ポカヨケとは、ヒューマンエラーを防止するための仕組みや装置のことです。
しかし、定義を知っても
「ポカヨケの由来って何?」
「そもそもポカミスはなぜ起きるの?」
「ポカヨケの種類やメリットについて知りたい!」
と思っている方も多いはず。
そこでこの記事では、ポカミスがなぜ起きるのか、種類、そしてポカヨケに取り組むメリットと課題について詳しく解説します。さらに、具体的なポカヨケの対策や事例を紹介し、最終的にはヒューマンエラーを防止するためのポカヨケの重要性を解説しましょう。
現代の製造業では、デジタル技術の進化により、ポカヨケの仕組みが大きな変化を遂げています。この記事を読めば、現代の製造業でポカヨケがどのように業務効率化とヒューマンエラーの軽減に関係しているか理解できるので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
ポカヨケとは?
ポカヨケとは、工程内の製造ラインに設置して、作業者のミス(ポカ)を避ける(ヨケる)ための装置や仕組みのことです。なぜポカヨケが必要なのかと言えば、いくら作業をマニュアル化し、規則や教育を充実させたとしても、ヒューマンエラーのリスクを100%回避するのは不可能だからです。
そのため、作業を構成する人以外の要素に対して、人がミスしにくいシステムを構築するのがポカヨケの目的です。
例えば、部品の形状を工夫して物理的に作業ミスが起きないようにしたり、作業者がミスをした時点で次の工程へ進めなくしたりするなどのフールプルーフ設計がポカヨケの一例となります。
関連記事:フールプルーフとはどういう設計?品質不良/ヒューマンエラーを未然防止する考え方、使用例を解説
ポカヨケの英語
ポカヨケの英語表現はfool proofing(ばか防止)やmistake-proofing(間違いを防ぐ)もしくはそのままpoka-yokeと呼ばれます。
ポカヨケの目的は作業者が間違いを犯す可能性を最小限に抑えることであるため、「間違いを防ぐ」や「ばか防止」は、ポカヨケの本質を表していると言えるでしょう。
由来はトヨタ生産方式
ポカヨケの概念は、日本のトヨタ生産方式から誕生しました。トヨタ生産方式は、作業者のミスを防ぐための装置や仕組みの重要性が増し、ポカヨケを導入した経緯があります。
例えばトヨタでは、ひとつの機械が加工するたび、作業者が品質チェックを行います。また、次の作業者の作業は、そのワークの品質チェックです。もしも不良を発見したら、即座にそれを発生させた前工程の作業者に通知し、作業を停止させ、不良発生の原因を調査させます。一連の品質チェックは標準作業票に盛り込まれているため、作業者は品質チェックを飛ばせません。
ポカヨケは、例で示したような品質管理の一環として考案されました。ポカヨケは工程内に設置され、作業者のウッカリミス(ポカ)を避けて(ヨケ)くれる仕組みです。作業者は標準作業通りの一連の作業をするだけで良いため、ポカヨケにより工数を一切かけずに全数検査が可能になりました。
そもそもポカヨケはヒューマンエラーへの対策という位置づけです。ヒューマンエラーへの対策について詳しく知りたい方は下記の記事を参考にしてみてください。
関連記事:ヒューマンエラー対策12選!5つの要因とミスを回避するポイントは?
ポカミスはなぜ起きるのか?
人間が行う作業にはポカミスが起きる可能性があり、製品不良や顧客からのクレーム、さらには人の怪我を引き起こす可能性もあります。
ここではポカミスが起きる原因として、以下の5つを解説します。
- 記憶エラー
- 認知エラー
- 判断エラー
- 行動エラー
- ルール違反
記憶エラー
記憶エラーは、人間の記憶力の限界や忘却によりポカミスが発生する現象です。人間の記憶は完全ではなく、時間の経過とともに忘れてしまう性質があるためにポカミスが起きることを指します。
例えば、作業手順を覚えられずに間違った手順で作業を進めてしまう、あるいは重要な工程を思い出せずにスキップしてしまうなどの状況が考えられます。
認知エラー
認知エラーは、人間の認知能力の限界によりポカミスが発生する現象です。
例えば、見逃しや見間違えにより、製品の欠陥を見逃してしまったり、間違った部品を使用してしまったりすることがあります。
判断エラー
判断エラーは、人間の判断力の限界によりポカミスが発生する現象です。人間の判断力も完璧ではありません。特に疲労やストレスが溜まると判断力が低下し、間違った判断を下してしまいます。
例えば、疲労やストレスにより、どの作業を先に行うべきかの判断を誤り、結果として作業の効率が低下したり、品質に問題が生じたりすることがあります。
行動エラー
行動エラーは、人間の行動の不注意や誤操作によりポカミスが発生する現象です。人間は疲労や集中力の低下により、意図しない行動をとることから生じます。
例えば、操作ミスにより機械を誤って動かしてしまったり、安全装置を作動させずに作業を開始してしまったりすることがあります。
ルール違反
ルール違反は、作業ルールや安全規則を無視または順守しないことによりポカミスが発生する現象です。ルールは作業の安全性や品質を確保するために存在するもので、無視すると事故や品質低下を引き起こす可能性があります。
例えば、安全装置を無視して作業を進めた結果、事故を引き起こしたり、品質規格を無視した結果、製品の品質が低下したりすることがあります。
「職場内でポカミスが発生しているけど、原因や対策方法が明確にできない」と悩んでいる方は、下記のポカミスの対策方法をまとめた記事がおすすめです。
関連記事:製造業でポカミスが起きる原因は?対策の4つの流れを解説
ポカヨケに取り組むメリットとは?
ポカヨケに取り組むメリットとしては主に、次の3つがあります。
- 生産性の向上
- 不良品の削減
- 労災防止
それぞれ解説します。
生産性の向上
ポカヨケは作業中のミスや間違いを未然に防げるため、生産性向上が期待できます。
例えば、作業者が間違った部品を取り扱ってしまうと、その部品を取り替えるための時間が無駄になります。しかし、ポカヨケが導入されていれば、間違いは未然に防がれ、作業者は正しい部品を適切なタイミングで取り扱えるでしょう。結果として、生産ライン全体のダウンタイムや作業の中断が減少し、生産性の向上が期待できます。
不良品の削減
ポカヨケは、システムの誤操作や人為的なミスを事前に防ぐことができるため、不良品の削減に寄与します。
ポカヨケは作業担当者が過誤を犯す可能性を最小限に抑えるために、設計段階で不良が発生するリスクや潜在的にミスが発生するリスクを特定し、それらを排除するための業務の簡易化や手順の標準化といったプロセスを導入します。
また、多くのポカヨケシステムでは、ミスが発生するとすぐにフィードバックが提供されるため、ミスが不良品の大量生産につながる前に修正が可能となるのです。
さらに、ポカヨケは一度発生したミスの再発を防ぐ役割も果たします。ミスが発見された際には再び起こらないように、プロセスが改善または修正されて、人を起因とした不良品が出る機会が減ります。
労災防止
ポカヨケは、操作ミスなどを未然に防げるため、作業者の事故を減らせる効果もあります。
例えば、重機の操作ミスによる事故は、重大な損害をもたらす可能性があります。しかし、ポカヨケが導入されていれば、操作ミスは未然に防がれ、より安全に作業を行えるでしょう。結果として、職場全体の安全性が向上し、労災の発生を防ぐことが可能です。
労災防止の取り組みについては下記の記事を参考にしてみてください。
ポカヨケに取り組む際の課題とは?
ポカヨケに取り組む際、以下の3つの課題があります。
- システムの構築
- 現場との連携が必要
- 知識やノウハウの不足
システムの構築
ポカヨケを導入する際の最初の課題はシステムの構築です。業務プロセスの中でどのようなポカヨケが適しているなのかを議論する必要があり、議論がないままポカヨケを導入することが目的になってしまうと、より正しい方法を検討せず、結果的に不適切な方法を選んでしまう可能性があります。
例えば、ある製造ラインでは、部品の取り違えを防ぐための色分けが最適なポカヨケかもしれません。しかし、別の製造ラインでは、部品の形状を変えることで取り違えを防ぐ方が効果的な可能性もあります。そのため、ポカヨケの導入は業務プロセス毎に最適な方法を検討することが重要です。
現場との連携が必要
現場との連携も課題と言えるでしょう。作業者には、すでにある作業プロセスに慣れていて、作業が変化することに抵抗感があるため、ポカヨケの導入に抵抗感を示す従業員もいます。
例えば、長年同じ作業を行ってきた作業者が、新たに導入されたポカヨケによって作業手順が変わると、変化に対する抵抗感からポカヨケの導入を拒否することもあります。そのため、ポカヨケの導入には現場の理解と協力が必要となります。
知識やノウハウの不足
知識やノウハウの不足も課題と言えます。ポカヨケの導入には、従業員や管理職がポカヨケの知識やノウハウを学習する必要があるからです。
例えば、ポカヨケの種類やその適用方法、効果的な導入のための手順などを理解していなければ、ポカヨケの導入は難しく、高価のないポカヨケとなってしまう場合もあります。また、ポカヨケの導入には、作業者の行動や思考を理解し、改善するための洞察が必要です。
ポカヨケの対策とは?
ポカヨケの対策の種類としては、主に
- 発生前対策
- 発生時対策
- 発生後対策
の3つがあります。
発生前対策
ポカヨケの対策としてまず挙げられるのが、発生前対策です。発生前における対策は、不良品が発生する可能性を事前に評価して、防止することができます。
フールプルーフ設計が具体的な例として考えられるでしょう。フールプルーフ設計は、従業員が間違った操作を行っても安全性を維持できるように、事前に対策を行っておく設計のことを指します。
例えば、自動車製造業界では部品の形状を一部改良することで、組み立て工程での部品の誤組み立てを防止します。具体的には、左右に使い分ける部品に対して形状や色を変えることで、誤った部品が誤って取り付けられるのを防ぎます。
このように、発生前対策を徹底することで、製品を製造する前の段階において、不良品の生産防止が可能です。またフールプルーフ設計をすることで、従業員の作業の安全確保が可能になるため、労働上の事故を削減することも可能です。
フールプルーフ設計について、さらに詳しく知りたい方は下記の記事を参考にしてみてください。
関連記事:フールプルーフとはどういう設計?品質不良/ヒューマンエラーを未然防止する考え方、使用例を解説
発生時対策
発生時対策は、作業工程での不良品の検知時の対策です。もしも現場で、不良品が製造された場合でも最終工程には進むことなく、不良品を取り除くことが可能になります。
具体的な例としては、AIによる画像認識システムや、光学センサーなどの機器を導入することで、不良品を検知する仕組みがあります。さらに、現場での異常を検知した場合には、機械の稼働を自動で止めたり、操作盤のロックを行ったりする発生時対策もあるでしょう。
発生後対策
ポカヨケの対策として発生後対策も重要です。製造ラインにおいて不良品が発生した状況で、後工程の検査によって不良品の誤出荷の回避が可能だからです。
具体的な例としては、製品の出荷前に標準的な形状とのずれを検知すると、自動で不良品として出荷ラインから除外するといった仕組みが挙げられます。製造工程で検知ができずに後工程に流れた不良品であっても、発生後に検知が可能であれば、消費者の手元に不良品が渡ってしまうのを避けられます。
発生前対策、発生時対策、発生後対策はいずれもヒューマンエラーへの対策と言ってよいでしょう。現場改善ラボではヒューマンエラーの原因と対策方法を専門家が解説する動画が視聴できますので、ぜひ参考にしてみてください。
ポカヨケの手法
ポカヨケの手法として、
- 専用治具の取り付け
- ICタグやバーコードで識別する
を解説しましょう。
専用治具の取り付け
専用治具の取り付けはポカヨケの一手法で、特に製造業などでよく用いられます。これは部品を正確に配置したり、作業を正確に行うための特殊な道具や装置を使う方法です。
専用治具は特定の作業や部品に合わせて設計されており、部品が正しい位置に正確に取り付けられるようになっているため、誤った組み立てや配置ミスを防ぐことができます。
また、専用治具は同じ作業を一貫して正確に行うことを可能にするため、全体的な品質や作業の速度と効率の向上が期待できます。
例えば、ボルトを締めるための専用ソケットは、それぞれのボルトのサイズに合わせて設計されており、作業担当者が誤って違うサイズのボルトを取り付けることを防止できるでしょう。
また、特定の部品が特定の場所にしか取り付けられないような専用治具を使うことで、部品の誤装着を防ぐことができます。これにより、ヒューマンエラーによる不良品の発生を大幅に減らすことが可能となります。
ICタグやバーコードで識別する
ICタグやバーコードを用いて部品や製品を識別・区別することにより製品や部品を電子的に識別可能となり、加工履歴を保存・管理できます。
例えば、製品がある工程を終了した段階において作業者がバーコードで読み取り、作業状況を更新します。もしも、工程で作業漏れがあるのならば、次の工程で警告を通知して、ラインを停止させる仕組みを作れば作業漏れを排除できる可能性が高くなるでしょう。
ポカヨケ企業対策事例
株式会社ミスミグループ
株式会社ミスミグループは、国内・海外ともに自働化の設備や装置用の部品などを提供するB to B事業を展開する企業です。
アイオイ・システムのSAS導入により、業務効率化とミスの防止に効果がありました。
SASと呼ばれる仕分けシステムは、仕分けミスを限りなく“ゼロ”に近づけることができるシャッター付き表示器です。ハードの仕組みにより誰がやっても絶対に間違えないようにシャッターが空いたところにしか商品を入れられないので、物理的にミスがなくなる仕組みです。
また、品質が担保され、仕分け後の検査工程が不要となり、ミスを起因としたお問い合わせも削減となり、ミスをフォローするための人件費や再送料なども削減できます。こういった間接業務においても30%程度は生産性が向上し、効果のある導入となりました。
参考元:仕分けミスを徹底的に防ぎ30%の生産性向上を実現した『SAS』の導入事例
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は自動車の製造・開発・販売を手掛けている企業です。
トヨタ自動車株式会社のポカヨケ事例は、組み付け工具と連動して、部品の締め忘れがないかなどを自動的に検知します。不備があればランプで知らせて、不良品が発生するのを防ぎます。
作業ミスがあることに気付かなくても、ランプが検知することによりラインが止まり、不良品は後工程に流れない仕組みとなっています。
参考元:【トヨタ生産方式】自働化:単純なミスを起こさないための「ポカヨケ」
ポカヨケでヒューマンエラーを防止しよう!【まとめ】
ポカヨケとは、ヒューマンエラーを防止するための手法で、その英語表現は「mistake-proofing」「fool-proofing」もしくはそのまま「poka-yoke」となります。
ポカヨケの由来は、日本のトヨタ生産方式にあり、品質向上と効率化を目指す製造業の現場で広く用いられています。ヒューマンエラー、すなわちポカミスは、記憶エラー、認知エラー、判断エラー、行動エラー、ルール違反などの要因により起こるためポカヨケで対策をしましょう。
ポカヨケに取り組むメリットとしては、生産性の向上、不良品の削減、労災防止などがあり、対策としては、発生前対策、発生時対策、発生後対策があります。
具体的なポカヨケの手法としては、専用治具の取り付けやICタグ、バーコードを用いた識別などがあります。紹介した手法を用いれば、ヒューマンエラーを大幅に防止し、製造業の現場改善を実現することが可能となるでしょう。
ポカヨケは、ヒューマンエラーを防止するための手法のため、ヒューマンエラーがなぜ起こるのかを理解することでさらに効果がみこめるでしょう。現場改善ラボでは、株式会社アイソコンサルティングの技術部長である紙野 研二氏をお招きし、ヒューマンエラーを未然に防止するための動画が視聴可能です。ぜひこの機会に、ヒューマンエラーや品質不良を事前に防ぐ方法について動画で視聴してみませんか。