製造業において、品質管理は顧客の信頼性を維持するためには大変重要です。特に製造現場においての品質維持・品質向上は、お客さまに「低廉(ていれん)・高品質」の商材を提供する企業にとって大きなメリットになるとともに課題にもなります。
この記事では、QCサークル活動とはどのようなものでどう進めるのか、メリット・デメリットを解説します。また最後には職場で実際に活動し、目標達成した成功事例や目標を達成できなかった失敗事例も併せて紹介しますので、QCサークル活動にお役立てください。
現場改善ラボでは、QCサークル活動を成功に導くポイントを専門家が解説する動画を公開していますのでご覧ください。
目次
QCサークル活動(小集団改善活動)とは?
製造現場におけるQCサークル活動(小集団改善活動)とは、第一線の現場業務に携わる従業員を小集団に分けて、品質管理・品質改善する小グループ活動です。
この小グループは、自主的に運営し、QC手法を最大限に活用しながら、職場の仲間とともに職場の問題や課題を解決する目的で、意見を交わしやすい5人から10人程度の規模で活動します。活動のゴールは問題解決や課題解決ですが、活動を通じて、サークル員の能力向上や活力のある職場づくり、お客さま満足度向上を目指す活動でもあるのです。
QCサークル活動の進め方
QCサークル活動の進め方は、QCストーリーに基づき進めていきます。基本的には次のような流れです。
- リーダーを決定
- 取り組むテーマ(案)の抽出
- 取り組むテーマの決定
- 現状把握
- 目標の設定
- 要因分析
- 対策の立案・実施
- 効果の確認
- 歯止め
- 今後の取り組み
QCサークル活動を円滑に遂行するための中心となるリーダーを決定します。なお、決定したテーマによっては、テーマリーダー(サブリーダー)を補佐として、決定する場合もあります。サークル員が抱える問題点や課題を抽出し、リストアップします。上司の方針などによっては、事業所や部門ごとに定められた目標を中心に抽出する場合もあります。
抽出したテーマ(案)に対し、個別に評価し、取り組むテーマを決定します。決定方法は、評価項目としてQCDSで点数化し、総合点の高いテーマについて取り組んでいきます。決定したテーマについて、現状分析していきます。現状把握は、QC活動で得られる効果を最大限に引き出すためにも重要なステップです。
現状を正しく把握できれば、テーマに対する目標を設定します。取り組み内容によって、コストや時間、不良率など、現状に対する改善効果として期待する目標を可能な限り、具体的に数値化します。改善したい問題点に対し、経験やスキルから考えられる要因を分析し、明確化します。明確化するためには、QC7つ道具を用いて、問題点をより具体化し、詳細に分析することが大切です。
問題点を抽出、明確化できれば、具体的な対策を立案し、実施方策を立てていきます。目標とする改善内容に対し、一次方策や二次方策、最後に具体的方策を出し、QCDSで評価します。注意する点は、評価基準は対策を実施する優先順位の目安であり、効果が期待できる対策は可能な限り実施することが大切です。
対策を実施した後、改善効果を確認します。1度対策を実施しただけでは期待できる効果が少ない場合は、再度、PDCAサイクルを回し、精度を上げていきます。PDCAを回しても改善効果が期待できないと判断すれば、評価点の低い対策についても再度検討し、対策していくことも大切です。
目標を達成できた具体的対策は、QCサークルの成果として、ルールや工程の見直しなどを標準化します。新たな問題や更なる改善を図るための1つのステップとして残しておくのです。1つのテーマが完了すれば、取り組んだテーマについて、サークル内で評価し、更なる改善のステップアップとして、次の取り組みへのベースとします。
関連記事:QCストーリーとは?3つの型の使い方、問題解決への8ステップを解説!
QCサークルのメリットとデメリット
製造業におけるQCサークル活動は、品質の改善や向上を目指すためには、必要不可欠な取り組みです。そのメリットは数多くありますが、一方で、デメリットもあります。ここでは、QCサークルのメリットとデメリットについて紹介します。
QCサークルのメリット
QCサークルのメリットは、次の4つです。
品質管理や改善のための手法が身につき、問題解決や課題解決能力が向上する
QC7つ道具を駆使することで、統計的でロジカルな考え方が身につき、品質管理や改善のための手法の習得、問題解決や課題解決能力が向上します。
職場内のチームワーク力が深まり、業務に対する意欲が向上する
サークルメンバーの活発な話し合いで、職場内のチームワーク力が深まり、業務に対する意欲の向上が期待できます。特に業務のつながりの薄いメンバーの考え方を知ることで経験が得られ、コミュニケーション能力も向上します。
働きがいのある職場づくりにつながる
職場の課題を抽出することで、働きがいのある職場づくりにつながります。また、従業員が常に問題意識を持って業務を行うことで、仕事のやりがいも生まれます。
会社やお客さまへの貢献を実感できる
QCサークル活動で成果を出すことで、会社やお客さまへの貢献を実感できます。例えばコスト削減や作業性の向上は会社の利益につながり、商材の品質向上はお客さまの満足度アップが期待できるのです。
QCサークルのデメリット
QCサークルはメリットが大きい一方で、デメリットも存在します。QCサークルのデメリットは、次の3つです。
QC発表会のための活動に陥りやすい
QC活動が発表会のための活動に陥りやすく、解決が簡単で難易度が低いテーマを選定しやすいことです。
特に年間に取り組むテーマ数や目標を設定している職場では、結果が見えているテーマを短時間で解決し、資料作成、発表という流れになり、本来の意義ある活動になりにくい可能性があります。
QC活動時間の調整が難しい
サークル員の業務の重複を避けるため、QC活動時間の調整が難しいことも挙げられます。場合によっては、活動スケジュールが調整できず、リーダーひとりだけのQC活動に陥る可能性もあるのです。
目標が達成できない場合、モチベーションが下がる
難易度の高いテーマでは、目標が達成できない場合、サークル員のモチベーションが下がる可能性もあります。特に他部門などの協力を必要とするテーマでは、活動に制限がかかり、思いどおりの対策が取れず、QC活動が頓挫することも考えられるのです。
改善を達成したQCサークル活動
QCサークル活動で日常業務の改善に取り組むに当たり、大きな成果を挙げた改善事例を1つ、紹介します。法や条例、協定の排水水質基準を満たしつつ、健全な装置の運転を維持しながら、使用する薬品量を低減させた事例です。
事例
テーマ名:排水処理装置用薬品使用量の低減
目標:薬品コストの削減
内容:プラントから排出された水の内、再使用できない水は、排水処理装置を通じて浄化し、排水水質基準値を満足させて排出しています。排水は、汚れ度合が高い場合を考慮した薬品注入濃度で処理していましたが、過去の経験と実績、ジャーテストによる適正な薬品注入濃度を確認した上で、最終的には薬品使用量が低減し、コスト削減となりました。副次的な効果として、薬品溶解作業が減り、業務効率化も図れました。
評価:従来の運用に満足することなく、適正な濃度を都度テストしながら対策したことで、若年層のレベルアップと中堅層の改善意識が向上しました。
失敗したQCサークル活動
QCサークル活動では、自分のサークル内では解決できないテーマもあります。特に設備の管理箇所が異なるテーマを選定すれば、他課との調整に時間を費やし、スケジュールが大幅に遅れ、結果的に長期的な取り組みになる可能性があるのです。その失敗した事例を2つ、紹介します。
事例1
テーマ名:純水装置採水量増加による再生薬品量低減と運用の改善
目標:薬品コストの削減と業務効率化
内容:大規模プラントを持つ事業所では、配管などの腐食を防止する目的で、純水装置を設置しています。純水装置とは、事業所で使用する工業用水の不純物を取り除き、純粋な水に仕上げる設備です。純水装置内のイオン交換樹脂は、腐食の要因となるイオンを水素イオンと水酸化イオンに交換する働きがありますが、交換能力にも限界があり、ある一定の通水量になれば停止します。停止した後、工業用薬品でイオン交換樹脂を再生し、健全な状態に戻してから、また採水を開始するというサイクルを繰り返しています。装置の設計基準は過去の工業用水の水質により採水量を決定していたため、イオン交換能力には余裕がありました。そこで、純水装置の出口水質の悪化を抑えながら、採水量を徐々に上げるテストを実施しましたが、工業用水の水質や再生温度など複雑な条件がからみあい、目標を達成できませんでした。そのため、他課の協力を得て再度テストを開始しましたが、設備的な不具合とテストのための手動操作が増えたことにより、当初のスケジュールが大幅に伸び、再生薬品量も大幅な削減につながらず、運用の改善にも至りませんでした。
評価:机上では、設備の運用や再生手順などを理解したうえで活動しましたが、実装置では、思いもかけないトラブルが発生し、自サークルでは解決できないという判断までに時間がかかり、スケジュールが大幅に変更を要しました。また。また他課に協力を仰ぐ際には、さまざまな手続きや不具合の改善、調整などに手間がかかったため、コスト削減や業務効率化を目指した目標未達となりました。
テーマに取り組む前の事前確認不足が大きな要因となった目標未達成です。
事例2
テーマ名:飲料水系統の運用方法見直しによる水質の維持
目標:飲料水系統の運用を見直し、食用滅菌剤の無注入化を図る
内容:従業員が多い事業所は、1日に使用する飲料水量もその分多くなります。しかし、休日や夜間など、勤務する従業員が減ると飲料水の使用量が減り、飲料水タンクからの供給が減り、飲料水水質が維持できない状況になる可能性があります。水質の日常的な管理として、残留塩素濃度の維持がありますが、水の移動がないと食用滅菌剤の注入量が減り、残留塩素濃度を維持できないことも考えられます。そこで、飲料水の動きを活発化するため、受水槽やタンクの運用改善が必要と判断しました。他課と調整した結果、設備の改造や複雑な運用改善が必要なことが判明し、結果的には現状の運用にとどまり、改善には至らなかったテーマです。
評価:設備や系統的には問題ないと判断したため、短いスケジュールで完了すると踏まえていましたが、テスト段階で設備や運用面など他課から、設備改造や細かな運用改善が必要という指摘を受け、中断したテーマです。テーマを決定するまでに、図面だけで判断せず、他課との意見交換や詳細な現場確認が必要という認識を持った事例です。
QCサークル活動を成功に導く3つのポイント
QCサークル活動は、当初に予定していたスケジュールどおりに進められるとは限りません。焦りが生ずれば、テーマを完了させることが目的となり、本来の改善活動にはならないでしょう。ここでは、失敗したQCサークル活動事例から学んだ「QCサークル活動を成功に導く3つのポイント」を紹介します。
現状把握から導いた要因分析を確実に行う
現状把握は問題点を抽出するための道標になりますので、何が問題になっているのか、現状をよく観察することで、その後の進め方や成果が大きく変わります。つまり現状把握から導いた要因分析が大切になるのです。
要因分析はQC7つ道具を駆使して、問題点の深掘りを行い、具体的な対策に向けた大切な位置づけであるため、人や物、設備、方法などさまざまな角度から情報を収集するなど確実に行う必要があります。
関連記事:QC7つ道具とは?業務実例から具体的な使い方を解説【練習問題付き】
目標設定は具体的な数値を設定する
目標設定は具体的な数値を設定することで、改善に対するメンバーの意欲やコミュニケーションが高まります。
現状把握で見つけた攻めどころを可能な限り数値化し、その現状値に対して、目標値も具体的に数値化し、効果を確認しやすくするのです。
ここで注意する点は、高すぎる目標はサークル員のモチベーション低下につながり、低すぎる目標はテーマ完了時の達成感が得られにくいため、サークル内でしっかりと議論することが大切です。目標は具体的に数値化し、高すぎず、低すぎず、バランスが保てる設定にすることがQC活動を活発化する要因になります。
詳細な現場確認を行う
要因分析で設備や運用が具体的な対策として抽出されれば、自サークルでは取り組むことが困難になります。
失敗したQCサークル活動事例でもお伝えしたように、対策の実施段階で認識してからではスケジュールが大幅に遅れる可能性があるのです。
具体的な対策を行う前には、メンバー全員で詳細な現場確認を行うとともに、必要であれば、設備管理箇所となる他課または他部門の関係者と事前の打合せにより、情報交換しておくことが大切です。
まとめ
QCサークル活動は、日常業務の問題や課題に対し、QCストーリーに基づき、小集団グループで継続的に改善を行う活動です。QCサークル活動を通じて、お互いにコミュニケーションを取り、意見提起することで、メンバーの能力向上やスキルアップにもつながります。
また、QC発表会に参加することで、プレゼンテーション能力の向上も見込めます。特に製造業の現場では、品質管理や品質改善は永遠のテーマです。
その大きなテーマに対して、少しずつ職場のチーム力が向上すれば、会社の信頼やお客さまの満足度の向上も期待できます。皆さんも1度、原点に立ち返り、QCサークル活動を今まで以上に活発化し、更なるモチベーションの向上に努めてはいかがでしょうか。