顧客が要求する品質は厳しくなることはあっても、緩くなることはありません。多くの製造現場でも年々厳しくなる品質基準をクリアするために、改善活動に力を入れています。
これをご覧の皆さまの中にも、「会社や上司から改善活動を任された」という方もいるでしょう。品質改善にはフレームワークとなる手法がいくつか用意されており、今回は「新QC七つ道具」について、各手法の活用ポイントなどを解説します。
品質不良の原因にはヒューマンエラーも挙げられます。現場改善ラボでは、ヒューマンエラー発生メカニズムと除去する方法を専門家が解説する動画を公開していますのでご覧ください。
新QC七つ道具について
あらゆる業界の製造現場における改善活動には、5SやPDCAなどのさまざまな手法やフレームワークが活用できます。その中の一つに「新QC七つ道七」があります。ここでは新QC七つ道具とは何か?また、そもそもQCとは何かについて解説します。
そもそもQCとは?
新QC七つ道具のQCとは「Quality Control」の略称で、日本語では品質管理のことです。品質管理とは、顧客が求める品質基準を満たすために設計から製造までの一連の生産活動を取りまとめることを言います。
製造業が重点的に管理する項目としてQCDSが挙げられるように、納期や価格とあわせて品質も重要な指標です。クレームが発生して顧客からの信用を落とさないように、日頃から生産工程で品質を作りこまなければなりません。
そのため、品質管理の手法としてPDCAや5S、そして新QC七つ道具などのツールが活用されているのです。
新QC七つ道具とは?
新QC七つ道具とは、製品を作る過程で発生するさまざまな問題を解決するツールです。製造現場で発生する問題は、一般的に客観的なデータを分析することで解決できますが、新QC七つ道具は言語データを扱うのが特徴的です。言語データとは、「食品に異物が混入してしまった」「バリが発生してしまう」などの数値では表せないデータのことです。
数値データが必要となる時は、品質不良を具体的に解決する段階です。しかし、設計や製造、生産管理、品質管理、営業といった各部門では数値として拾い上げる前に、課題を体系化する活動が必要となります。複雑に絡み合った諸要素の中から、考えを整理して問題点をつかむためには言語データが必要であるため、新QC七つ道具が利用されるのです。
英語では「New Quality Control -7 Tools」と呼ばれ、「N7」が略称となります。具体的な7つ道具の中身は、親和図法・連関図法・系統図法・マトリックス図法・アローダイアグラム・PDPC法・マトリックスデータ解析法です。
新QC七つ道具の覚え方
新QC七つ道具を全部覚えるのはなかなか大七ではないでしょうか。明確な覚え方があるわけではありませんが、語呂合わせをすると覚えやすいかもしれません。
以下の通りに各手法の頭文字を取ってみると「親連携アロマでP(ピー)」となります。
- 親:親和図法
- 連:連関図法
- 携(系):系統図法
- アロ:アローダイアグラム
- マ:マトリックス図法
- で:マトリックスデータ解析法
- P:PDPC法
QC七つ道具との違い
QC七つ道具
品質改善に使用するツールとしてQC七つ道具もあります。7つ道具の中身は、パレート図、特性要因図、グラフ、管理図、チェックシート、ヒストグラム、散布図です。各手法を見てもらうとわかると思いますが、QC七つ道具は主に数値データを扱います。一方の新QC七つ道具は先述したように言語データを扱うところが相違点です。
一般的に新QC七つ道具は、改善をする上でのテーマ選定や混沌とした問題を把握する際に使うため、改善活動の初期段階で活躍します。実際に改善をする中で、データを収集したり問題を客観的にとらえたりする時にはQC七つ道具を使用します。したがって、両者を使い分けることが大切です。
関連記事:QC7つ道具とは?業務実例から具体的な使い方を解説【練習問題付き】
新QC七つ道具の手法
以下では、各手法の概要について紹介します。
親和図法

親和図法は、ある問題から収集されたまとまりのない言語データを、親和性の高いもの同士で整理、グループ化していく手法です。混沌とした問題について、各部門から出された意見や発想を言語データにして、それらを親和性によって統合するため、問題の構造や解決するべき点が見えるようになっています。
親和図法のメリットとしては、複数人で取り組むことで関係者に対して問題点を明確に示すことができます。また、自分の意見が反映されることによって、全員で品質改善に取り組もうという機運が生まれるでしょう。
連関図法

連関図法は、複雑に絡み合った問題の原因について、それぞれの因果関係を論理的につないでいく手法です。因果関係とは、原因と結果、あるいは目的と手段などのことです。問題がどうして発生したのかを深掘りしていくことで、1次要因や2次要因を割り出し、それぞれの相関関係を整理できるため、問題の核心に迫ることができます。
問題の要因を追求する手法には、QC七つ道具に「特性要因図」があります。ただし、こちらは問題とその原因を追求するものです。連関図法とは、原因どうしの因果関係まで明らかにする点が違い、原因が複雑に絡み合った場合には連関図法が有効な手法です。
特性要因図は「4M分析」に関する記事でも詳しく解説しています。併せてご覧ください。
関連記事:【図解あり】4M分析とは?問題整理や変更管理での分析方法を解説!
系統図法

系統図法は、目的を達成するために必要な手段を、系統的に追求する時に使用します。目的とその手段を枝分かれさせながら多段展開していくことで、現実的に実施できそうな手段を見つけることができます。
連関図法や親和図法などで問題を洗い出したなら、解決するために対策を考えなければなりません。「異物混入を防ぎたい」という目的であれば、達成するには「5Sを徹底する」「検査工程を見直す」などの手段が考えられます。そして、今度はその手段を目的に設定し、さらに2次手段を深掘りしていくのです。
このように手段を樹木状に枝分かれさせて表していくことで、手段を整理しやすくなり、一目で分かるようになります。
マトリックス図法

マトリックスとは、エクセルシートなどでよく見かける行列のことを指します。したがってマトリックス図法では、行と列に検討していく要因を並べて、2つの交点に関連度合いを表示します。複数の要素の組み合わせを整理して評価したり、全体を見渡して新たな発想を得たい場面で活用するものです。
前述した系統図法で解決するための手段を考え出しても、数が多い場合にはどれを選択すべきか分かりません。その時にはマトリックス図法で行に手段を、列に実現性や優先順位などの評価項目を置き、それぞれの手段の重みづけをしていきます。
マトリックス図は問題解決に使用するだけでなく、工程の管理表などにも応用ができます。各生産工程と品質における管理項目を行列に並べて評価していくことで、どの工程でどの不良項目が発生しやすいのかが一目で分かり、品質管理として有効な手段です。
アローダイアグラム

アローダイアグラムは、日程計画をする時に用いる手法であり、問題解決のための作業順序を矢印や結合点で結んでいくことで作図します。系統図法やマトリックス図法により手段が決まったら、次にすることは計画のスケジュール管理です。
各作業がどのくらいの日数や時間がかかるか、作業の順番としてはどれが適切かなど、スケジュールを見える化することで、計画を滞りなく進めることができます。事前に全体の工程を見ておくことで、どこがボトルネックになりそうかも判断できるわけです。
PDPC法

PDPC法とはプロセス決定計画図のことで、英語でProcess Decision Program Chartと言います。業務フロー図やフローチャート図と似ており、設計や購買、品質管理などの部門ではよく活用されている図です。
PDPC法では、問題が発生してから解決するまでの手順を記号で表すことで、関係者はその通りに業務フローを進めることができ、標準化につなげることが可能です。
マトリックスデータ解析法

マトリックスデータ解析法とは、マトリックス図の行列に配置された数値データを、標準化や相関分析などで処理して二次元平面図に表示することで、データの特徴をつかみやすくするものです。
多変量解析では主成分分析とも言われる手法であり、多くの変数を持つデータがあった場合にできるだけ情報量を落とすことなく、データの特徴を少ない変数で表すことができます。
たとえば生産ラインを品質的に評価したい時に、チョコ停時間や不良品数、生産数など多くの変数を持っていると適切な評価を下すことができません。そこで、マトリックスデータ解析法で2次元の平面図を作成し、安定性や生産能力といった項目だけで生産ラインの特徴をつかめるのです。
各手法の活用方法やポイント
親和図法の活用方法/ポイント
親和図法は個人でもできますが、なるべくQCサークルなどの複数人で取り組むことが上手く作図するコツです。QCサークルとは、製造現場で働く従業員をグループ分けし、品質管理や品質改善に関する課題解決に関する意見を交換する活動です。
関連記事:【事例付】QCサークル(小集団改善)活動の進め方とは?メリットやデメリットなども解説
最初にすることは問題となるテーマを決めることです。その次に各自から出てきた意見や見解を言語データとしてまとめます。言語データは似ているもの同士をグループ化して、グループ化したところに表札カードを取り付けます。表札の決め方が親和図法のポイントです。
たとえば「生産ラインが長時間停止してしまう」というテーマであれば、「機械がすぐに故障する」「機械の不具合原因を特定するのに時間がかかる」などの言語データを「メンテナンスが不十分」との表札カードをつけてグループ化させます。
連関図法の活用方法/ポイント
まず「段取り替えに時間がかかる」などのように具体的な問題を設定します。具体的な問題や課題を取り上げたら、次に「部品探しに手間取ってしまう」「治具の保管場所が作業場から遠い」「内段取りだけをしている」などの1次要因を見つけ出します。
次に、なぜなぜ分析のようにさらに要因を深掘りして2次要因や3次要因を見つけ出しましょう。「在庫が整理されていない」「外段取りをする人員がいない」といった問題の核心に迫っていきます。特に他と関連している要因については主要因として設定します。
なぜなぜ分析の効果的な進め方については、専門家が解説する動画を公開していますのでご覧ください。

系統図法の活用方法/ポイント
系統図法を作る時には、最初に目的を設定しましょう。抽象的な目的ではなく、なるべく具体化したものの方が、手段も考えやすくなります。次に、目的を達成できる1次手段を、複数の視点から考え出します。そして考え出した手段を目的として設定し、2次手段を考え、これを3次、4次と繰り返していくのです。
通常は4次手段まで考え出したら、検討は終わりです。4次手段から目的までを逆算するように見直し、新しい着眼点がないかをチェックします。優先度の高い手段から実行するようにしますが、優先順位を決めるのに次に紹介するマトリックス図法が役に立ちます。
マトリックス図法の活用方法/ポイント
系統図法でさまざまな手段を検討したら、実行可能なものや優先順位を決めなければなりません。マトリックス図法で行に系統図法の手段を置き、列に評価項目として、実行性や効果、コストなどを作成します。
それぞれの手段と評価項目の交点に評価を下していきますが、◎・〇・△・▲などでランク付けをしていきます。ランク付けによりどの手段を実行すれば効果が高いのかが分かり、適切な対応が可能です。
アローダイアグラムの活用方法/ポイント
アローダイアグラムで目的達成までの具体的な日程計画を立てます。先行作業と後続作業と作業順序を左側から右側へ配置していきますが、必ずしも直列である必要はなく、作業によっては並列に配置することもあります。
アローダイアグラムでは、→・〇・点線の矢印の3つの記号が使われ、作業順に配置したものを3つ記号で結んでいくのです。各結合点には、早くてもこの日でないと開始できない「最早結合点日程」や、遅くてもこの日までには作業を終了しておく「最遅結合点日程」などの日程を書き込む必要もあります。
PDPC法の活用方法/ポイント
PDPC法には、「強制連結型PDPC」と「逐次展開型PDPC」がありますが、ここでは業務フローなどでよく使用される強制連結型PDPCについて解説します。PDPCでは、出発点とゴール、実施内容、結果、分岐点などを矢印でつなげることが特徴です。作成手順としては、まず出発点とゴールを設定します。
ゴールまでのルートの中でどのような手段を取るべきかを検討して、その結果も示していきます。なるべく複数人で手段と予想される結果について検討するとよいでしょう。
マトリックスデータ解析法の活用方法/ポイント
マトリックスデータ解析法は唯一の数字を扱うツールのため、数値データを揃えなければなりません。その際に必要なデータはアンケート形式で取った評価点や実際の現場や製品から得た実測値でも構いません。
取得したデータはマトリックス図にします。各数字データは単位が違うため、基準化をすることが必要です。基準化されたデータは相関係数を求めて、評価項目と要素との間に相関関係があるのかを判断します。
次は主成分を選ぶために固有値を計算します。固有値とは、それぞれの値が全体のうちのどれぐらいの割合を占めているかを示すものです。主成分を選ぶときには、固有値と寄与率などが高いものにします。
最後に主成分得点を計算し、第1主成分と第2主成分の各得点を散布図にしたら完成です。二次元の平面図により取得したデータの特性をつかむことができ、改善に活かすことができます。ちなみにマトリックスデータ解析法は、解析ソフトなどを使って計算するとよいでしょう。
まとめ
現場の改善に役立つツールとして新QC七つ道具の各手法について解説してきました。
問題が複雑に入り組んだ状態の時やQCサークルなどの大人数で問題を検討したい時に、主に言語データを扱う新QC七つ道具が解決の糸口となります。
この記事をご覧の方の中にも、クレーム対策や生産性向上などを目的として改善活動を予定しているかもしれません。その際はここで紹介した手法をぜひご活用ください。