統括安全衛生責任者は、建設工事や土木工事、造船工事などの特定工事において複数の事業者が同じエリアで作業する場合に、労働災害や健康被害を発生させないために選任されます。

労働安全衛生法によって統括安全衛生責任者の選任が必要な場合が定められており、工事内容や作業者数などで異なるので注意が必要です。

また統括安全衛生責任者に必要な資格や教育、役割や職務などは労働安全衛生法の条文だけでは理解が難しい場合があるため、本記事で詳しく解説していきます。

建築現場や製造現場など、動きが伴う作業現場には危険がつきものです。そのような現場にとって安全管理はどうあるべきか?元労働基準監督署署長の村木氏に解説いただいた動画もご覧いただけます。

元労基署長が解説!事故の現場から見た安全管理のこれから

統括衛生責任者とは?

建設工事関係、土木工事、造船業関係において、複数の関係請負人の労働者が同じ作業場に混在する際は、統括衛生責任者を選任することが安全衛生法で規定されています。

以下では統括衛生責任者の役割や、必要な資格、選任が必要な事業者について解説していきます。

役割について

統括安全衛生責任者の役割は、事業場において労働者の安全や健康被害を防止するために統括管理することです。

建設工事などにおいて、複数の関係請負事業者の従業員が同じエリアで作業を行う場合があります。
その場合に違う事業者の作業者が、それぞれの責任者による異なる指示で行動すると、思わぬ事故や災害が発生する危険があります。

例えば一方の作業者が重量物をホイストクレーンで運搬している最中に、別の作業者が運搬経路内で掘削作業をしていた場合、重量物がその作業者と接触する可能性があります。
このようなリスクを回避するために、統括安全衛生責任者は異なる事業者の従業員に対して、安全な作業が遂行できるように指揮・管理します。


建設業その他政令で定める業種に属する事業(以下「特定事業」という。)を行う者(以下「特定元方事業者」という。)は、その労働者及びその請負人(元方事業者の当該事業の仕事が数次の請負契約によつて行われるときは、当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む。以下「関係請負人」という。)の労働者が当該場所において作業を行うときは、これらの労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、統括安全衛生責任者を選任し、その者に元方安全衛生管理者の指揮をさせるとともに、第三十条第一項各号の事項を統括管理させなければならない。ただし、これらの労働者の数が政令で定める数未満であるときは、この限りでない。

【引用:労働安全衛生法 第十五条


資格は必要?

統括安全衛生責任者に選任されるために必要な資格はありません。
ですが統括安全衛生責任者は作業場において、多くの現場作業者に指示を行い遂行させる必要があるため、現場事務所長や工事責任者が担当するのが妥当です。

その他には、現場作業経験が豊富で作業安全に対する知識を十分に保有している者が望ましいといえます。
現場作業経験のない統括安全衛生責任者だと、どのような作業方法が危険であるか判断ができない、複数の事業者が行う作業を安全な順番で順序だてることが難しいためです。

また統括安全衛生責任者は特別な資格が不要ではありますが、統括安全衛生管理に関する教育を受講した者を選任することが望ましいとされています。

選任が必要な事業者は?

統括衛生責任者の選任が必要な事業者は、建築業関係・造船業関係に属する事業者です。これらの業種を特定事業と呼びます。

さらに同じ特定事業であっても、工事の内容によって統括衛生責任者を配置させるエリアには違いがあります。
一般的に定められている工事事業者と工事内容ごとの、統括衛生責任者の配置エリアは以下の通りです。

業種工事内容統括衛生責任者の配置エリア
建築工事関係送配電線電気工事工事区画ごと
ビル建設・鉄塔建設工事工事作業場全域
変電所または火力発電所建設工事工事作業場全域
土木工事関係橋りょう・ずい道建設工事工事作業場全域
道路・地下鉄道建設工事工事区画ごと
水力発電所建設工事建設工事作業場の全域(発電所・堰堤工事)
工事区画ごと(水路ずい道)
造船業関係造船作業場、修理作業場、造機作業場、船殻作業場の全域

統括安全衛生責任者の職務

押さえておきたい労働安全衛生法の概要

統括安全衛生責任者の職務は、労働安全衛生法第十条で以下のように示されています。

  1. 労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。
  2. 労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
  3. 健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。
  4. 労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること。
  5. 前各号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な業務で、厚生労働省で定めるもの

(労働安全衛生法第10条)

【参考:労働安全衛生法 第十条

つまり統括安全衛生責任者は、労働災害の防止のために直接的には危険源を抑える対策を行うこと、間接的には労働者の教育や健康診断が職務と定められています。

労働安全衛生法で定められている職務

工事統括管理に関する6つの職務

統括安全衛生責任者に求められている6つの職務は以下の通りです。

(1)協議組織の設置・運営

(2)作業間の連絡・調整

(3)作業場所巡視

統括安全責任者は事業者より選任されると、作業場所の巡視を行うように定められています。ただし巡視の頻度が明記されているわけではありません。

(4)関係請負人が行う安全衛生教育の指導・援助

(5)仕事の工程、機械・設備等の配置についての計画作成と、機械・設備等を使用する作業に関し関係法令に規定された措置についての指導

(6)1~5のほか労働災害防止に必要な事項

建設工事で発生するクレーン作業や有機溶剤作業などの危険作業において、災害を未然に防ぐために必要書類の配布や、標識・警報などの統一を行います。

救護技術管理者に関する3つの統括管理職務

統括衛生責任者には上記の6つの職務の他に救護技術管理者を指揮・統括管理する職務があります。
救護技術管理者とは以下に示す特定の建設工事において、事業者が選任するように安衛法で定められた管理者のことです。

【参考:労働安全衛生法

特定の建設工事とは以下の作業が該当します。

①出入口からの距離が1キロメートル以上離れた場所や、深さが50メートル以上になるたて坑の掘削

②圧気工法による作業で、ゲージ圧力が0.1メガパスカル以上で行う工事

こうした特殊作業において統括衛生責任者は、救護技術管理者に対して以下の3つの職務を遂行する必要があります。

(1)労働者の救護に関し必要な機械等の備付け及び管理

(2)労働者の救護に関し必要な事項についての訓練

(3)爆発、火災等に備えて、労働者の救護に関し必要な事項

統括安全衛生責任者の選任~報告/届出

統括安全衛生責任者を選任する方法は工事の種類や、労働者数によって異なります。また選任後に必要な届出が必要になるため注意が必要です。

選任方法について

統括安全衛生責任者の選任は特定元方事業者が、工事の種類に応じてそれぞれの要件に合った管理者を指名します。同じ工事の種類であっても、労働者の人数によって必要な管理者が異なるので注意が必要です。

工事の種類と労働者数により必要な管理者は以下の通りです。


工事の種類労働者数
20人以上30人以上50人以上
(1)ずい道等の建設の仕事店社安全衛生管理者統括安全衛生責任者元方安全衛生管理者安全衛生責任者
(2)圧気工法による作業を行う仕事店社安全衛生管理者統括安全衛生責任者元方安全衛生管理者安全衛生責任者
(3)一定の橋梁の建設の仕事店社安全衛生管理者統括安全衛生責任者元方安全衛生管理者安全衛生責任者
(4)鉄骨造り、鉄骨鉄筋コンクリート造りの建築物の建設の仕事店社安全衛生管理者統括安全衛生責任者元方安全衛生管理者安全衛生責任者
(5)その他の仕事(造船現場、木造建築、改修補修工事現場等)統括安全衛生責任者元方安全衛生管理者安全衛生責任者

注1 (1)~(4)の仕事において、(元方安全衛生管理者含め)統括安全衛生責任者を選任し、指揮及び統括管理させた場合は、店社安全衛生管理者を選任し、当該職務を行わせているものとみなされます。(安衛則第18条の6第2項)
注2 (1)~(5)の仕事において、建設業における元方事業者が、統括安全衛生責任者を選任した場合は専属の者とするよう努めてください。(元方事業者による建設現場安全管理指針)
注3 「一定の橋梁」とは、人口が集中している地域内の道路もしくは道路に隣接した又は鉄道の軌道上もしくは軌道に隣接した場所をいう。(安衛則第18条の2)
注4 (1)の仕事のうち、出入口からの距離が1,000メートル以上の場所において作業を行うこととなるもの及び深さが50メートル以上となるたて坑(通路として用いられるものに限る。)の掘削をともなうもの、(2)の仕事のうち、ゲージ圧力0.1メガパスカル以上で行うこととなるものについては、建設業における元方事業者は救護に関する技術的事項を管理する者(救護技術管理者)を選任する必要があります。(安衛法第25条の2、安衛法第30条の3、安衛令第9条の2)

【引用:厚生労働省「職場のあんぜんサイト」】


選任報告/届出について

統括安全衛生責任者を選定した後は、特定元方事業者は管轄の労働基準監督署長へ報告する必要があります。
労働基準監督署への届出方法は事業開始報告の中で、統括安全衛生責任者の指名を明記して届出します。

統括安全衛生責任者に関連する役割

統括安全衛生管理者との違い

統括安全衛生管理者とは、一定以上の規模の事業場において労働者の安全や健康被害を防止するために統括管理する責任者です。労働安全衛生法第10条では以下のように記されています。



事業者は、政令参照条文①で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令参照条文②で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。

・労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること

・労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること

・健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること

・労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること

・前各号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な業務で、厚生労働省令で定めるもの

【引用:労働安全衛生法 第十条


この条文によれば、統括安全衛生管理者と統括安全衛生責任者の役割は、いずれも事業場で働く労働者の事故を防止して、安全な作業場を管理することです。それぞれの違いは取り扱う業種と事業場の規模によります。

統括安全衛生責任者が建設業と造船業において選任される職務なのに対して、統括安全衛生管理者は林業、工業、運送業、製造業、通信業、小売業など多岐にわたります。さらに業種によって、統括安全衛生管理者を選任しなければいけない労働者数が異なるので注意が必要です。

業種事業場の労働者数
林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業100人以上
製造業、通信業、電気・ガス業、水道業、卸売業、小売業、観光業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業300人以上
その他の業種1000人以上

安全衛生責任者との違い

安全衛生責任者は建設工事や造船工事現場で、労働者が安全で衛生的な環境で作業するための役割を担う責任者です。

安全衛生責任者の選任が必要な事業場で、不在のまま労働者を作業に当たらせた場合は当該事業者に50万円以下の罰金が課せられます。

統括安全衛生責任者と安全衛生責任者は、工事現場における役割が同等のため間違われやすい役割です。
その違いは、統括安全衛生責任者が特定元方事業者に選任されるのに対して、安全衛生責任者は特定元方事業者以外の請負人に選任されます。

つまり安全衛生責任者は工事業者の数と同じ人数が選任されますが、統括安全衛生責任者は工事エリアにおいて1人です。そのため統括安全衛生責任者が統括的な立場となり、安全衛生責任者に連絡を取り事業場の安全を管理する必要があります。

まとめ

統括安全衛生責任者について、役割や資格、関連する労働安全衛生法について解説してきました。統括安全衛生責任者は建設業、造船業において選任が必要であると労働安全衛生法で定められています。そして特定元方事業者に選任されて、異なる工事業者の労働者に対して職場の安全衛生を管理する責任者です。

必要な資格はありませんが、必要な教育を受講して、各事業者の労働者に統括的に指示が出せる職務に就く者が適当です。選任された統括安全衛生責任者は、労働災害を防止するために危険源対策や、労働者の教育、健康診断などを行う必要があり、安全で衛生的な職場環境を整備することが求められます。

このような安全管理はどのように取り組むべきか?元労働基準監督署署長の村木氏に解説いただいた動画も、併せてご覧ください。

元労基署長が解説!事故の現場から見た安全管理のこれから