていきたいという方は、ネタ探しの方法や各月の代表的なテーマ例などをまとめた以下の記事もご覧ください。

安全衛生委員会を進めていく際の4つの注意点

安全衛生委員会を進める上で、いくつか注意しておきたいことがあります。

1.安全衛生委員会に参加していない職員に話し合われた内容を共有する

1つ目は、安全衛生委員会に参加していない職員たちに、話し合われた内容をしっかりと共有することです。せっかく話し合った事項も安全衛生委員会のメンバーだけにしか共有されていなければ、効果は非常に薄いものとなってしまいます。

また、他のメンバーたちも「蚊帳の外」にされている意識が生まれてしまったり、当事者意識が育たなかったりと良いことがありません。各事業所ごとに様々な情報共有手段があるかとは思いますが、しっかりと周知することを欠かさないようにしましょう。

2.議事録を作成して保管する

2つ目は議事録を作成し、保管しておくことです。厚生労働省ウェブサイトにも「安全衛生委員会で話し合われた事項を記録し、3年間保存しなくてはならない」という主旨のことが掲載されています。

議事録を作成し、保管しておくことで以前どういった事項が話し合われたか、対策に行き詰まった際に過去の話し合いの中に解決のヒントはないかなどを確認することが可能です。後から見返しやすいように専用のフォルダやバインダーなどを用いて、分かりやすく管理しておくと良いでしょう。

また、ここで気をつけておかねばならないこととして、不適切な発言などをしてしまった部分を「ここは不都合だから議事録には残さない様にしよう」といったことをするのはNGとなります。

3.出た意見を否定しない

3つ目は安全衛生委員会の中で出た意見を否定しないことです。製造業や建築業をはじめとした技術力が問われる業種などで起こりやすい失敗として、入ったばかりだったり、技術に関する知識が乏しい人たちの意見を軽視しやすいことが挙げられます。初心者や経験が浅い方にも、その方ならではの視点や危険に関する見え方があります。

これを蔑ろにすると、危険がしっかりと対策されなかったり、それ以降その方達の「発言しよう」という気力をくじいてしまうことに繋がりかねません。全員で良い職場を作っていこうという意識が大切です。

初心者や経験が浅い方も、その方達にできる範囲で勇気と知恵を出して発言してくれていることを忘れてはいけません。

4.事故を起こしてしまったり、ミスをしてしまった人を責めない

4つ目は事故を起こしてしまったり、ミスをしてしまった人を責めないことです。危険な状態や衛生的でない状況を対策し、改善することは大切です。しかし、ミスを起こしてしまった人を責めることは問題の解決には繋がりません。あくまで事象にフォーカスしていく必要があります。

また、責めてしまうと「報告して責められるのであれば報告しないようにしよう」という考えにも繋がってしまうことがあるため、「報告してくれてありがとう、一緒に状況を改善していこう」という意識を持つことが肝要です。

上記4つの注意点に気をつけ、より効果的な安全衛生委員会を運営していきましょう。

まとめ

本記事では安全衛生委員会の目的やテーマ例等について解説いたしました。安全衛生委員会は安全で快適な職場を作るために欠かせないものです。しっかりと運営を行うことで、労働災害の防止や精神衛生の悪化予防など、すべての従業員が安心して働ける職場環境を構築していく第一歩となります。

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元労基署長が考える安全衛生委員会『ネタ/テーマ探しの視点』