製造業では改善活動が活発に行われています。この改善活動こそが、品質を安定させている要因だと言っても過言ではありません。
しかし、改善活動を成功させるためには再現性ある手法を取らなければいけません。やみくもに活動を行うだけでは、原因の把握や今後の対策なども客観的に示すことができないからです。
そこで問題解決に役立つものとして「QCストーリー」があります。本記事ではQCストーリーの具体的なポイントや手順について解説します。
現場改善ラボでは、元トヨタ自動車九州株式会社で品質保証部や品質管理部、組立部に従事してきた専門家によるトヨタ式QCストーリーを解説した動画を無料で視聴できます。ぜひ併せてご覧ください。
目次
QCストーリーとは?
QCストーリーという言葉を一度は耳にした人も多いかもしれません。製造業における品質改善には欠かせない考え方のため、ここではQCストーリーの概要について紹介します。
そもそもQCとは
QCとは「品質管理」のことを指します。品質管理は、顧客が要求する品質を満たす製品を作るために企業の生産活動をコントロールすることです。品質を管理するためには、データを収集したり分析したりする必要があります。
データを分析することで、品質に影響を与えている真の要因に気づくことができ、適切な対策を実行できます。しかし、データ分析や要因分析は簡単ではありません。そこで、品質改善を成功させるツールとしてQC七つ道具やQCストーリーなどが用意されているわけです。
関連記事:製造業における品質改善5つの手法は?品質バラつき防止の取組事例を解説
QCストーリーの概要
QCストーリーとは、品質に関わる問題を解決するための手順や道筋を示したものです。問題を把握してから解決にいたるまでのプロセスを、QCストーリーに沿った手順で進めることにより品質改善を達成できます。
QCストーリーにおける、問題解決までのステップは以下の8つです。
- ステップ1:テーマ選定
- ステップ2:現状把握
- ステップ3:目標の設定
- ステップ4:スケジュール計画
- ステップ5:原因追求
- ステップ6:対策実行
- ステップ7:効果の確認
- ステップ8:標準化
QCストーリーでは、「問題」と「課題」の定義を明確に分けているのがポイントです。問題とは、あるべき姿と現実との差のことを言います。すでに設定している目標と現実との差のことです。
一方の課題とは、ありたい姿と現実との差のことを言います。将来的に設定しようとしている目標と現実との差のことです。QCストーリーに沿って活動をするには、まず両者を区別することが大切です。
QCストーリーのメリット/デメリット
QCストーリーのメリットは以下の通りです。
活動が効率化できる
QCストーリーは問題解決のための標準的な手順であり、この通りに進めることで一定以上の成果が保証されます。いわば改善活動の定石であることから、活動を効率化できるわけです。QCサークルといった複数人での活動では、普段の業務の合間にやらなければならないので、効率を図ることは重要です。
関連記事:【事例付】QCサークル(小集団改善)活動の進め方とは?メリットやデメリットなども解説
やるべきことが明確になる
QCストーリーでは改善までの全体像を示しているため、いま現在の活動が全体のどの位置にいるのかが分かるようになっています。次のステップに向かうためには、何をすべきなのか、何が足りないのかが分かることは、改善活動の成功確率を上げる役割もあります。
メンバー内で情報共有ができる
複数人で活動を行うことが多いのが、QCです。メンバーの中で役割分担をしたり、他のメンバーが今何をしているのかが分かるためには、解決までのステップを可視化する必要があります。
QCストーリーなら各ステップが提示されており、スケジュール計画も立てるため、メンバー同士で進捗状況の共有ができます。
一方のデメリットに関しては、QCストーリーが形骸化する恐れがある点です。特にQCサークルのような活動の場合には、「QCストーリーに沿ってやればいい」と形だけになることもあります。
QCストーリーにおける3つの型と使い方
QCストーリーには3つの型があります。それぞれ「問題解決型」「施策実行型」「課題達成型」です。3つの型によって改善のアプローチが変わるため、自分がやろうとしている活動がどれに当たるのかを確認しておきましょう。
問題解決型
問題解決型は以下のステップになります。
- ステップ1:テーマ選定
- ステップ2:現状把握
- ステップ3:目標の設定
- ステップ4:スケジュール計画
- ステップ5:原因追求
- ステップ6:対策実行
- ステップ7:効果の確認
- ステップ8:標準化
問題解決型でのポイントは、問題を正確に把握した後の原因追求に重きを置いているところです。たとえば「異物混入のクレームを年5件までに抑える」という目標を設定したなら、異物混入の原因を追求することに力を入れます。
施策実行型
施策実行型は、問題解決型の原因追求を省略したバージョンです。初めから原因とその対策が分かっており、対策をスピーディに実行したい場合に選択されるQCストーリーです。したがって、対策を優先することが重視するポイントとなります。
先述の「異物混入のクレームを年5件までに抑える」という例で、「髪の毛の混入が一番多い」という原因が分かっていたとします。対策として「入退室時のローラーがけを重点的に行う」ことが決まっているなら、それを徹底させることをスピーディに行うのです。
課題達成型
こちらは課題達成のためのQCストーリーで、以下のステップとなります。
- ステップ1:テーマ選定
- ステップ2:攻めどころの設定
- ステップ3:目標の設定
- ステップ4:スケジュール計画
- ステップ5:方策の立案
- ステップ6:成功シナリオの追及と実施
- ステップ7:効果の確認
- ステップ8:標準化
問題解決型と違う点は、課題達成型では攻めどころを設定した後の方策の立案や成功シナリオに重点を置いていることです。一般的には、まだ実現したことのない高い目標などに関して使用します。たとえば「不良率を〇%にしたい」「生産性を〇%向上させたい」などの課題を設定します。
問題解決につなげるQCストーリーの8ステップ
では、QCストーリーの具体的な中身について見ていきましょう。ここでは問題解決型を例にとって、概要や意識すべきポイントについて紹介します。
職場の問題からテーマを選定する
まずはテーマを選定することから始めますが、どの問題を扱ってよいかはなかなか難しいものです。なぜなら、製造業の現場ではそこかしこに問題が潜んでいるからです。あるいは、日々何となく仕事をしていれば、問題を問題として認識することもできないかもしれません。
数多くの問題の中からどれを選択すべきかは、マトリックス図にしてみるとわかるでしょう。マトリックス図では、複数の問題を行に配置し、その問題の重要性や解決した時の効果などの評価項目を列に配置します。それぞれの交点に評価点を入れていくことで、どの問題が最も重要かが自ずと決まります。

また、日頃からデータを収集することも大切です。不良品が発生することによるロス金額や、生産ラインごとの不良率などの数値データはより重要な問題を導き出してくれるものです。金額や不良率の多い項目をテーマとして選定すると効果があります。
もし問題をいまひとつ認識できない場合には、「7つのムダ」という視点から考えてみると良いかもしれません。7つのムダとは職場に潜在している問題を7つの視点から捉えたものであり、トヨタをはじめとする多くの企業で実施されている考え方です。
7つのムダには、「つくりすぎのムダ」「手持ちのムダ」「運搬のムダ」「加工のムダ」「在庫のムダ」「動作のムダ」「不良をつくるムダ」があります。運搬のムダを例にとれば、部品の移動そのものは生産性と関係のないムダな作業です。
したがって、工程間の運搬に時間がかかっているなら、そのムダを問題として捉えていかに改善できるかを考えるわけです。
関連記事:【トヨタ式】7つのムダとは?具体例を交えてムダを解説
現状把握のための調査/情報収集
テーマを選定したら、続いて問題の現状把握です。現状を正しく把握するためには、現場に直接足を運んで、現地・現物・現認という三現主義の観点から物事を見るようにしましょう。
このステップにおいてもデータの収集が大事となります。問題となっている現象がどの程度悪いのかを把握するには、データとして示すのが適切だからです。包装工程において不良率が多いのなら、製品ごとや日ごと、機械ごとの不良率を収集することで、現状が把握できます。
後のステップで原因の追及が出てくるため、この段階では原因を考えることまではせずに、あくまでも問題の程度を把握するまでにとどめておきます。
問題解決につながる目標を設定する
どのぐらいまで改善すればよいかの目標と、それをいつまでに行うのかを設定します。目標は「不良率を〇%までに下げる」「生産性を〇%向上させる」「異物混入のクレーム件数を〇件にする」などの具体的な数値にまで落とし込みます。
目標は高すぎても低すぎてもいけません。低い目標だと解決しても効果を出すこともなく、改善活動の意味すら危うくなります。また、現実的に不可能な高すぎる目標では、メンバーの意欲低下に関わります。
そのため、問題解決につながり、なおかつ解決した時に効果を感じられる目標を設定しましょう。
活動スケジュールを計画する
目標設定のステップで、いつまでにやるかの期限を決めました。したがって、その期日までに問題解決をするために、このステップでは活動のスケジュールを計画します。具体的には、QCストーリーの各ステップを誰が、何を、いつまでにするかを作成することになります。
一般的にはガントチャートを用いて、縦軸に1~8までの各ステップを置き、横軸を時間軸として担当者の予定を作成するとよいでしょう。QCサークルといった複数人で活動する場合は、リーダーを決めておきます。各ステップの担当者決めや進捗状況の把握をリーダーが行うことで、QCストーリーが滞りなく進みます。
問題の原因を把握する
QCストーリーの中で重要なステップが「問題の原因を把握する」ことです。要因解析とも言われています。
問題には、それを引き起こす原因が潜んでいます。原因をすぐに見つけることは難しいですが、まずは仮説を立ててデータとして裏付けを取ることが大切です。仮説を立てる際に有効なの「特性要因図」です。

特性要因図で原因を探っていく時には、4Mの視点から考えるようにします。4Mとは「Man・Method・Machine・Material」のことを指し、人間・手順(方法)・機械・材料の観点から原因を追及します。4Mは品質に影響を与える主要因であるため、まずはここから考えることが原因発見の近道だからです。
4Mについては、以下の記事で詳細に解説しています。
関連記事:4Mとは?分析方法や変更管理の目的とポイントを解説
生産ラインで不良が発生するなら、その原因は「作業者のミスによるものか」「作業手順がそもそも悪いのか」「機械に不具合があるのか」「材料が良くないのか」と追及していきます。
また、なぜなぜ分析も原因追及に有効です。なぜなぜ分析は、問題が発生した理由を「なぜ?」と5回繰り返していくことで真の原因を発見する方法です。
現場改善ラボでは、トヨタ自動車の技術者の代表として高度熟練技能者の認定をいただいたことのある伊藤氏をお招きして、実際のトヨタ社内で使われていた「なぜなぜ分析」の手法について解説していただいた動画を無料で視聴できます。ぜひこの機会にご覧ください。
いずれの方法を使って原因を分析するにせよ、注意しなければならないのは、根本的な原因を人間のせいにしないことです。原因を作業者のせいにして片付けてしまうと、対策が上手くなされずにまた同じ問題が発生します。
したがって、作業マニュアルや生産工程の仕組みなどのシステムに不備がなかったかを追及するようにしましょう。
対策案を検討、実行する
原因を見出したら、次にやるべきことは対策案を検討し、実行に移すことです。対策案を考える時に注意することは、現場や作業者の負担が増えるような対策にしないことです。
たとえば、製品の検査をする際にチェックに漏れがあり不良品が流出したとします。この時に、真っ先に考えられる対策案は、ダブルチェックを導入することです。
しかし、ダブルチェックなどは追加型の改善とも言われるように、作業を止めてチェックしなければならないため現場の負担を増やしかねません。
そこで、対策案は以下の「ECRSの4原則」を元に考えます。
- 排除(Eliminate):作業や手順をやめる
- 結合(Combine):作業と確認を同時にするなど業務をまとめる
- 交換(Rearrange):工程や手順を入れ替えて効率化する
- 簡素化(Simplify):作業を単純化・簡素化させる
検査工程で漏れが発生したという問題なら、その前の工程で該当の不良が発生しないような機械的な対処ができればよいわけです。
対策の効果をチェックする
対策の効果を確認するステップでは、対策前と同じ条件でデータを取りましょう。1週間のデータであれば効果の確認も同じ期間にすることで、正しく効果を測定できます。
できれば効果はロス金額〇万円削減などの金額で表した方が、達成度合いが客観的に分かります。企業としてもロス金額は利益にも直結するため、定量的な視点から考えることは大切です。
このステップで効果が確認できなければ、PDCAサイクルを回すように再び計画を立てて原因を取り除いていきます。対策は大掛かりなものよりも、小さくてもよいのでスピーディに実行するようにしましょう。
効果が出たものを標準化する
効果が出たものは、職場に定着させるために標準化を図ります。改善できたものでも継続的にできなければ、本当の改善とはなりません。そのため、作業手順書やQC工程表などを書き換えて作業者に徹底させることが必要になります。
管理図などを用いて日頃から生産工程のデータを取っておくと、対策が本当に定着しているかが分かります。もし標準化ができていなければ、対策前と同じように管理図に異常を示す数値が出てくるからです。標準化には教育とデータ収集の両面から行っていきましょう。
各ステップで役立つQC7つ道具/新QC7つ道具とは?
QCストーリーの各ステップでもたびたび出てきましたが、品質管理には「QC7つ道具」と「新QC7つ道具」が役に立ちます。
QC7つ道具とは
QC7つ道具の中身とQCストーリーのどのステップで活用できるかを紹介します。
パレート図
パレート図は数値が大きい項目から順に並べた棒グラフのことです。特にテーマ選定や現状の把握、効果の確認といったステップで役に立ちます。
特性要因図
特性要因図は、問題を引き起こす要因を4Mの視点から分析するもので、魚の骨に似た図を使用します。その名の通り、原因を分析するステップで使用します。
グラフ
グラフは棒グラフや折れ線グラフなど、データを視覚的に表示したものです。グラフについてはQCストーリーのさまざま段階で使用することができ、欠かせないツールです。
ヒストグラム
ヒストグラムは、データのバラつき度合いを見るための棒グラフです。たとえば、製品の重量を測定したデータをヒストグラムで表示すると、重量がどの程度バラつきがあるかが分かります。現状把握や要因解析、効果の確認といったステップで活躍します。
散布図
身長や体重などのような2つのデータをX軸・Y軸にとり、2つの間に相関関係があるかどうかを分析するための図です。特に要因解析などで、ある問題と密接に関係している要因を探し出す際に活用できます。
管理図
管理図では、データの平均値を中心線として、上方管理限界線と下方管理限界線をそれぞれ設定します。日々のデータを管理図に示すことで工程に異常が出ていないかをチェックできます。したがって、現状把握や効果の確認、標準化のステップで活用できる図です。
チェックシート
機械の点検などで漏れがないように点検項目にチェックするような図をチェックシートと言います。多くの現場ですでに導入されていますが、QCストーリーでもテーマ選定や現状把握などに役に立ちます。
関連記事:QC7つ道具とは?業務実例から具体的な使い方を解説【練習問題付き】
新QC7つ道具とは
新QC7つ道具の具体的な中身は以下の通りです。
親和図法
親和図法は問題から抽出された言語データを、親和性のあるもの同士でグループ化するためのものです。これにより混沌とした問題を整理できます。テーマ選定や現状把握などに活用できます。
連関図法
問題の要因が複雑に絡み合った状態の時に、要因どうしの因果関係をはっきりさせる目的で使用する図です。解決の糸口を見つけることができるため、要因解析や現状把握といったステップで使用できます。
系統図法
「不良率を減らしたい」などの目的に対し、その手段を1次、2次と深掘りする手法です。創意工夫ができたり、新しいアイデアが出てきたりするため、対策の検討や実行といったステップで活用できるでしょう。
マトリックス図法
行と列に検討したい要素を並べて、それぞれの交点に評価点を下すものです。テーマ選定の時に、取り上げた複数の問題に対して、重要度や効果、コストといった評価項目により判断します。
アローダイヤグラム法
プロジェクトなどのスケジュール管理をするための図で、各計画と日数などが矢印と結合点で表示されています。活動計画を作成するステップや、対策を実施するときにいつまでにやるべきかを関係者で共有したい時に活用できるツールです。
PDPC法
目的を達成するまでの手順を示した図で、業務フロー図やフローチャート図に似たものです。改善をする時には業務フローに変更が生じることがあり、対策の検討・実行の際に、変更点とその結果を可視化しておきます。
マトリックスデータ解析法
データを散布図で表示して、データの特徴を捉えやすくした解析法です。評価項目が多く、どうやって評価を下してよいか分からない時に、評価項目をまとめることでデータ分析がしやすくなります。現状把握で客観的にデータを分析したり、要因解析で仮説を検証したりする場合に有効です。
関連記事:【図解あり】新QC七つ道具とは?QC七つ道具との違い、各手法をわかりやすく解説!
まとめ
品質管理で欠かせないQCストーリーの各ステップについて解説してきました。
QCストーリーに沿って改善を実施することで、行き当たりばったりの改善活動をするよりも改善の成功確率を上げることができます。各ステップでの注意点を念頭に置いて、QC7つ道具などを駆使して現場を改善に導きましょう。
現場改善ラボでは、元トヨタ自動車九州株式会社の品質保証部や品質管理部、組立部に従事してきた古里氏による、トヨタ式なぜなぜ分析から紐解く正しいQCストーリーの進め方に関する解説動画を無料で視聴できます。ぜひ併せてご覧ください。