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執筆者:
村木 宏吉氏(元労働基準監督署長)

悩むより、まず年間計画の策定

労働基準監督署に勤務していたとき、企業の幹部から、「安全衛生委員会で何を審議すればいいかわからない」といわれたことがありました。要は、ネタがない、マンネリで委員の誰もが出席を嫌がっているらしく、誰も発言しないというのです。

確かに、そもそもの議題がゼロの状態で何か議事をといっても、簡単には思いつかないかもしれません。その場合、まず、向こう1年間の安全衛生に関する行事を書き出してみることです。

期間 行事内容
1月 12月15日~1月15日 年末年始無災害運動
12月10日~1月10日 年末年始の輸送等に関する安全総点検
1月15日~21日 防災とボランティア週間
2月 2月1日~28日 省エネルギー月間
2月1日~3月18日 サイバーセッキュリティー月間
3月 3月1日~7日 春季全国火災予防運動
3月1日~7日 車両火災予防運動
3月1日~7日 建築物防災週間
3月1日~8日 女性の健康週間
4月 4月6日~15日 春の全国交通安全運動
4月7日 世界保健デー
5月 5月31日 世界禁煙デー
5月31日~6月6日 禁煙週間
6月 6月1日~30日 全国安全週間準備期間
6月1日~30日 男女雇用機会均等月間
6月1日~30日 土砂災害防止月間
6月1日~30日 外国人労働者問題啓発月間
6月1日~30日 環境月間
6月1日~7月10日 労働保険年度更新申告期間
6月4日~10日 歯と口の健康週間(4日は虫歯予防デー)
毎年6月第2週 危険物安全週間
6月10日~16日 火薬類危害予防週間
7月 7月1日 国民安全の日
7月1日~7日 全国安全週間
7月1日~7日 全国鉱山保安週間
7月1日~31日 熱中症予防強化月間
7月10日 労働保険年度更新申告期限
8月 8月1日~31日 電気使用安全月間
8月1日~31日 食品衛生月間
8月30日~9月5日 防災週間、建築物防災週間
9月 9月1日 防災の日
9月1日~30日 全国労働衛生週間準備期間
9月1日~30日 心とからだの健康推進運動
9月1日~30日 健康増進普及月間
9月1日~30日 全国作業環境測定・評価推進運動
9月9日 救急の日
9月10日~16日 自殺予防週間(10日は自殺予防デー)
9月21日~30日 秋の全国交通安全運動
9月24日~10月1日 環境衛生週間
9月30日 クレーンの日
10月 10月1日~7日 全国労働衛生週間
10月1日~31日 体力つくり強調月間
10月1日~31日 健康強調月間
10月10日 目の愛護デー
10月第2月曜日 体育の日
10月17日~23日 薬と健康の週間
10月23日~29日 高圧ガス保安活動促進週間
11月 11月1日~30日 特定自主検査強調月間
11月1日~30日 過労死等防止啓発月間
11月1日~30日 ゆとり創造月間
11月1日~30日 労働保険適用促進強化月間
11月1日~30日 職業能力開発促進月間
11月1日~30日 品質月間
11月5日 津波防災の日
11月8日 ボイラーデー
11月9日~15日 秋季全国火災予防運動
11月10日 技能の日
11月25日を含む1週間 医療安全推進週間
12月 12月1日~翌年1月15日 年末年始無災害運動
12月10日から1月10日 年末年始の輸送等に関する安全総点検

         (拙著「すぐに使える衛生委員会の基本と実務」(労務行政発行)の表を手直し)

これらのほか、定期健康診断、新入社員の雇入れ時の安全教育等があるでしょう。また、この表のすべてを取り上げる必要はなく、自社で必要と思われるものを会社の行事に取り組むことでよいものです。

いずれの行事も、実施の2か月前には議題に挙げておく必要があります。そして、行事の翌月には、その実施結果を委員会で報告することになります。健康診断の場合には、実施の翌月とは行かないかもしれませんが、受診率、有所見率、特に有所見者が多い健康診断項目などが報告されなければなりません。その後で、受診率向上などの対策が議論されることになります。

次に、労働災害の発生状況は毎月挙げるべき議題です。休業災害が発生したときには、直近の委員会においてただちに議題に挙げ、その原因究明と再発防止対策を審議すべきです。

また、安全衛生委員会規程を定め、委員会成立のための出席者数や議事の決議要件などを定めておきます。すなわち、委員の過半数の出席をもって委員会の開催が成立するとか、出席委員の過半数で議決するも、賛否同数の場合には議長がこれを決するなどのことを定めておくわけです。

安全衛生委員会は、労働者側委員と使用者側委員で構成されますが、厚生労働省の通達において「労使交渉の場ではない」とされています。

安全衛生委員会の進め方

安全衛生委員会を円滑に進めるためには、一定のシナリオが必要です。
「シナリオを作る」というと、テレビ番組や舞台などを思い浮かべるかもしれません。しかしここでは、安全衛生委員会を進めるため、いつ誰がどのような発言をして議事を進行していくかをあらかじめ書いておくことをいいます。

発言者

発言内容

配布物等

事務局 定刻となりましたので、〇月度の安全衛生委員会を始めます。はじめに議長である○○支社長からご挨拶をいただきます。議長、お願いします。 レジメ、災害統計、来月の行事資料、その他の参考資料等
議長 皆さんご苦労様です。先月は、労働災害がゼロでした。引き続き、労働災害防止活動にご尽力いただくようお願いします。来月は、役員の職場巡視があります。普段どおりでよいのですが、整理整頓については、十分に取り組んでください。(中略)

では、議事に入ります。
事務局議長から、先月は労働災害ゼロとのお話がありましたが、配付資料と画面をご覧ください。今年度の状況を説明いたします。(中略)

ここまででご質問はありますか。スクリーンにExcelとPowerPoint資料を投影する。中略

事務局以上で今月の安全衛生委員会を終了いたします。次回は〇月○日の水曜日です。御安全に。

安全衛生委員会は、かつての株主総会のように「異議無し」だけで進めるよりも、意見が出るほうが安全衛生管理を進められますし、各委員の議事への理解も深まるものです。その結果として労働災害防止が実現します。

また、各委員のレベルアップのため、一部の議題についての説明を、あらかじめ指名した委員に行わせるのも一つの方法です。その資料を事務局が用意するか、当該委員に任せるかは、そのテーマと担当委員によって決めるといいでしょう。発表の担当は当番制にするとよいでしょう。

発表を担当することによって、委員自身もレベルアップを図ることができるようになります。また、いつも事務局が説明するよりもマンネリ化を防ぐことができます。

注意していただきたいのは、労働組合の推薦による委員です。安全衛生に関する何の資格もない方であると、ほとんど発言しないとか、多少筋違いの発言になる可能性もあります。

そのため委員会に参加するのは、何らかの安全衛生に関する資格(安全管理者、衛生管理者、各種の作業主任者、技能講習等)を有する方が望ましいです。委員になるために受講してもらうことも考慮しなければなりません。

ニュースネタを自社に置き換える

テレビ、ラジオ、インターネットなどのニュースにおいて、様々な事件等が報道されています。これらの中で、労働災害に該当するものや、建設工事における崩壊、倒壊、あるいは通行人が被災したなどの災害や、交通事故については、内容によって自社での参考になることがあります。食中毒なども同様です。

というのは、社員食堂や職場でまとめて取っている仕出し弁当による食中毒は、労災保険の業務災害に該当することがほとんどで、休業災害になることが多く、同時に3人以上が被災すると労基署における「重大災害」に該当することとなるからです。労働者死傷病報告の提出も必要です。

交通事故は、業務で社用車を使用するとか、通勤でマイカーなどを使用する場合もあるでしょう。いずれも労災保険給付申請(業務災害と通勤災害)が絡みますから、その事例を検討することは有益です。

これらの事案については、その後の続報もチェックするなどして、安全衛生委員会で紹介するとよいでしょう。

ある大手化学会社の方から聞いた話ですが、主力工場が地方にあり、そこで事故等が発生すると黒煙がもうもうと上がるなどするので、テレビ局のヘリコプターがすぐ飛んでくる、とのことでした。また、地元の有名企業であるため、多くの住民の方々に注目されているとのことで、それもあって災害防止に力を入れざるを得ません、とのことでした。
工事現場でも同様で、黒煙が上がるような火災だと、報道陣のヘリコプターが何機も飛来することとなりかねません。

他社の事案であっても、災害が発生したときに起こるそのようなことを委員会で紹介することにより、安全衛生管理活動に取り組む意義がより強調されることでしょう。

リスクアセスメントの結果を審議する(災害発生を予測する)

社内でリスクアセスメントを実施している場合には、その結果の報告を受けて、安全衛生委員会で審議することが必要です。リスクアセスメントを実施するのは、法令上次の時期です(労働安全衛生規則第24条の11)。

1 建設物を設置し、移転し、変更し、又は解体するとき。
2 設備、原材料等を新規に採用し、又は変更するとき。
3 作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更するとき。
4 前3号に掲げるもののほか、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。

これらの場合には、事前にリスクアセスメントを実施し、その結果に基づいて必要な措置を講じなければなりません。これらの結果について、安全衛生委員会が報告を受け、審議するなどしますが、単に報告を受けて終わりにするか、承認をするかは、社内の決めによることとなります。

これは、リスクアセスメントを実施した担当者任せとしないで、その後に行うべき措置についても安全衛生委員会の立場で議論することで、会社としてその結果に責任を持つことにつながります。

なお、リスクアセスメントの実施の義務付けは、今のところ製造業、建設業、交通運輸業などに限定されています。

安全衛生委員会が活性化すると労働災害と事故が減る

社内での安全衛生委員会が活性化すると、労働災害や事故が減少します。審議内容をはじめとする議事が、概要として社内の掲示板やイントラネットにより労働者に周知されます。その内容について、労働者が意見を持てば、職場にいる委員に申し出るなどすることがあります。また、毎月の安全衛生行事に関心をもつことにもつながるでしょう。

健康診断結果にしても、所見を持つ労働者の増減やその項目が審議され、会社として労働者の健康に関心を持っていることを理解すれば、有所見者である労働者自身が、健康管理に取り組むきっかけにもなります。また、社内で直近発生した労働災害について、再発防止対策の一つとして、会社が設備的な改善による対応を取ることがわかれば、労働者にとってより安心といえるでしょう。安心感を持って労働者が働くことは、モラル向上の基礎といえます。

労働災害や交通事故あるいは物損事故等について、数字と具体的事例を(個人情報保護に気を遣いながら)公表することは、労働者に安心感を与えます。労働災害等について、「被災者の不注意」だけを発生原因だと決めつけると、それらの再発防止対策を進めることはできません。少なくとも5つ以上の発生原因が挙げられるはずですから、それらすべての要因に対策を立てなければなりません。

このような取組を続けていくことで、職場の安全衛生管理水準が向上し、労働災害等を減少させていくことができます。ただ、気をつけていただきたいのは、安全衛生委員会の活性化に取り組んだからといって、すぐ翌月から成果が出るわけではないということです。大きな労働災害が続いたということで、筆者に業務の依頼が来た場合でも、労働災害はまだ続くことがあります。なぜなら、災害発生要因に対する根本対策がまだ講じられていないからです。

筆者が職場をくまなく拝見し、安全衛生委員会に出席するなどした後、会社として何が欠けていて、どのようなことを実施しなければならないかを検討し、ある程度の期間その改善策を実施してからでなければ、成果としての労働災害減少は数字に現れてきません。

そして、筆者の仕事が終わった後、安全衛生管理活動は継続されなければなりません。その鍵が、安全衛生委員会活動にあるのです。