安全衛生委員会とは、一定規模以上の事業場において設置しなければならないとされている組織です。しかし、安全衛生委員会は注意しないと形骸化しやすい、会議が煮詰まってしまいやすいという問題もあり、議論する際に工夫を凝らす必要があります。

そこで本記事は、安全衛生委員会のテーマ決めの方法や、煮詰まった際の解決策を紹介していきます。

また、安全衛生委員会で議論するべきネタ/テーマ例や実践的な考え方について、元労働基準監督署署長が解説する動画も無料でご覧いただけますので、本記事と併せて以下からご覧ください。

元労基署長が考える安全衛生委員会『ネタ/テーマ探しの視点』

そもそも安全衛生委員会とは?設置の目的

そもそも安全衛生委員会とはどういったものなのでしょうか。

労働安全衛生法の第十七条と第十八条では、ある一定以上の規模の事業場では「安全委員会」「衛生委員会」を設置して安全で衛生的な職場環境を整えなくてはならないとされています。そして、両方とも設置する事業場においては両者を統合し「安全衛生委員会」として設置してもよいとされています。

安全衛生委員会とは労働者の意見を汲み取り、安全で衛生的な職場環境を整える組織/会合と考えればよいでしょう。

安全衛生委員会で話し合われる内容

安全衛生委員会で話し合うべき事柄は厚生労働省ウェブサイトに詳しく掲載されていますが、わかりやすく噛み砕くと以下の事項が代表的なものとなります。

  • 安全に関して気にかかる、もしくは改善すべき事項
  • 衛生に関して気にかかる、もしくは改善すべき事項
  • 前回までの安全衛生委員会で挙がった事項の対策状況
  • 産業医からのアドバイス
  • 各部署等で行なっている安全・衛生対策の報告
  • 他事業者、他社、他業界などで行われている安全衛生対策や事故事例の共有
  • 各メンバーの気付き等の報告
  • その他安全で衛生的な労働環境を整えるための取り組み等の提案

詳細な内容は前述の厚生労働省ウェブサイトに掲載されているため、必要な場合に参照してみてください。

『議題/テーマがマンネリ化している…』なぜ?

議題やテーマがマンネリ化してしまうという事象は安全衛生委員会に限らず、多くの会議で起こりがちです。初めに申し上げておくと、「似たようなテーマの会議が多くなってしまうこと」は決して悪いことではありません。

一朝一夕では解決できないような議題は時間をかけて解決していく必要がありますし、時期ごとのイベントや気候にまつわるテーマは毎年必ず出てくる問題だからです。

しかし、以下のようなパターンでは議論が停滞してしまう可能性もあるため、「会議が煮詰まってしまっているな」と感じる様な場合にはテコ入れをしてあげる必要があります。

開催することが目的になっている

開催すること自体が目的になってしまい、深い議論を展開することができなくなってしまう場合があります。その場合、定期的にテーマの棚卸しをしてあげると良いでしょう。

時節ネタばかりになっている(毎年同じ内容)

前述の様に、時期ごとのイベントや気候に関わるテーマを毎年行うことは悪いことではありません。

ただし、昨年やそれ以前の年ではどういう問題が起こり、どういった対策を講じ、どういった結果になったかをしっかり洗い出し、PDCAサイクルを回していくことを心がける必要があります。

発言がいつも同じ人になっている

発言が同じ人ばかりになってしまうというのも、会議においてよく起こりがちな問題です。議長や安全管理者・衛生管理者・産業医などは毎回発言の機会が設けられますが、会議の構成によってはそれ以外の人が発言しにくい場合もあります。

そのため、経験の浅い人でも萎縮しにくい様な雰囲気づくりを心がけねばなりません。

また、安全衛生委員会のメンバーは「参加しなければならない役職」以外の人は毎回入れ替えても問題がないため、「毎回同じメンバーばかりで多角的な意見が出てこない」という場合には都度違ったメンバーに参加してもらうのも新たな視点を取り入れる良い方法となります。

安全衛生委員会のネタの考え方は?避けるべき内容とは?

ここまで、安全衛生委員会で陥りがちな落とし穴を避ける方法を紹介してきました。ここからは安全衛生委員会で良いテーマを設定する方法、また避けた方が良い内容について解説していきます。

時事ネタをヒントにする

いつも通りの議題だけでなく、新鮮な話題を取り入れたい時、時事ネタを取り入れてみるのは非常に有効な手段です

例えば、近年話題になっている腸の調子を整える「腸活」やリフレッシュ手段として人気のある「サウナ」などを産業医の意見も仰ぎながら会議を進めていくとよいでしょう。

また、その月にある「〇〇の日」に関連させて理解を深めたり、話し合ったりすることも勉強になります。

例えば3月24日「世界結核デー」に絡めて結核という病気の歴史や予防法を話し合ったり、8月31日「野菜の日」に絡めて日常的に野菜を多く取り入れる方法について語り合ったりすることも、安全衛生意識高揚に一役買ってくれます。

議題にしてほしいネタを社内でアンケートする

いつも参加しているメンバーや議長・運営者だけで議題を決めてしまうのではなく、アンケートをとって各従業員が本当に悩んでいることを掬い上げていくのもオススメの方法です

安全担当・衛生担当だけでは気付きにくい視点から意見を集められ、このアンケートで挙がった意見が労働者たちが本当に話し合ってほしいと考えているテーマとなります。

既存のネタをより深堀する

安全衛生委員会のテーマの幅を広くしていくことはとても大事です。しかし、1つのテーマについて深掘りし、原因や対策を詳しく考えていくこともおろそかにしてはいけません

もちろん時間との兼ね合いなどもあると思いますので、議長や運営者がうまく会議の舵をとり、バランスをみながら進めて行ってください。

他事業所、他社、他業界などの事例を参考にする

他社や他業界の事故事例や取り組み事例を参考にするのも有効だと言えます。

例えば、航空業界の飛行機事故からはシステムのミスやコミュニケーションの行き違いが大きな問題を引き起こすことを学べます。また飲食業界のワンオペ問題からは、人員を適切に配置する重要性などを知ることが可能です。

そのほかにも、自分たちの事業所だけで取り組みや解決策の良いアイデアが出ない場合には、他事業所などにもヒアリングをして意見を仰いで見るのも良いでしょう。

さまざまな事故の現場を見てきた元労基署長が、実際に起きた事故とその原因について考察している動画を無料でご覧いただけますので、こちらも参考としてご活用ください。

元労基署長が解説!
事故の現場から見た安全管理のこれから

安全衛生委員会で避けるべき内容や言動

安全衛生委員会で避けた方が良いテーマというのは基本的にありません。ただし、安全衛生委員会で避けねばならない言動は3点ほど存在します。

1つ目は「ミスや事故を起こしてしまった人を責めること」です。原因の深掘りをすることは大事ですが、あくまで対策をすることが目的です。人を責めても良いことは何もありませんし、「次回から報告しない様にしよう」という思考に繋がるため、絶対に避けましょう。

会議では特定の人を詰める様な物言いをしてしまう人や組織が時々存在します。そういった職場では心理的安全性が保たれなくなり、「安全衛生委員会」を行なっているのに安全性や精神衛生が損なわれるという本末転倒な結果に繋がります。

くれぐれも人を責めることはよくない行為だという認識をしっかりと持つことが必要です。

2つ目は「ヒューマンエラーを精神論や意識だけで解決しようとすること」です。人間はミスをする生き物ですし、暑さ寒さ、疲れ、その時の状況などによっても判断を誤ることがあります。

そのため、問題の原因を「注意が散漫になってしまった」、結果を「意識を高めて作業に集中する」という方向に持っていくのは賢明ではありません。システムや人員配置などを工夫し、精神論だけに頼らない対策を講じていく必要があります。

このようなヒューマンエラーは安全だけでなく、品質不良にも影響を及ぼす原因となります。このようなヒューマンエラー対策について、専門家が解説する動画を以下よりご覧いただけますので、本記事と併せてご活用ください。

人に起因する品質不良の未然防止と具体的な対策

3つ目は「デリケートなことを無理やり聞き出したり、個人の自由であることを強制すること」です。安全衛生委員会では体のことや心のこと、病気のこと、ハラスメントにまつわることなど非常に繊細な事象を取り上げる場合があります。

ここで当事者を呼び出し、本人が話したくないことを話させる様なことは絶対にしてはいけません。また、健康診断やストレスチェックの結果などについて、個人が断定できてしまう様な発言も避けましょう。心に傷をつけてしまうことになりますし、これらの行為自体がハラスメントです。他者を慮る意識を忘れない様にしましょう。

また、ワクチンや予防接種、献血など個人の自由であることを強制することもNGです。無論「みんなはやるけど、お前もやるよな?」の様な半強制的な聞き方もご法度です。高いコンプライアンス意識を持って会議に臨んでください。

その他、具体的なネタ/テーマ例の考え方について、元労働基準監督署署長が解説する動画を無料でご覧いただけますので、安全衛生委員会のマンネリ化を脱したい方はぜひ以下の動画もご覧ください

【2023年最新版】各月のネタ/テーマ例

各月のテーマ例について、元労働基準監督署署長で「新人・文系管理者のための安全衛生管理基礎のキソ」著者である村木 宏吉氏にまとめていただきました。各事業所で安全衛生委員会を行う際のヒントとしてご活用ください。

この表は別記事『安全衛生委員会の実務とネタ選びのポイント』より抜粋しています。専門家視点でのネタ/テーマの選び方や、安全衛生委員会の進め方を解説いただいていますので、併せてご覧ください。

 

期間

行事内容

1月12月15日~1月15日年末年始無災害運動
12月10日~1月10日年末年始の輸送等に関する安全総点検
1月15日~21日防災とボランティア週間
2月2月1日~28日省エネルギー月間
2月1日~3月18日サイバーセッキュリティー月間
3月3月1日~7日春季全国火災予防運動
3月1日~7日車両火災予防運動
3月1日~7日建築物防災週間
3月1日~8日女性の健康週間
4月4月6日~15日春の全国交通安全運動
4月7日世界保健デー
5月5月31日世界禁煙デー
5月31日~6月6日禁煙週間
6月6月1日~30日全国安全週間準備期間
6月1日~30日男女雇用機会均等月間
6月1日~30日土砂災害防止月間
6月1日~30日外国人労働者問題啓発月間
6月1日~30日環境月間
6月1日~7月10日労働保険年度更新申告期間
6月4日~10日歯と口の健康週間(4日は虫歯予防デー)
毎年6月第2週危険物安全週間
6月10日~16日火薬類危害予防週間
7月7月1日国民安全の日
7月1日~7日全国安全週間
7月1日~7日全国鉱山保安週間
7月1日~31日熱中症予防強化月間
7月10日労働保険年度更新申告期限
8月8月1日~31日電気使用安全月間
8月1日~31日食品衛生月間
8月30日~9月5日防災週間、建築物防災週間
9月9月1日防災の日
9月1日~30日全国労働衛生週間準備期間
9月1日~30日心とからだの健康推進運動
9月1日~30日健康増進普及月間
9月1日~30日全国作業環境測定・評価推進運動
9月9日救急の日
9月10日~16日自殺予防週間(10日は自殺予防デー)
9月21日~30日秋の全国交通安全運動
9月24日~10月1日環境衛生週間
9月30日クレーンの日
10月10月1日~7日全国労働衛生週間
10月1日~31日体力つくり強調月間
10月1日~31日健康強調月間
10月10日目の愛護デー
10月第2月曜日体育の日
10月17日~23日薬と健康の週間
10月23日~29日高圧ガス保安活動促進週間
11月11月1日~30日特定自主検査強調月間
11月1日~30日過労死等防止啓発月間
11月1日~30日ゆとり創造月間
11月1日~30日労働保険適用促進強化月間
11月1日~30日職業能力開発促進月間
11月1日~30日品質月間
11月5日津波防災の日
11月8日ボイラーデー
11月9日~15日秋季全国火災予防運動
11月10日技能の日
11月25日を含む1週間医療安全推進週間
12月12月1日~翌年1月15日年末年始無災害運動
12月10日から1月10日年末年始の輸送等に関する安全総点検

現場改善ラボ『安全衛生委員会の実務とネタ選びのポイント』より抜粋)

 

まとめ

本記事では安全衛生委員会のテーマを決める方法をご紹介いたしました。一つのテーマを深く突き詰める、他社や他業界を参考にしてみるなど多くの切り口が存在しています。

また、会議が煮詰まってしまった時にはメンバーを一部入れ替えてみたり、話しやすい雰囲気を作ってみたりと工夫を凝らすことで会議はより有意義なものとなります。ご自身の事業所で取り入れやすい工夫や方法を活用し、安全で快適な職場を作り上げていってください。

現場改善ラボでは労働災害の観点で、元労働基準監督署長の村木氏をお招きし、実際の事故現場から見た安全管理について考えるウェビナーを開催しました。開催した内容は無料でご覧いただけますので、本記事と併せてご覧ください。

元労基署長が考える安全衛生委員会『ネタ/テーマ探しの視点』