トヨタ生産方式はトヨタ自動車が編み出した合理的な生産方式です。トヨタ生産方式が産声を上げたのは戦前に遡りますが、今なお多くの企業がトヨタ生産方式を採用しています。そこで今回はトヨタ生産方式概念や2本の柱、導入方法やメリット・デメリットを解説します。

現場改善ラボでは、トヨタ生産方式の基礎知識と現場改善の着眼点について、トヨタ英国製造やトヨタオーストラリアの経営/社長を歴任し、さまざまなトヨタの現場を知る小森 治氏が解説する動画を無料で公開しているのでこちらもご覧ください。

トヨタ生産方式と現場改善
~産業の垣根を超えた改善の着眼点~

トヨタ生産方式(TPS)とは?

まずはトヨタ生産方式(TPS)の基礎知識を確認しておきましょう。ここではトヨタ生産方式の概要や、その他の生産方式との違いについて解説します。

トヨタ生産方式の概要

トヨタ生産方式は「TOYOTA Production System」の略です。トヨタ生産方式は、トヨタ自動車が徹底的にムダを排除して原価を低減するために編み出した生産方式です。トヨタ生産方式といえば、かんばん方式やあんどんといった用語が有名ですが、それらはトヨタ生産方式を実現するための道具にすぎません。

重要なことはトヨタ生産方式の根底にある理念を理解して、自社に合った形で導入することです。トヨタ生産方式は誕生から60年以上が経過して、顧客のニーズや時代の流れに即して変化を続けてきました。現在のトヨタ生産方式は、トヨタにぴったりとフィットするものであり、そのまま他の企業に当てはめてもうまくいきません。

本記事ではトヨタ以外の企業がトヨタ生産方式の導入を検討するときに、知っておくべきことと導入方法について説明しますのでぜひ最後まで目を通してください。

トヨタ生産方式と従来の生産方式の違い

トヨタ生産方式と従来の生産方式の大きな違いは「在庫についての考え方」といえます。トヨタ生産方式が広く知られるまでは、多くの企業が、同一の製品を大量に生産するフォード方式という生産方式を採用していました。フォード方式では、コストを抑えながら質が高い製品を製造可能です。

ところが、フォード方式には大量の在庫を抱えるというリスクがあります。トヨタ自動車がトヨタ生産方式を導入する前は、在庫を抱えており時としてその在庫が経営を圧迫していました。そこでトヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎は、作りすぎない生産方式を試行錯誤しながら現場に導入することにしたのです。

トヨタ生産方式の目標は、ムダな在庫やムダな作業等を徹底的に削減することです。生産現場におけるムダを7つに分類して削減することを「7つのムダ」と呼び、トヨタ生産方式を実現するために必要不可欠な考え方です。

トヨタ生産方式における2本の柱

トヨタ生産方式の理念の柱は、「ジャストインタイム」と「自働化」です。とくにジャストインタイムはJITと呼ばれ世界中の企業がそのエッセンスを取り入れるほど高い評価を得ています。ここではジャストインタイムと自働化の概要についてわかりやすく解説します。

必要なものを必要なときに必要なだけ調達する「ジャストインタイム」

ジャストインタイムは、お客様が必要なものを必要なだけ生産することを指します。ジャストインタイムでは、対顧客だけでなく工程内でも必要なものを必要なだけしか作りません。したがって、完成品だけでなく仕掛品や原材料、部品等の在庫も最小限です。ジャストインタイムを実現することで、最低限の在庫で、顧客のニーズを満たすことができます。

ジャストインタイムの導入は、「平準化生産」ができていることが前提です。そのうえで以下の3原則を満たす必要があります。

・工程を流れ化すること
・ピッチタイムを決めること
・後工程引き取りを徹底すること

ジャストインタイムの中で、後工程引き取りを実現する方法が「かんばん方式」です。ジャストインタイムではスムーズかつムダのない流れを実現できます。

ジャストインタイムの詳しい説明については、以下の記事もご参照ください。

機械設備に人間の知恵をプラスする「自働化」

トヨタの自働化の自働はニンベンがついた自働です。トヨタ生産方式では、後工程に不良品を送らないため、省力化を進めるために、製造機械に自動停止機能を付けます。機械の動作や製品の異常を検知して、自動的に稼働を停止させる装置です。その上で、人間が簡単に機械を停止できる仕組みも備えています。これらを総合して、自働化と呼んでいます。

トヨタ生産方式で自働化が重視される理由は、従来の方法では不良品の大量生産を防ぐことができなかったからです。人を介さずに高速で製品を作る機械の多くは、不良を検知することができず、不良品の山を築いてしまいます。そこで不良品が量産されないように、生産を停止する仕組みを作ったのです。

自働化を支える仕組みのひとつが「あんどん」です。不良や異常が発生した工程はすぐさま「あんどん」を点灯させてトラブルの発生を他の工程に知らせます。そして完全にラインを停止させて、その場で担当者達が原因を究明して再発防止策を講じるのです。

またトヨタの自働化では新たな機械を導入する際は、使いやすさや段取りなどがよりよくなるように工夫をしてから導入することが推奨されています。「ここにこの治具を付けたらいいのではないか」「暗くて製品が見えにくい部位があるからライトを追加しよう」という風に、現場で検討してから工程に合う形で導入するのです。これも自働化のひとつといえます。

トヨタ生産方式における4つの流れ

トヨタ生産方式では、ジャストインタイムを実現するための方法のひとつであるかんばんや、自働化の道具であるあんどんなど様々な方式を組み合わせて、「徹底的なムダな排除や低価格かつ高品質な製品」の提供を実現しています。

しかし、ジャストインタイムや自働化を徹底するだけでは、これらの目標は達成できません。トヨタ生産方式において重要なのは、ジャストインタイムや自働化を行いながらカイゼンを行い、最適な生産方式を模索することです。ここではトヨタ生産方式のカイゼンを巡る流れについて解説します。

・ジャストインタイムによってムダがわかる
・自働化によって課題が可視化される
・「なぜ」を5回ぶつける
・カイゼンの実施

ジャストインタイムによってムダがわかる

ジャストインタイムのサイクルを回すことで、現場のムダがわかります。トヨタはムダを7つのムダに分類しています。それが「加工、在庫、作りすぎ、手持ち、動作、運搬、不良/手直し」のムダです。こういったムダを徹底に排除することで、作業効率や品質は向上します。

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『7つのムダ』を見つける視点と実践

自働化によって課題が可視化される

自働化では、製造機器にトラブルが生じたり、不良が発生したりすると機械が自動で停止します。担当者が機械を止めることもあります。そして、あんどんを点灯させてラインが停止していることを明示します。

またこれはかんばんに関連する可視化ですが、かんばん方式では工程の進捗状況が一目瞭然です。「暇な工程と仕事が溢れている工程」が同一ラインに存在しているとすれば、それはどちらかの工程に課題があります。

このようにトヨタ生産方式では、管理職だけでなくすべてのメンバーが課題や進捗状況を把握できるのです。

課題に対して「なぜ」を5回ぶつける

トヨタ生産方式のキモは「なぜを5回繰り返すこと」です。ムダや課題を発見したときは、解決策を生み出すための「なぜ×5回」を実施します。この手法をなぜなぜ分析と呼びます

関連記事:改善につなげる『なぜなぜ分析の進め方』は?鉄則や落とし穴、事例を解説!

たとえば、「アルミ製切削部品の打痕不良が多い」という課題があるとします。まずは「①なぜ打痕が生じるのか」と問いかけます。すると「担当者が梱包するときに、製品同士がぶつかっていること」だという原因が明らかになりました。今度は「②なぜ製品同士がぶつかるのか」と考えます。すると「製品を梱包する場所が狭いからだ」ということがわかりました。「③なぜ製品を狭い場所で梱包するのか」と問いかけると「本来の作業台は仕掛品置き場になっていて、使えないから空いている場所を探したから」という答えが返ってきました。「④なぜ作業台に仕掛品を置いているのか」と聞くと、「新しく受注した製品だから、まだ仕掛品や完成品の定位置が決まっていない」ということがわかりました。

「なぜ×5回」はあくまでも目安です。今回例示した「アルミ製切削部品の打痕不良」については、「新製品の仕掛品を本来の作業台に置いていたため、完成品を梱包する場所が奪われてしまい、打痕が発生しやすくなった」ことがわかりました。この「なぜ×4回」ではアルミ製切削部品の打痕不良の問題を解決できただけでなく、新製品に関する定位置問題も解決できます。

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なぜなぜ分析 ~事実の把握と論理的つながり~

カイゼンの実施

カイゼンはジャストインタイムや自働化によって洗い出された課題に対する解決策です。カイゼンでは「人、物、設備」に着目して、見直しをはかるのがセオリーです。カイゼンすべきことはすでに洗い出されていますので、あとは解決するだけといえます。「なぜ×5回」はカイゼンのための道具の1つです。実際には現場で「なぜ」を繰り返しても、原因の究明に至らず、管理者や他の部署のスタッフの力が必要になることもあります。重要なのはすべての従業員が現状を否定して、ムダを排除するという意識を持つことです。

「人」についてカイゼンをする場合、まずは標準作業票を作成するところから取りかかります。標準作業票は作業員ひとりにつき1枚必要です。標準作業票には、作業内容やピッチタイム、作業の順序や使用する機械の配置等を記載します。標準作業票は紙でなくとも、動画や紙+写真で記録しておいても問題ありません。全員の標準作業票を作成すると、ムダな動きや作業のバラツキが明らかになり、効率的に生産できるようになります。

標準作業票を軸にしたカイゼンを重ねていくと人員が余るようになりますので、工程ごとに管理者を配置できるようになることもあります。管理者は工程全体をマネジメントするだけでなく、いざというときのピンチヒッターにもなり得ます。こうして生まれた余裕が、生産の安定性にも繋がるのです。

トヨタ生産方式のメリット/デメリットは?

トヨタ生産方式はトヨタにとっては最適な生産方式ですが、他の企業にとってデメリットになり得ることもあります。ここではトヨタ生産方式のメリットとデメリットを比較してみましょう。

トヨタ生産方式のメリット

トヨタ生産方式を導入するメリットは、ムダの排除による原価率の低減や過剰在庫の削減、人員配置の最適化などによる利益率の向上です。またトヨタ生産方式は、社員の自主性が育つ生産方式でもあります。

洗い出された課題について、現場で「なぜ」を繰り返して自ら解決していきますので、社員は課題を発見、解決していく姿勢が培われるのです。

トヨタ生産方式のデメリット

トヨタ生産方式のデメリットを1つあげるとするならば、「自社に合った形で導入することの困難さ」です。トヨタ生産方式にはジャストインタイムを実現するためのかんばん方式や自働化のあんどんなど、他の企業にとって見慣れないツールが多数含まれています。これらのツールを導入することで、トヨタ生産方式を実現できると考えがちですが、実際にはかんばん方式等を導入しても、トヨタ生産方式を実行できているとはいえません。

かんばん方式は後工程引き取り型の在庫を持たない生産方式を実行するための道具のひとつです。したがって、トヨタ生産方式=かんばん方式というわけではなく、会社によってはかんばん方式を導入しなくても、トヨタ生産方式を実現できることもあります。

トヨタ生産方式の導入を成功させるには?

トヨタ生産方式の導入を成功させるために必要なことはトヨタ生産方式の考え方を理解することと、ジャストインタイムの大前提となる平準化生産を実現することです。平準化生産を成功させるためには、顧客の注文がある程度見通しがつき一定していること、もしくは顧客が待ってくれることが必要です。しかし、多くの中小製造業では元請けの、ランダムな急納期の注文に対応するために多数の在庫を抱えており、平準化生産とはほど遠い状態です。

トヨタ生産方式を導入したいと管理側が考えるのであれば、まずは顧客に安定して注文を出すように交渉をしましょう。発注の安定化が難しければ、確報に近い内示の開示でも構いません。1か月程度を見通せる発注数がわかれば、平準化生産の目処が立ちます。

平準化生産の道筋を付けることと同時並行で進めるべきことは「4Sの実施」「意識的に従業員間のコミュニケーションを取ること」です。4Sとは整理、整頓、生活、清掃のことをいいます。きれいに整っていない現場では、ものを探すだけのムダな時間や作業が生じてしまい、生産性が低下します。

また従業員間の円滑なコミュニケーションは、トヨタ生産方式に欠かせません。トヨタ生産方式では、現場での「なぜ」の繰り返しとカイゼンが必須ですが、そのためには従業員同士が日頃からアイデアを出しやすい雰囲気を作る必要があります。

トヨタ生産方式の導入は、一朝一夕で実現することはできません。まずは基礎を振りかえり、経営者サイドだけでなく従業員側の意識も変えていきましょう。

まとめ

トヨタ生産方式は、ジャストインタイムと自働化を2本柱とするトヨタ自動車独自の生産方式です。トヨタ生産方式の目標は徹底したムダや在庫の削減にあります。トヨタ生産方式はトヨタにフィットするように考えられたものであり、そのままの状態で他の企業に当てはめることはできません。しかしトヨタ生産方式の概念を理解しつつ、自社の形に合うように修正を加えながら1つずつ取り入れてみるとよいでしょう。

概念を理解するための参考情報として、現場改善ラボで公開している専門家による以下の動画もご覧ください。

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