技術伝承を進めるうえで、新人教育における人材不足や、熟練技術のマニュアル化が困難であることなど、各企業がさまざまな課題に直面しています。

そんな中、解決策として注目を集めているのが動画マニュアルの導入です。動画マニュアルは熟練作業員が無意識に行っているカン・コツといった目に見えないノウハウを可視化するうえで非常に有効な手法です。

本記事では、技術伝承がうまく進まない理由や、カン・コツを動画化する際のポイントなど、各企業が取り組むべき対策を中心に解説します。

現場改善ラボでは、現場の負担をかけずに技術や現場ノウハウを可視化する教育方法について解説する動画も無料でご覧いただけますので、本記事と併せてご覧ください。

技術伝承に不可欠な現場ノウハウを可視化した教育とは

目次

技術伝承とは?必要な理由と急務とされる背景

技術伝承とは、熟練作業員が持つ技術・ノウハウを後継者へ引き継ぐことです。言語化すると非常に単純ですが、「技術」という抽象的な情報を明確に伝えるためには課題も多く、成果をあげるにはポイントを正しく理解し実践する必要があります。

技術伝承によって伝達する情報には、形式知と暗黙知の2種類があります。形式知とは、目に見える情報や言葉で表現できる情報のことで、作業手順やノウハウなどマニュアル化することが可能です。一方、暗黙知とは目に見えない情報や言語化が難しい情報のことで、熟練作業員が蓄えてきた経験やカン、無意識に身に付いているコツなどを指します。

技術伝承を着実に行うためには、暗黙知のようにブラックボックス化しがちな情報をいかに伝達できるかが鍵をにぎっています。技術伝承は未来の技術力を左右する重要な施策であり、経営者をはじめとする会社組織全体が一丸となって取り組む姿勢が重要です。

技術伝承が急務とされる背景

「2022年版ものづくり白書」によると、製造業の就業者は2021年度までの20年間で157万人も減少しました。

中でも、若年就業者(34歳以下)の割合は2002年度の31.4%に対し、2021年度では25.2%まで減少しており、その数は121万人にのぼります。一方、高齢就業者(65歳以上)の割合は、2021年度には8.7%と高い水準を記録しており、2002年度の4.7%と比較すると33万人も増加しています。

このように、若年就業者の減少と熟練作業員の高齢化が進む中、技術やノウハウを会得した人材が退職したことで業務が滞るリスク等を避けるために、技術伝承を早急に進めることが各企業の生き残りにおいて重要な課題となっています。

出典:2022年版 ものづくり白書 「概要」 – 厚生労働省

技能伝承と技術伝承の違い

技能とは、技術を上手に使いこなすための能力のことで、技能は「センス」「感覚」などとも言い換えられます。技能は言葉に置き換えることが非常に難しく、経験を通じて習得されます。

例えば、新人社員と熟練社員では、同じ作業を行ってもスピードや完成品の品質に差が出るケースがあります。これは、熟練社員が新入社員が習得していない技能を養っているからです。

一方、技術とは、物事を上手に行うための方法や手段を指します。技術は言葉で置き換えることができるため、マニュアル等の文書に落とし込まれた知識を持って習得できるもので、ベテランの従業員が長年業務で養った技術やノウハウを後輩の従業員に伝えることや製造業における作業マニュアルなどが該当します。

技術伝承は、文書化された知識を後継者に伝えることで実現できますが、技能伝承は経験を通じてしか習得できないため、より複雑なプロセスが必要となるでしょう。なぜなら、技能伝承には言語化できない「暗黙知」の伝承が含まれるからです。

暗黙知とは、熟練社員が経験から得た知識や感覚、そしてその人だけが知るコツなどを指し、企業にとっての無形資産とも言えます。

例えば自動車の運転では基本的な操作方法だけではなく、アクセルの踏み具合やハンドルの切り方といった暗黙知も必要になります。何度も運転することでしか得られない知識や経験から「この速度では曲がるのは危険だな」といった危険を回避しながら走行することができるようになります。これらを誰かに言葉で伝えるのが難しいのは個人が持つ暗黙知だからです。

データで見る技術伝承の現状

製造業における技術伝承の重要性は、業界内外で広く認識されていますが、その現状は必ずしも理想的とは言えません。労働政策研究・研修機構の調査によれば、技術伝承を重要と認識している企業は9割以上にも関わらず、その取り組みがうまくいっていると感じている企業は半数以下という結果になっています。

ここでは、技術伝承の現状について以下の3つのデータをもとに解説します。

  • 技術伝承を重要だと考える企業が9割以上
  • 取り組みは「再雇用」と「技術の見える化」
  • 技術伝承がうまくいってない企業は4割、中小企業になると5割近い
  • 技術伝承がうまくいっている理由は「計画的なOJT」

出典:若手ものづくり人材確保の厳しさが技能継承の足かせに – 独立行政法人 労働政策研究・研修機構

技術伝承を重要だと考える企業が9割以上

調査によれば、企業の9割以上が技術伝承を重要だと考えています。

技術伝承をどの程度重要だと考えるか

資料:独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「若手ものづくり人材確保の厳しさが技能継承の足かせに」を基にTebikiにて作図

例えば、自動車製造業では、組み立てラインで働く従業員が長年にわたり培ってきた技術やノウハウが、製品の品質を保つために必要です。技術やノウハウは、新入社員に対する教育や研修を通じて伝えられ、次の世代に引き継がれます。技術伝承がうまく行われていない場合、製品の品質が低下し、結果的に企業の競争力が失われる可能性があるでしょう。

このような理由から多くの企業は技術伝承の重要性を認識し、それを実現するための具体的な取り組みを進めています。

取り組みは「再雇用」と「技術の見える化」

製造業における技術伝承で多くの企業が取り組んでいるのが「再雇用」と「技術の見える化」です。

「再雇用」は高年齢の従業員が退職後もその知識と経験を活用できるように、企業が従業員を再雇用するという取り組みです。

従業員は長年の経験を通じて独自の技術や知識を蓄積しており、それらは企業の競争力を支える重要な資産です。

例えば、ある自動車製造企業では、退職したベテランの技術者を再雇用し、新人の教育や指導にあたらせることで、その技術と経験を次世代に伝える取り組みを行っています。

「技術の見える化」は企業が技術や知識をテキスト化、マニュアル化、IT化することで、ノウハウを可視化し伝承する取り組みです。

技術や知識が明確に可視化されていれば、学ぶ人は理解しやすく、また、それを教える人は伝えやすくなります。例えば、ある製鉄企業では、製鉄の技術や知識を詳細なマニュアルにまとめ、新人がそれを学ぶことで、技術伝承を実現しています。

技術伝承がうまくいってない企業は4割、中小企業になると5割近い

調査結果によると、技術伝承がうまくいっていると感じている企業は全体の半数弱に過ぎず、技術伝承を進めるにはまだ課題が残ることがわかります。特に中小企業では、この割合がさらに低く、約5割の企業が技術伝承に課題を感じています。

製造業における人材の確保と育成、そして技術の伝承が、企業の競争力を維持し、向上させるための重要な要素であることは間違いありません。しかし、様々な理由から技術伝承が進んでいないことが製造業界の現状です。

技術伝承がうまくいっている理由は「計画的なOJT」

調査結果によると、技術伝承がうまくいっている理由で最も多いのは「計画的にOJTを実施しているから」で6割の企業が理由に挙げています。

この結果から、技術伝承をうまく進めるには「計画的なOJT」に取り組むことが重要だと読み取れます。

技術伝承がうまくいっている理由

資料:独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「若手ものづくり人材確保の厳しさが技能継承の足かせに」を基にTebikiにて作図

では、「計画的なOJT」を実行するには具体的にどのような手法をとるべきでしょうか。
下記のリンクでは、人材開発コンサルタントとして従事する専門家によるOJTアプローチについて解説した動画を視聴できます。ぜひ、ご参照ください。

製造現場における令和時代にフィットしたOJTアプローチ

技術伝承が進まない理由と課題

ここでは、技術伝承が思うように進まない企業の課題として、次の5つの理由を紹介します。

  • 人材確保が難しい
  • OJTが計画的に実行できない
  • コミュニケーションが不足している
  • 新しい技能や知識習得に対する意欲が低い
  • 業務ノウハウが動きなのでマニュアル化するのが難しい

それぞれ具体的に解説します。

人材確保が難しい

若手のものづくり人材が不足していると、その技能を次世代に伝えることが困難になります。技能を伝承する先の人材が確保できないと、そもそも技術伝承が進められません。そのため、製造業における人材確保の難しさは、技能伝承の大きな障害となっています。

例えば、過去5年間でのものづくり人材の採用に対する評価と、将来の技能伝承の見通しを比較した結果、採用がうまくいっていないと認識する企業では、将来の技能伝承に不安を感じる企業の割合が9割に達しました。

これは、若手人材の確保が難しく、技能伝承の見通しも厳しくなることを示しています。

また、同業他社と比べたものづくり人材の定着状況を見ても、定着状況が悪いと認識している企業では、将来の技能継承に「不安がある」とする回答割合が32.0%にのぼり、「やや不安がある」を合わせた割合で見ると将来の技能継承が不安だと認識する企業割合は9割に及びます。対して、定着状況がよいと認識する企業では、「不安がある」は約1割(9.6%)にとどまります。

また、ものづくり人材の労務構成のタイプ別に、技能継承に対する評価を見ると、「各世代均等」の企業が最も技能継承がうまくいっていると認識している割合が高く、次いで「若手中心」の企業が高い傾向です。

若手人材の確保と育成が技能継承における重要な要素であることを再確認できるでしょう。

業務ノウハウが動きなのでマニュアル化するのが難しい

製造業における業務ノウハウは、そのほとんどが熟練作業員の「動き」によるものですカン・コツといった無意識に行っている動きの伝承は、紙マニュアルに落とし込むのが難しいため、作成しても読むだけでは理解できず、結局使用されないことが多いのが現状です。

例えば、ネジ締め作業において、取り付け先が樹脂のようにやわらい素材の場合、「ネジを締める際に力をかけすぎるとタップ穴が損傷してしまうため、優しく締める」といったテキスト情報では、どのように優しく締めるのか、細かなニュアンスまではなかなか伝えることができません。

OJTが計画的に実行できない

前項のとおり、技術のマニュアル化は難易度が高く、マンツーマンのOJT教育に頼り切ってしまうことも少なくありません。

しかし、働き方改革が急速に進む昨今では、労働時間の削減を求められるケースも多く、各企業がOJT教育に費やす時間を十分に確保できないという問題に直面しています。

労働政策研究・研修機構の調査によると、技術伝承がうまくいかない理由として「OJTが計画的に実施できていないから」が39.4%を占めています。

技術伝承がうまくいかないと考える理由

資料:独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「若手ものづくり人材確保の厳しさが技能継承の足かせに」を基にTebikiにて作図

コミュニケーションが不足している

製造業における現場改善の一つの障壁として、コミュニケーション不足が挙げられます。労働政策研究・研修機構の調査によると、技能伝承がうまくいっていない理由の37.3%は「指導者と指導を受ける側とのコミュニケーションが不足しているから」とされており、コミュニケーションの重要性がうかがえます。

ベテランの技能や知識を若手に伝えるためには、両者間のコミュニケーションが不可欠です。しかし、そのコミュニケーションが不足していると、技能や知識の伝承がうまくいかず、結果として企業全体の生産性や効率性に影響を及ぼす可能性があります。

新しい技能や知識習得に対する意欲が低い

技術の進歩と市場の変化に対応するためには、常に新しいスキルや知識を学び続けることが必要です。労働政策研究・研修機構の調査によると、新人から一通りの仕事をこなせる一人前といえる技能者になるまでの、人材育成・能力開発の取り組みがうまくいっていると認識している企業は全体の半数強でした。

中でも規模が大きい企業ほど成功しているとの結果が出ており、大きな企業ほど教育・研修体制が整っており、新しい技能や知識の習得を促進する環境が整っているためと考えられるでしょう。

一方で、新しい技能や知識の習得に対する意欲が低いという問題は、特に中小企業や現場主導の改善活動において大きな課題となります。なぜなら、組織では、個々の従業員が自主的に学び、新しいアイデアを生み出すことが求められるからです。

具体的な例としては、新製品の開発や生産効率の向上など、現場の課題解決には新しい技術や手法の導入が不可欠です。ただし、新しい技能や知識の習得に対する意欲が低いと、改善活動はなかなか進まないでしょう。

また、新しい技術の導入によって仕事内容が変わる場合、変化に対応するためには新しい知識やスキルの習得が必要となります。

技術伝承の課題を解決する方法

人材を確保しても育成する土台がなく定着率が悪いと技術伝承は進まないです。ここでは技術伝承を成功へ導く方法として

  • 従業員に技術伝承する重要性を認識してもらう
  • IoT技術を活用する
  • 技術を整理する
  • 技術を可視化する
  • マニュアルを整備する
  • 動画マニュアルを活用する
  • 教育体制を構築する

を紹介します。

従業員に技術伝承する重要性を認識してもらう

製造業では、特に経験やノウハウが重要となる技術が多く存在し、長年の経験を通じて磨かれ、ベテラン従業員の中に蓄積されています。

しかし、これらの従業員が退職や異動で現場を離れると、その技術やノウハウは失われる可能性があります。

そのため、ベテラン従業員が持つ技術やノウハウを後継者に伝える技術伝承は、企業の競争力を維持するために不可欠です。

また、技術伝承を通じて新たな視点やアイデアが生まれ、技術の進化やイノベーションを生む可能性もあります。

例えば、ある製造業の現場では、ベテラン従業員が独自に開発した製造方法が、製品の品質向上と生産効率の向上に大いに貢献していました。

しかし、ベテラン従業員が退職することになり、製造方法が失われることを恐れた企業は、技術伝承の重要性を痛感しました。

例のように、技術伝承は企業の競争力を維持し、さらには強化するための重要な要素です。そのため、技術伝承を行う理由を現場の社員も理解し、その重要性を会社全体で認識することが、技術伝承を成功に導くための第一歩となります。

IoT技術を活用する

ヘッドマウントディスプレイなどのIoT機器を活用することで、熟練作業員の目線や細かい手の動きをデータ化し、これまで困難といわれていた「動き」に関するマニュアル作成や技術継承が可能になります。

また、属人化された工場作業をIoT技術によって効率化し、熟練作業員のリソース確保につなげることができます。例えば、生産設備の稼働状況をIoTセンサーによって可視化することで、離れた場所からも24時間いつでもデータの確認や機械操作を行うことが可能です。夜間稼働などに多くの人材を投入する必要がなくなり、新人教育にかけられる人員や時間を大きく確保することができます。

技術を整理する

技術伝承を成功させるためには、まず技術を整理することが必要です。整理された技術は、後継者が理解しやすく、また、伝承する側も教えやすいといった利点があります。

具体的には、技術の手順を明確にし、体系的にまとめることが求められますが、全てを言語化するのは難しい部分もあります。

そのため、言葉だけでなく、画像や動画を用いて、言語化が難しい内容についても伝えることが重要となります。

技術を可視化する

可視化された技術は、後継者が理解しやすく、また、伝承する側も教えやすいため、技術を可視化することが重要と言えるでしょう。

具体的には、マニュアルを作成することで、技術を可視化します。マニュアルは、技術の手順を明確に示すだけでなく、言葉では表現しきれない微妙な手先の動きや動作のスピード感、力加減なども、画像や動画を用いて表現することが大事です。結果として、形式知だけでなく、暗黙知も伝承することが可能となります。

マニュアルを整備する

整備されたマニュアルは、技術伝承の効率を大幅に向上させ、後継者の学習をスムーズに進められるでしょう。

具体的には、マニュアルは技術の手順を明確に示すだけでなく、それぞれの手順に対する注意点やコツ、そしてなぜその手順が必要なのかという背景知識も含めることが重要です。

後継者はただ手順を覚えるだけでなく、その背景にある理由や目的を理解でき、より深い理解と技術の習得が可能となります。

動画マニュアルを活用する

動画マニュアルとは?

動画マニュアルとは、業務内容や製品サービスの使用方法などを解説するために作成された動画のことです

紙マニュアル(文章型)と比較すると、動きを伴った視覚的な理解が得られるのが特徴ですスマートフォンの普及によって、いつでも作業者が動画マニュアルを確認できる時代になり、製造現場との相性は非常によい手法といえます。

一般的に1分間の動画はWebサイト3600ページ分の情報量に相当するといわれており、今後はマニュアルの動画化に対する需要はさらに拡大していくことが予想されます。

メリット①|業務ノウハウの可視化が可能

動画マニュアル活用の最大のメリットは、暗黙知を可視化することで、形式知に変換できることです。従来の紙マニュアルでは困難とされていた、熟練作業員のカン・コツなど目に見えない細かな動きを可視化し、暗黙知を形式知として記録することが可能です。

また、動画マニュアルは紙マニュアルに比べてマニュアル作成にかかる時間を大幅に削減できるため、熟練作業員にかかる業務負担を減らすことができます。

メリット②|新人教育の効率化

作成した動画マニュアルを新人教育に活用することで、OJT工数の大きな削減が可能です。また、動画化困難な技術・ノウハウのみを選別してOJTを行うなど、作業の無駄を省き業務効率化を図ることができます。

動画マニュアルは、紙マニュアルに比べてベースとなる知識を頭に入れやすいため、新人にあらかじめ視聴してもらうことで、なにもないところからOJTを開始するよりも理解が早く、作業の再現性は格段にあがります。

熟練作業員が自身の仕事をこなしながら、最低限の時間捻出によって新人教育を行うことができる他、指導者によるコツやポイントのバラつきが出ないことも動画マニュアル導入の大きなメリットです。

モノづくりの原点は人
製造現場における若手育成の定石

教育体制を構築する

技術伝承を成功させるためには、単に技術を伝えるだけではなく、後継者がその技術を理解し、自身のものとして使いこなせるようになるまでのプロセスを含むため、教育体制の構築が不可欠です。

具体的には、まずはベテラン従業員が持つ技術やノウハウを体系的に整理し、整理した情報をもとに教育プログラムを作成します。教育プログラムは、後継者が必要とする技術を段階的に学べるように設計され、各段階での理解度を確認する評価システムも含まれます。

次に、教育を担当する人材を選定し、人材に対して教育方法を指導しましょう。教育担当者は、技術の専門家であるだけでなく、教育のスキルも持っている必要があります。そのため、教育担当者自身も教育のプロフェッショナルから指導を受けることが重要です。

例えば、製造業の現場では、新入社員がベテラン従業員から直接指導を受けるOJT(On the Job Training)が一般的です。

しかし、OJTでは、ベテラン従業員の技術やノウハウが十分に伝わらないことがあるため、OJTと並行して、体系的な教育プログラムを通じて技術を学ぶことが重要です。

カンコツを動画化する際の撮影と編集のポイント

撮影|寄りを意識する

製造業におけるカン・コツは、そのほとんどが手元の作業のため、動画撮影時にはしっかりと「寄り」で撮影することが重要です。「寄り」で撮影することで、細かな動きや力加減といった熟練作業員が無意識に行っている作業のニュアンスを確実に捉えることができます。

また、撮影の基本として、撮影中はカメラを固定し、なるべく動かさずに撮影することが重要です。映像がブレることで素人さが出てしまうため、まずは手ブレによる映像の乱れを無くすことがクオリティアップへの近道といえます。

さらに、ズームする際にはカメラのズーム機能は使用しないことを推奨します。ズーム機能を使用することで手ブレの発生率が大幅にあがり、画質にも荒さが出てしまいます。

編集|一時静止、図形、字幕を活用する

カン・コツは熟練作業員にとっては意図せず自然に行っている場合が多く、単純に撮影・動画化しただけでは新人が見てもカン・コツと分からないこともあります。

従って、編集時には一時静止や図形を活用し、確実に理解してもらう点を強調することが重要です。字幕を入れることで情報を捕捉し理解を促進します。また、作成者に比べ、視聴者は理解に時間を要するため、一時静止する際は長さにも注意が必要です。

人材育成でよくある課題

人材育成では主にマニュアルを作成し、それに沿って行いますがマニュアル作成・更新が大変、現場でマニュアルを見ないといった課題があります。

それぞれについて解説します。

マニュアル作成・更新が大変

製造業は技術や手順が重要であり、正確に伝えるためのマニュアルが必要となるでしょう。しかし、マニュアルの作成や更新は時間と労力を要し、特に技術の進歩や製品の変更に伴って頻繁に更新が必要となる場合、その負担は大きいです。

例えば、新たな機械が導入された場合、操作方法や安全対策を詳細に記したマニュアルを作成し、全員が理解できるようにする必要があります。結果、現場の作業を停止させ、専門家の意見を取り入れながら進めるため、大きな労力を必要とします。

現場でマニュアル見ない

もう一つの課題は、現場でマニュアルが見られない、または見られていないという問題です。

例えば、作業者がマニュアルを見ずに作業を進めてしまった結果、製品の不良や作業中の事故が発生する可能性があります。また、マニュアルが現場から遠い場所に保管されていたり、難解な表現で書かれていたりすると、作業者がそれを参照するのを避ける傾向があります。

例のような問題を解決するためには、マニュアルを常に現場で手軽に参照できるようにすること、そしてマニュアルが分かりやすい言葉で書かれていることが重要です。

技術伝承の課題を解決した事例

ここでは、実際に動画マニュアルを導入することで技術伝承の課題を解決した事例として株式会社テック長沢を紹介します。

株式会社テック長沢

テック長沢は、新潟県柏崎市にて高精度な切削加工技術を主軸に、自動車や建設、印刷など幅広い業界へ高品質な製品を提供している会社です。同社では、技術伝承に取り組むうえで2つの課題を抱えていました。

動画マニュアル導入前の課題

・ベテラン社員が持つ細かなテクニックを新人社員へ伝えることができない

・日々のOJT教育によって、ベテラン社員が集中して作業できる時間が減少している

動画マニュアル導入後の成果

動画マニュアル作成ツールを導入することで、3分程度の動画を半年間に約100本制作することに成功しました。また、今後は年間250本の動画制作を予定しており、制作した動画は各作業場に設置されたタブレット端末から各自で閲覧できる仕組みになっています。

動画マニュアルの導入により、細かな技術の伝達やベテラン社員の負担軽減はもちろん、担当者による指導内容のバラつきなども改善され、新人社員がより技術を習得しやすい環境が整備されつつあります。

製造業では、人が去ってしまえば貴重な技術を会社に残すことは非常に困難です。編集を後回しにしてもよいので、まずは社内の技術を動画に撮影してデータ化していくことが大切です。

金属加工業テック長沢が挑む技術伝承

まとめ

各企業が技術伝承を進めるうえで、新人教育における人員不足や、技術のマニュアル化が困難であることが大きな課題となっています。

そんな中、解決策として注目を集めているのが動画マニュアルの導入です。動画マニュアルは従来の紙マニュアルでは理解が難しいカン・コツによる細かな「動き」を可視化できるため、より直感的に理解を得ることが可能です。

カン・コツを動画化する際には、撮影時に「寄り」を意識すること、編集時に一時静止や図形、字幕を活用することなど、いくつかのポイントがあり、正しく理解したうえでより実用的なマニュアル作成を心がけることが重要です。

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