未然防止とは、将来のリスクに気付き、実害のあるトラブルや事故を未然に防ぐことを指します。定義は理解できても「具体的な未然防止の実践方法がわからない!」「未然防止の事例について知りたい!」「再発防止と何が違うの?」など、悩みや疑問を抱える方は多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、未然防止の原則と実現のための3ステップ対策について解説します。また、再発防止と未然防止の違いについても触れ、それぞれの重要性と役割を明確にし、具体的な改善活動の進め方についても紹介します。
この記事を読み、未然防止の3ステップを実践すれば、現場の未然防止の実現に大きく近づきます。未然防止の理解を深め、事故を防ぐための具体的な手法を身につけられますので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
未然防止とは
未然防止とは、将来のリスクを予見し、リスクに対する対策を講じることにより、実害のあるトラブルや事故を未然に防ぐことを指します。未然防止は単なるコストと捉えるのではなく、経営者が実践すべき経営理念であり、製造業における現場改善の重要な要素です。
例えば、製造業の現場では、日々業務上のトラブルが発生します。トラブル処理には、多大な時間・労力・コストが費やされるでしょう。しかし、もしもトラブルを未然に防げれば、生産性の向上だけでなく、時間をより創造的な仕事に振り向けることが可能となります。結果として、従業員の仕事に対するモチベーションが向上し、会社の業績の向上が期待できます。
また、未然防止の考え方は、トヨタ生産方式(TPS)とも深く関連しています。TPSは、ムダを排除し、効率を最大化する考え方です。TPSの中心的な考え方に「事前に問題を見つけ出し、解決すること」があります。未然防止の考え方と非常に似ている考え方であり、未然防止の由来はTPSにあると言って良いでしょう。
トヨタ生産方式(TPS)に基づいた、現場改善の共通視点については、下記セミナーをご視聴ください。
再発防止との違い
再発防止と未然防止は、共に問題を防ぐための重要な戦略ではありますが、方法と目的には大きな違いがあります。再発防止は過去に起こった問題に対してその原因を突き止め、対策を打つ取り組みです。一方、未然防止は製品の品質トラブルや製造現場での事故などを、起きる前に(=未然に)防ぐための活動を指します。
例えば、製造ラインでの機械の故障を考えてみましょう。再発防止のアプローチでは、一度故障が起きた後にその原因を調査し、同じ故障が再び起きないように対策を講じます。しかし、未然防止のアプローチでは、故障が起きる前に機械の異常を検知し、予防メンテナンスを行うことで故障を防ぐことができます。
再発防止は同じミスを二度は繰り返さない
再発防止の目的は、同じミスや問題を二度と繰り返さないことです。一度起きた問題はその原因が明らかになり、原因を解決することで同じ問題を防ぐことが可能です。
例えば、製造ラインの品質の問題では、一度品質問題が発生した場合、原因を調査し、問題が再び起きないように改善策を講じます。結果として、同じ品質問題が再発するのを防ぐことができます。
未然防止はそもそもミスを起こさない
未然防止の目的は、そもそもミスや問題を起こさないことです。未然防止では「見えていない、存在しない」問題を「想定する」という能力が必要です。
例えば、新製品の開発を考えてみましょう。開発初期段階で潜在的な問題を予見し、予見した問題を解決することで、製品が市場に出たときに問題が発生するのを防げます。製品の品質を保証し、顧客満足度を高めるために非常に重要なプロセスです。
特に、製造業における現場改善でも、未然防止は重要な役割を果たします。例えば、製造ラインでの事故を防ぐためには、事故が起きる前に潜在的なリスクを見つけ出し、リスクを排除することが必要です。結果として、製造現場はより安全な場所となり、生産効率や品質の向上が期待できます。
リスクを排除するためにもリスクアセスメントについて、知ることが必要です。専門家が解説する動画も公開しているのでこちらもご覧ください。
未然防止の原則とは
未然防止の原則とは「科学的な根拠を前提に予見されるリスクを生じさせないために、あらかじめ対応策を講じるべきである」とする原則です。
例えば、未然防止の原則に基づくと、製造業の現場では「機械の故障や生産過程でのミスを未然に防ぐためのメンテナンスやチェック体制」があらかじめの対応策となります。故障やミスが発生した場合、生産停止や製品の品質低下といった大きな損失を防ぐためです。
予防原則との違い
予防原則の原則と未然防止の原則は大雑把に解釈すると「科学的根拠があるかどうか?」に違いがあります。
予防原則は、環境に重大かつ不可逆的な影響を及ぼす可能性のある物質や活動に対して、環境への損害と結びつける科学的証明が不確実でも、環境への悪影響を防止するために規制措置を可能にする制度や考え方です。科学的な証明が不十分な状況でも、可能な対策を延期せずに行うという考え方を示しています。
一方、未然防止は、科学的な根拠に基づき、問題が発生する前に対策を講じることで、問題そのものを起こさないようにする原則です。科学的な根拠に基づき、問題が発生する可能性がある状況を事前に予見し、その予見に基づいて対策を講じるという考え方を示しています。
未然防止の3ステップ
未然防止は次の3つのステップで成り立ちますので、ひとつずつ解説しましょう。
- 緊急対応
- 再発防止
- 未然防止
緊急対応
緊急対応は、問題が発生した際にすぐに行う行動です。火事に例えるならば、火を消すこと、そして延焼を止めることが緊急対応と言えるでしょう。緊急対応をするためには、トラブルや事故の事実を正確に把握すること、動き出しを間違えないことが大切です。トラブルの事実を把握できないと、動き出しを間違えて、トラブルが拡大する可能性もあります。
再発防止
再発防止は、過去に起こった問題が再度起こらないようにするためのステップです。火事に例えると、過去と同じ場所や同じ原因の火事を防止することが目的になります。防止するためには、過去に起こった火事の真因、つまり根本原因を追究します。その後、根本原因に基づいて対策を立案し、実行後、結果を検証します。
未然防止
未然防止は、将来起こる可能性がある異なる場所・異なる原因の問題を未然に防ぐことを目指すステップです。未然に防ぐためには、チームで将来のリスクに気付いて、対策を立案、実行をし、振り返りを行います。
未然防止のステップでは、火事を例にするとまだ火災が発生していない他の場所や、異なる原因で火災が発生する可能性を考えることが重要です。工場内の他の部分で火災が発生する可能性がある場所を特定し、その場所で火災が発生しないように予防策を講じます。定期的な安全チェック、適切な消火設備の設置、従業員への火災予防の教育などが含まれます。
すぐに未然防止を行うことは難しいため、これら3つのステップを順番に行うことで未然防止を実現することができます。
未然防止型QCストーリー
事故やトラブルを防ぐための手法として、未然防止型QCストーリーを紹介します。
未然防止型QCストーリーとは、ミスや問題を防ぐためのステップをまとめたものです。
未然防止型QCストーリーは以下の8つで構成されています。
- テーマの選定
- 現状の把握と目標の設定
- 活動計画の策定
- 改善機会の発見
- 対策の共有と水平展開
- 効果の確認
- 標準化と管理の定着
- 反省と今後の課題
テーマの選定
具体的な目標を設定することで、全体の活動の方向性を明確にし、効果的な改善を進められるため、テーマの選定は、未然防止型QCストーリーの最初のステップになります。
例えば、製造ラインでの事故率の低減や、製品の品質向上などがテーマとなりえます。
現状の把握と目標の設定
現状を正確に把握することで、問題の原因を特定し、原因に対する適切な対策を立てられるため、現状の把握と目標の設定は重要です。
例えば、製造ラインでの事故発生率を具体的な数値で把握し、どの程度低減するかを目標として設定します。
活動計画の策定
具体的な計画を立てることで、目標達成のためのステップを明確にし、それぞれのステップで何をすべきかを明確にできるため、活動計画の策定は重要です。
例えば、どの問題をいつまでに解決するか、どのような手段を用いるかなどを計画に含めます。
改善機会の発見
改善機会の発見は、問題解決のために重要です。なぜなら、過去の失敗を収集し、類型化することで、起こりそうな失敗を洗い出し、失敗を防ぐための対策を考えられるからです。
例えば、過去に発生した事故の原因を分析し、それが再発しないようにするための改善策を考えます。
対策の共有と水平展開
一部の人だけが知っている対策は、組織全体の改善にはつながらないため、対策の共有と水平展開は重要です。
例えば、ある部署で見つけた改善策を他の部署でも活用することで、組織全体の生産性や安全性を向上させることができます。
効果の確認
効果の確認は、改善策が目標に対して効果的であるかを検証するために必要です。なぜなら、改善策の効果を確認することで、改善策が適切であったか、または改善策を見直す必要があるかを判断することができるからです。
例えば、事故率が目標通りに低下したか、品質が向上したかなどを確認します。
標準化と管理の定着
改善策を標準化し、管理することで、改善策が定着し、効果が持続するため、標準化と管理の定着は、改善策を持続可能にするために重要です。
例えば、新たに見つけた改善策を作業手順に組み込み、定期的に見直すことで、改善策が継続的に適用されるようにします。
反省と今後の課題
反省と今後の課題を考えましょう。必要な理由は、反省を通じて改善活動の過程を見直し、今後の課題を明確にすることで、更なる改善を進めるための新たなステップを見つけられるからです。
例えば、目標達成の過程で何がうまくいったのか、何がうまくいかなかったのかを反省し、それを踏まえて次の改善活動のための課題を設定します。
QCストーリーの具体的なポイントや手順についてはこちらの記事をご確認ください。
関連記事:QCストーリーとは?3つの型の使い方、問題解決への8ステップを解説!
未然防止の事例
未然防止の事例として、
- 品質
- 介護
- 医療
の3つを解説しましょう。
品質
品質問題が発生すると、製品のリコールや市場からの信頼の喪失といった深刻な結果を招く可能性があるため、品質問題の未然防止は、製造業における重要な課題です。
例えば、樹脂の事例を考えてみましょう。高温というストレスがかかると、熱劣化により亀裂が発生し、液漏れが起こり、最悪の場合、火災が発生する可能性があります。問題を未然に防ぐためには、まずストレスの調査が必要です。
また、過去に発生した品質問題を集めて「過去のトラブル集」を作成し、未然防止の対策を考えることも有効です。自動車のリコールや電化製品の市場回収、食中毒、医療ミスなど、人命にかかわる重要品質問題は、ほとんどが未然防止できたものばかりです。そのため、品質の未然防止は重要な位置づけにあると言えるでしょう。
品質改善するためには、ヒューマンエラーを未然に防止することも大切です。専門家が解説する動画も公開しているのでこちらもご覧ください。
介護
介護現場でも未然防止は重要な概念です。なぜなら、介護は人の生命や健康に直結するサービスであり、事故やトラブルが起きるとその影響は深刻だからです。
例えば、「転倒防止のためにふらつきの原因を調べ、睡眠薬の量を少し減らしたらふらつきがなくなった」という事例があります。ふらつきの原因を探り当て、改善することで、転倒という事故を未然に防いだ成功事例です。
未然防止策は発見が難しいものの、発見できた場合は事故防止効果を発揮します。そのため、未然防止策を最優先で考え、なおかつ、長期的な体制で取り組むようにすると良いでしょう。
医療
医療における未然防止は、患者の安全を確保するために極めて重要です。なぜなら、医療トラブルは時として人命に関わることもあり、徹底的な防止策を講じることが必要だからです。
例えば、製造業をはじめとする多くの産業では、FMEA(Failure Mode and Effect Analysis)と呼ばれる故障などのトラブルを未然に防ぐ手法が採用されています。FMEAは、システムを最小単位である部品などのレベルに落とし込み、それぞれで不具合が生じた場合に大きな影響を及ぼす部品はどれかを特定する方法です。
具体的な例として、水道の不具合を考えてみましょう。「水が出ない」という事象が故障にあたります。では、部品単位で故障につながる原因をリストアップしてみます。すると「水道管が詰まる」「蛇口が回らない」などが挙げられます。故障そのものは多種多様な事象として示されるため、網羅的にピックアップし、それぞれ対策することは困難でしょう。しかし、故障の原因を洗い出し、故障を適切に分類できれば、効率的なリスク管理を実現できます。
FMEAの概要や取り組む目的、進め方についてはこちらの記事をご確認ください。
関連記事:FMEA(故障モード影響解析)とは?品質向上の取組みをわかりやすく解説【フォーマット例付き】
未然防止を理解して、事故を防ごう!【まとめ】
未然防止とは、問題が発生する前にそれを防ぐための手法です。再発防止とは異なり、未然防止はそもそもミスを起こさないことを目指します。
未然防止の取り組みは、緊急対応、再発防止、そして未然防止の3ステップで進めることで実現できます。
また未然防止型QCストーリーを活用して未然防止を実現する方法もあります。
未然防止型QCストーリーはテーマの選定からはじまり、現状の把握と目標の設定、活動計画の策定、改善機会の発見、対策の共有と水平展開、効果の確認、標準化と管理の定着、そして反省と今後の課題という一連の流れを通じて、未然防止の取り組みが進められます。
未然防止は、製造業における品質保証の重要な一環であり、その取り組みは製品の信頼性向上とコスト削減に直結します。未然防止を理解し、事故を防ぐための具体的な取り組みをはじめてみましょう。
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