更新日:2023.03.13


人が作業を行う場合には、常にヒューマンエラーの発生を考慮する必要があります。ヒューマンエラーを放置してしまうと、同じ作業をやり直したり、後工程に迷惑をかけ大きな損失を受けたりすることがあります。この記事では、ヒューマンエラーの概要とヒューマンエラーが発生する原因、その対策について解説します。ヒューマンエラーについて悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

現場改善ラボでは、ヒューマンエラーが発生する原因、再発防止するための対応策を解説する動画も無料でご覧いただけますので、本記事と併せてご覧ください。

各種事例に学ぶヒューマンエラーの原因分析と対策法

ヒューマンエラーとは?

ヒューマンエラーとは、人間による行動を起因として発生した失敗や事故のことです。日本産業規格(JIS Z 8115:2000)では『意図しない結果を生じる人間の行為』と表現されています。

ヒューマンエラーは人為的ミスと表現することもでき、人が何かの作業をする際にミスをしてしまうことに加えて、本来やるべきだったことをしなかった場合もヒューマンエラーに含まれます。

これまでの生活や仕事の中で、大小の違いはあれ、ミスをしたことがない人はいないでしょう。特に製造業の現場では、複数人が関与してさまざまな作業工程を行うことが多く、すべての人がミスなく完璧に仕事をこなすには仕組みづくりが必要です。

そこで、ヒューマンエラーを起こさないように対策を施す必要があります。また、ヒューマンエラーが発生してしまった際の影響を最小限に抑えるために、ヒューマンエラーの発生を速やかに検知する工夫も効果的です。

ヒューマンエラーのメカニズムと5つの発生要因

ヒューマンエラーの抑制や検知を的確に行うために、なぜヒューマンエラーが発生してしまうのか?その要因を把握する必要があります。ここでは、ヒューマンエラーのメカニズムと5つの発生要因を整理していきます。

ヒューマンエラー発生のメカニズム

ヒューマンエラーは、人の行動をきっかけとして発生するメカニズムです。人の行動を時系列で考えると、入力過程/思考過程/出力過程に分類できます。これらの過程のどこかでミスが発生すると、ヒューマンエラーにつながります

ヒューマンエラーが人の行動の過程におけるどのタイミングで発生しているか、そのメカニズムを把握することは、対策を行う上で重要な要素です。

入力過程

入力過程とは、人が行動を起こすきっかけとなる外部からの入力を取り込む過程です。具体的にはマニュアルの読み間違いや、教育担当者から口頭で教えてもらった内容の聞き間違いによって、ミスやヒューマンエラーが発生することがあります。

思考過程

思考過程とは、入力された情報に対して行動を起こすかどうか、どのような行動を起こすかの思考や判断をする過程です。具体的にはマニュアルの内容が古い場合、最新の情報を事前に確認すべきだったところを確認せずに行動に移してしまうと、ヒューマンエラーにつながります。

出力過程

出力過程とは、思考過程の結果を行動に移す過程です。例えば、ルール通りに操作をした場合でも、エクセルに打ち込む数字の桁数が間違っていたり、入力箇所がずれていたりすることで、ヒューマンエラーやミスが発生します。

5つの発生要因

ヒューマンエラーは入力/思考/出力の3つの過程で発生していますが、どのような要因でミスが発生してしまうのでしょうか?ここでは発生要因の中で、代表的な5つの項目について解説します。

不注意

不注意は、ミスをするつもりではなかったのに無意識に発生してしまうものです。うっかりミスとも呼ばれ、作業手順書に記載されている事項の見落としや、思い違いがあった場合に発生します。

特に、手順が決まっているような定常業務で発生しやすい要因です。このような業務は繰り返し同じような作業になるため、集中力の低下や注意力不足に陥りやすい環境といえます。

誤認識

誤認識は、作業手順などの物事を最初は理解したものの、その後に適切な理解ができない状態に陥り、認識を誤ってしまうものです。具体的には先入観による思い込み、記憶のド忘れといった場合に生じます。誤認識は、誤った認識に気づくのが難しいため、後から振り返ってもヒューマンエラーの原因として明確にするのが難しい項目です。

不慣れ

不慣れは、初めて行う業務や経験が不足している業務に取り組む場合に生じるものです。その業務に対して、知識不足や不慣れであることからポイントがわからず、ミスやヒューマンエラーにつながることがあります。

特に、その業務を初めて行う人や経験が少ない人に発生しやすいため、注意が必要です。一方で、この経験不足は現場の教育体制を整備することで補える要素であるともいえます。

慣れや軽視

類似の業務に関する経験を積み、慣れてきたタイミングでは、慣れや軽視によるミスやヒューマンエラーが生じます。最初の時期は慣れるまで、時間をかけてミスのないように作業の内容や念押しの確認をしていたものの、「慣れてきたし大丈夫だ」と考えて、従来の作業工程を省いたり変更してしまうことで発生します。

疲労

正しい知識を持ち、正しい手順で手抜きをせずに作業を行うつもりがあったとしても、疲労が蓄積して注意力や判断力が低下している状態では、ヒューマンエラーが生じます。具体的には、繰り返し同じ作業を継続して行う場合や、長時間労働が続いている場合、一個人に大きなストレスや緊張がかかる場合に発生するため、適度に休憩を行えるような現場の環境づくりが必要です。

製造業におけるヒューマンエラーの対策方法12選

ここまで、ヒューマンエラーの発生要因とメカニズムを解説してきました。では、具体的にどのような対策を行えばよいのでしょうか?単に対策といっても、ヒューマンエラーをゼロにすることは現実的に困難です

ヒューマンエラーの対策を行う際、『発生を回避する対策』を考えるのは勿論のこと、発生した際の影響を抑えるために『速やかに発生を検知する対策』もセットで考えることで最大限ゼロに近づけることが可能です。

ここからはヒューマンエラーの対策方法ついて、発生を回避する対策と速やかに発生を検知する対策に分類して12の方法をご紹介します。

発生を回避する対策一覧

ヒューマンエラーの対策方法12選のうち、ここでは「発生を回避する対策」を8つご紹介します。

設備保全を行う

もしも作業現場で、年季の入った設備を使用している場合、定期的な設備保全を行うことがヒューマンエラー対策につながります。同様の設備を長期間使うほど、不具合などによって生産ラインが停止する頻度が増加します。

生産ラインが停止するたびに、設備の復旧対応や生産性維持で長時間労働が発生するため、疲労によるミスやヒューマンエラーの発生につながりかねません

このような状態を招かないためにも、予防保全や予兆保全、事後保全といった設備保全を定期的に行うことで、突発的に人手が必要になる場面を回避することができます。

機械やITツールの導入

ヒューマンエラーが発生しやすい作業に対して、自動化できる機械や補助的に使用が可能なITツールを導入することで対策につながります。ミスが発生しやすい工程を機械やツールといったハードに置き換えることで、作業をなくしたり簡略化することが可能です

一方で、多くの場合、導入に初期費用が必要なため、費用対効果を十分に検討する必要があります。

ソフト面での対策

ソフト面の対策とは、新たな設備やツールなどを導入せずに、既にあるリソーセスをうまく活用することで、ヒューマンエラーを抑制する対策です。

5Sの徹底

5Sとは、整理/整頓/清掃/清潔/躾(しつけ)を総称した言葉で、トヨタ自動車で有名な『トヨタ生産方式』を下支えする重要な考え方の1つです。

工場などで5Sの考えが徹底されていない場合、ヒューマンエラーの要因となる事象が発生する可能性があります。具体的には、作業開始前の必要な書類探しで焦り不注意やご認識につながることが考えられます。

5Sを徹底することで、作業に集中できる環境の構築と維持をすることが可能です。

ヒヤリハットを共有する

ヒューマンエラーの予防には、自社内で発生したヒヤリハットを従業員に共有することも効果的です。ヒヤリハットとは業務中に危険と感じた出来事を指し、重大な事故につながりかねない状況を表します。

そのヒヤリハットはなぜ起きたのか?原因を深堀したうえで共有することで、同じ作業や工程を行う人に対して注意喚起につながるため、ミスやヒューマンエラーを回避する対策の1つです

共有にはヒヤリハット報告書が用いられるケースが多いです。この報告書の書き方は、別の記事で詳細に解説していますので併せてご覧ください。

研修の実施/マニュアルの整備

不慣れなことによるヒューマンエラーを回避するためには、作業前に研修やマニュアルによる教育を行うことが効果的です。

また、複数人が行う業務で作業手順が明確ではない場合、作業者ごとで手順が異なることでミスが発生する可能性があります。そこで、誰でも同じ手順で作業を完了できるように、マニュアルを整備することが効果的な対策の1つです。

現場で活用されるマニュアルの作成方法は、以下の記事で詳細に解説しています。併せてご覧ください。

危険予知訓練を定期的に実施する

ミスやヒューマンエラーを対策するには、どのような場面で発生するのか?潜在的な要因を予測する力をつけることも効果的です。このような予測する力を養う方法が、危険予知訓練(KYT)と呼ばれる手法です。

危険予知訓練とは、作業現場で重大な事故やケガにつながる危険を予測し、適切な対策を講じる能力を高めるトレーニングです。小集団と呼ばれるグループを組み、写真やイラスト、動画などで特定の現場を共有し、そこに潜む危険を話し合いを通じて見つけて対応策を見極めていきます。

危険予知訓練の具体的な進め方や例題は、以下の記事で解説しているので併せてご覧ください。

フールプルーフ/フェールセーフの考え方を導入する

フールプルーフとは、作業者が誤った使い方をできないようにしたり、誤った使い方をしても影響が発生しないようにしたりする考え方です。例えば刃物を用いる機械の場合、両手で掴んで操作をしないと作動せず、話すと停止するような機構が挙げられます。

フェールセーフとは、危険な事象が起きることを予め想定し、対策を講じておく考え方です。製造現場のさまざまな設備で導入されている安全装置のような、危険を回避するような機構が該当します。しかし安全装置があることで、安全への意識がおろそかになってしまう恐れもあるため、他の対策と併用することが得策です。

発生を検知する対策一覧

ヒューマンエラーの発生を検知する手段には、さまざまなものがあります。どの作業内容に対しても対応可能な汎用的で優れたものはないため、今回紹介するような内容を、自社の作業内容と照らし合わせることで、的確に検知できる手段を構築する必要があります。

ヒューマンエラーの報告を徹底する

ヒューマンエラーが発生した際に報告をすることで、一度起きた事象を分析してなぜ発生したのか?を考えることができます。また、具体的な対応策まで検討したうえで社内でも報告をすることで、同じ業務に従事する従業員にもエラーが発生してしまうリスクを減らすことができます。

チェックシートの活用

チェックシートは、ヒューマンエラーの発見に効果的で広く使用されています。作業が終了した後に、その作業のポイントをリスト化した帳票を確認しながら、それぞれの項目にチェックマークを付けていきます。時間は必要ですが、自身の作業を客観的に確認できる点がメリットです。

複数人によるチェック体制の構築

チェックリストが使えないような工程では、複数人の作業者がチェックをすることで、ミスに気付ける確率が高まります。自身の作業を客観的に振り返るのは難しいため、自分で再度チェックしても、思い込みなどの影響で気づけません。

ただし、生産性の低い仕事に時間を使うことになるため、複数人でのチェック体制を構築するのは、必要最低限の重要な工程に絞る必要があります。また、他の人がチェックしているから大丈夫という安心を生むケースがあるため、他の対策と併用することがより効果的です。

検査工程の設置

特に製造業の工場では一般的に行われている対策の中に、検査工程の設置があります。製造された製品が、性能、形状、外観などの観点で問題ないかを確認する作業工程であり、治具やカウンター、さまざまなセンサー、作業者による目視などで検査が行われています。

同様に、生産現場以外でも検査のプロセスを設置することは可能です。入力チェックをする場合には、エクセルマクロなどを活用した検査プログラムを構築することで、効率的に確認できます。

ヒューマンエラーにつながるミスを回避する3つのポイント

ここまでヒューマンエラーに対する具体的な対策をご紹介してきました。主に仕組みづくりの内容が中心でしたが、ヒューマンエラーにつながるミスを回避するためには、仕事をする環境/風土にも目を向けることがポイントです。

現場でどのような環境/風土を醸成すればよいのか?ポイントを3つご紹介します。

現場で用いる言葉や発言に気を付ける

1つ目のポイントは「言葉や発言に気を付ける」という点です。新人や若手に対して教育を行う際、現場に慣れている従業員は専門用語やあいまいな表現を用いる、内容を省略してしまうといったケースがあります。新人や若手側は完全に理解することができず、誤認識を起因としたミスにつながってしまいます。

ミスを回避するために言葉や発言に気を付ける以外に、教育を動画などに置き換えることで内容の標準化をするような考え方も効果的です。

また同時に、パワハラとも捉えられかねない人格を否定するような言葉や発言はしないようにしましょう。発言を受け取った側の自信喪失やストレス負荷につながり、不注意や誤認識、疲労などを起因としたミスのきっかけになります。この場合、ヒューマンエラーとはまた別の問題にも発展するのでやめましょう。

ミスを指摘する敷居を下げる

指摘や声かけがあることによって、ミスに気づくきっかけになります。もしも現場が声かけをしにくい環境の場合、ミスを回避する目的で声かけしやすい文化を醸成することが効果的です。そのような環境にすることで、現場の従業員は勿論のこと、自分自身が気づかないうちに起こしていたミスを指摘してもらえる環境になります。

想定外を想定する意識を持つ

想定外というと、考えてもいなかった事象が起きたことというイメージがありますが、本当にそうなのか?改めて考える必要があります。想定外と呼ばれるものの中には、予め想定はしていたものの起きないだろうという思い込みや、対策に多大な労力がかかることから見送りになったようなリスクが含まれているケースがあります。

このようなリスクも見逃さないことで、ヒューマンエラーにつながるようなミスを回避することができます。

ヒューマンエラーを効率的に対策した手法「動画マニュアル」とは?

ここまでさまざまなヒューマンエラー対策を解説してきました。しかし対策によっては、導入コストが大きくかかったり、現場の責任者など一部の従業員に大きな負荷がかかるといった課題があります。

そこでコスト面のハードルを下げ、現場の負荷も減らしつつ、効果的かつ効率的にヒューマンエラーの対策が行える手法に「動画マニュアル」があります。動画は文字よりも伝えられる情報量が多く、普段の業務を撮影してマニュアル化することで、OJTの負荷の削減、業務の理解力向上といった改善につながります

動画に対しては「編集が難しそう」という印象をお持ちかもしれませんが、動画教育ツールtebikiでは誰でもかんたんに動画編集が可能です。実際、導入後に現場主体で数百本単位で動画マニュアルを整備した事例もあります。

tebikiを導入する児玉化学工業株式会社では、ヒューマンエラーを起因とした不良品率の増加が課題でした。紙の手順書の作成に工数がかかるものの、カン・コツなど細かいニュアンスが伝えられず、業務品質のバラつきを生んでいました。また、現場に外国籍の従業員がいたこともあり、紙での情報共有に限界がありました。

そこでtebikiを導入し動画マニュアルを作成したことで、作成工数を紙の1/3に減らしつつ、だれでも気軽に見て学べる環境を構築しました。またtebikiの字幕翻訳機能を用いたことで、外国籍の従業員も母国語で学べる環境を整えられました。

この結果、業務品質のバラつきを解消し、ヒューマンエラーを起因とした不良品率の半減を実現しました。動画教育ツールtebikiの概要は以下で詳細に解説していますので、併せてご覧ください。

3分で分かる『tebikiサービス資料』

まとめ

作業工程ごとにヒューマンエラーが発生するメカニズム・要因を明確にしてから適切な対策を取らないと、後工程や自社に大きな影響を与える可能性があります。この記事で紹介したように、ヒューマンエラーの対策には、その抑制や検知という切り口で、さまざまな項目が考えられます。

予算や人員など、活用できるリソーセスを考慮しながら、各工程に合わせた対策を取ることで、ヒューマンエラーの影響を最低限に抑えることが可能です。

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