特別教育とは労働安全衛生法において、特定の危険有害業務に就業する前に必要となる知識を作業者へ周知させるための教育です。

特別教育が必要となる危険有害業務とは、アーク溶接や小型車両系建設機械の運転、グラインダーの砥石交換、小型ボイラーの取扱業務など多岐にわたります。特別教育を受けずに危険有害業務に従事させると、事業者が罰せられることになるため確実に行う必要があります。

この記事では、従業員の安全第一を徹底するために必要な特別教育の種類や内容、教育の受講方法などを社外教育機関を活用する方法も踏まえて詳しく解説していきます。

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特別教育とは?

特別教育の必要性

特別教育とは、労働安全衛生法で定められた危険で有害な業務に労働者を従事させるときに、必要となる専門的な教育のことです。特別教育の必要性は「労働安全衛生法 第六章第五十九条第三項」で以下のように定義されています。


事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。

【引用:労働安全衛生法 第六章第五十九条第三項


このように、特別教育は事業者が労働者を雇い入れた時や、職場の変更などにより作業内向を変更したときなどに、特定の危険で有害な作業に従事させる場合は必ず行わなければいけません。

もし、無資格の労働者を特定の危険作業に従事させた場合、罰則(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金)が適用される場合があります。また罰則以上に重い問題として、コンプライアンス違反の問題があります。

違法行為を行っていた事業者は社会的な信用を失うという重大なリスクが課せられてしまいます。

特別教育が必要な作業とは

労働安全衛生法で定めている「危険または有害な業務」の内容は、労働安全衛生規則第36条「特別教育を必要とする業務」で規定されています。労働安全衛生規則第36条の一例を紹介します。

  1. 研削といしの取替え又は取替え時の試運転の業務
  2. アーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断等
  3. 最大荷重1トン未満のフォークリフトの運転
  4. 最大荷重1トン未満のショベルローダー又はフォークローダーの運転
  5. 小型ボイラーの取扱いの業務
  6. つり上げ荷重が1トン未満の移動式クレーンの運転
  7. エックス線装置又はガンマ線照射装置を用いて行う透過写真の撮影の業務
  8. 産業用ロボットの可動範囲内において行う当該産業用ロボットの検査、修理

このように特別教育で扱う作業の内容は、産業用機械や車両などの取扱いや、建築用機器の運転、医療用機器の操作など幅広い業種に跨っています。いずれも作業方法を間違えたり、保守管理を誤ると重大災害に発展する可能性の高い危険な作業です。

特別教育に登録されていない作業の中にも危険な作業は多く存在しますが、特別教育に該当する作業は製造業などで広く普及している作業が多く含まれています。

特定作業に登録されている内容は、労働安全衛生規則で確認することができます。

特別教育以外の安全教育

労働安全衛生法に基づく教育以外にも、安全衛生教育として設定されている教育があります。

  • 雇い入れ教育
  • 作業内容変更時教育
  • 職長等教育
  • 能力向上教育
  • 危険有害業務従事者への教育

また労働安全衛生法内の規定ではありませんが、通達において以下の教育も必要に応じて実施するように示されています。

  • 安全衛生責任者
  • 振動工具取扱い作業者
  • 騒音職場の作業者
  • VDT作業従事者
  • 重量物取扱い作業、介護・看護作業、車両運転作業等の従事者

職場の作業内容や事業環境に応じて、これらの教育についても必要に応じて実施すると良いでしょう。

特別教育の内容

特別教育の内容は、安全衛生特別教育規定で定められており受講する教育機関が変わっても同一です。講習の時間も決められており、カリキュラム通りに授業が進められていきます。

ここでは講義の流れに沿って、どのような内容が設定されているのか順番に解説していきます。

教育背景/目的

講義の序盤では教育が行われる背景や目的が解説されます。特別教育の背景とは、「なぜ該当の危険作業を特別教育として厚生労働省が広く教育するようになったか」ということです。

例えば振動工具の安全教育が行われるようになった背景には、製造業全般で振動工具が普及して振動障害予防対策が必要になったことが挙げられます。工具の選定方法や、作業時間の制限、点検・整備・保護具などの取り決めを周知させることを目的に、厚生労働省が安全教育を推奨するようになりました。

法的な位置づけでは「安全衛生法59条」内の「安全衛生規則36条特別教育」で定められています。

教育の目的は「振動工具(グラインダー、電動ハンマーなど)による振動障害を防止するために、体系的な知識を学ぶこと」です。

本論/本題

教育の背景や目的を学んだ後、教育の本題に関する講義が行われます。本題には以下の内容が含まれます。

  • 危険作業による障害や災害のリスク
  • 適正な作業方法
  • 工具の種類や選定基準
  • 工具の管理やメンテナンス方法
  • 健康管理

例えば振動工具の安全教育の場合、本論では振動障害について学ぶことになります。作業時間や方法を守らずに振動障害になると、「レイノー現象」や「白指」と呼ばれる手の指の血管が収縮して血流が悪くなる障害を発症する可能性があります。

さらに講義では障害が発症する原因や、予防方法について詳しく学んでいくことになります。

関係法令

教育の後半では関係する法令について講義を受けます。労働安全衛生法が制定/運用されてきた社会的な背景や、事業者が関係法令を守らない場合はどのような罰則を受けるのかを学んでいきます。

また、特別教育の対象となる危険作業に関する法令についても、具体的な内容を学びます。例えば振動作業は安全衛生法22条で、「振動障害予防対策指針」が定められており、防止対策が体系的に決められています。物的対策として工具の選定や管理方法、人的対策として作業方法・時間・保護具、健康管理や特別教育の実施などが求められています。

確認テスト

講義の最後には確認テストを行う場合があります。法的な規制はありませんので、確認テストの結果が悪くても受講認定が下りないわけではありません。

しかし受講者の理解を深めるために、あえて教育機関が採用している場合があります。講義の初めに確認テストを実施することを伝え、受講者がより講義に真剣に取り組んでもらうように働きかけます。その理由は特別教育は安全にかかわる講義なので、誤った認識で受講者が危険作業で災害に巻き込まれないようにするためです。

技能教育との違い

労働安全衛生法で定めている「危険または有害な業務」に従事する場合、特別教育の他にも「技能講習」や「免許」が必要となる作業があります。ここでは特に、技能教育と特別教育の違いについて詳しく解説していきます。

技能教育とは

技能教育とは、特定の危険・有害作業に従事する労働者に行うことが義務付けられた教育です。学科の他に、実技講習を受けてから修了試験に合格することで技能講習終了の資格が与えられます。

技能講習には「作業主任者」と「就業制限業務」の2種類の講習が存在しています。

  • 作業主任者に関する技能講習:危険・有害作業の直接指揮、装置の点検や監視、異常処置など
  • 修了制限業務に関する技能講習:クレーン、フォークリフト、高所作業車などの特定作業

技能講習を修了すると「技能講習修了証明書」を取得し、就業制限業務に従事することが可能となります。

技能教育と特別教育の違い

専門性の違い

技能教育と特別教育の違いとして、専門性の高さが挙げられます。免許、技能講習、特別教育の順に専門性が高い作業に従事することが可能です。例えばボイラーの運転業務では、以下のように取扱い可能なボイラーの能力に違いがあります。

  • ボイラー技士免許:伝熱面積3.0m2以上
  • ボイラー取扱技能講習:伝熱面積3.0m2以下
  • 特別教育:伝熱面積1.0m2以下かつ最高使用圧力0.1MPa以下

ボイラー以外にもクレーン運転や建設機械などでも、対応可能な業務範囲が異なります。

資格有り無しの違い

技能講習と特別講習では資格証の有り無しに違いがあります。特別講習は受講すれば該当の特定作業に従事することは可能になりますが、資格保有者となるわけではありません。

一方で、技能講習を修了すると「技能講習修了証明書」という形で、全国的に認定された資格保有者となります。転職などで会社が変わった場合でも、技能講習修了証明書があれば該当作業に教育無しで従事することが可能です。

特別教育のやり方

特別教育を受講する方法は2通りあります。

  • 外部機関を利用して受講する
  • 社内で教育を実施する

それぞれの方法について詳しく解説していきます。

外部で受講する

事業規模が小規模や中規模の事業所では、社内だけで特別教育を実施することが困難な場合があります。その場合、外部で受講する代表的な方法として、各都道府県に登録された教育機関に申し込んで受講する方法があります。

教育機関では定期的に特別教育を実施しており、公式ホームページなどで日程を公開しています。
(参考:都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧

外部で特別教育を受講する場合は、講習費用は事業者が負担すること、労働時間内に受講することが原則となっています。大規模な事業所で多くの受講者を抱えている場合は、受講料や出張にかかる時間などで負担が大きくなってしまうデメリットがあります。

社内で実施する

事業規模が大きく、コストや移動時間などを抑えたい場合は社内で特別講習を実施します。特別教育の内容は外部機関で受講する場合と同様で、安全衛生特別教育規定で定められた内容に沿って行われます。講師は社内で該当作業に長期間携わったベテラン社員が担当しているケースが多く、豊富な経験や実体験に基づいた講義が可能となります。

また、カリキュラムで指定されていない内容を講義に織り込めるメリットがあります。例えば、社内の過去の災害事例などを交えて説明することができるため、安全作業を行うために必要な注意事項を分かりやすく解説することができます。

事業者目線から見ても、社内で特別教育を実施することで受講費用を抑えられたり、ベテラン社員から若手社員へ経験や技術伝承を行う場として活用するメリットがあります

社内で実施する場合は「動画」が効果的

社内で実施する場合、前述のとおりベテラン社員が担当するケースが多いです。しかしベテラン社員が教育を行う場合、その準備から当日の実施、その他受講者のフォローなど、負荷が多くかかり現場作業に割ける時間が限られてきます。

それにより、現場の生産性低下やベテラン社員の負荷増大といった課題につながる恐れもあります。このような課題が発展しないように「動画」で実施することが効果的な方法の一つです。

動画で事前にカリキュラムを作成することで、ベテラン社員の負荷を減らすだけでなく、受講者も隙間時間に受講が可能になり、分からない部分は見返せるといった様々なメリットがあります。

動画マニュアルのメリットや作り方は「はじめての動画マニュアル作成ガイド」で解説しているのでご覧ください。

はじめての動画マニュアル作成ガイド

修了証の発行と保存について

特別教育終了後は修了証の発行や、実施記録の保管が必要となります。修了証には特別教育の科目名や受講日時などが記録されています。

修了証の発行は必ずしも義務ではありませんが、外部の教育機関では交付されています。社内で特別教育を実施した場合は、修了証の発行は行わず記録のみで問題はありません。

記録する内容は受講者氏名・科目名・受講日時などが必要となり、記録期間は3年間と労働安全衛生法で規定されているため注意が必要です。


第三十八条 事業者は、特別教育を行つたときは、当該特別教育の受講者、科目等の記録を作成して、これを三年間保存しておかなければならない。

【引用:労働安全衛生規則の第38条


その他の注意事項として、受講者の氏名が変更になった場合は記録を書き換える必要があります。

まとめ

ここまで特別教育の概要や対象となる作業、教育内容や受講方法、修了証・受講歴の管理について解説をしてきました。

労働者を新たに雇った時や、作業内容を変更する場合は特別教育を受講させないと法律違反で処罰される可能性があります。

そのため従事する作業が特別教育の対象となるか、労働安全衛生法を確認する必要があります。受講が必要な場合は、社内で講義を行っていない場合は、都道府県に登録されている教育機関に申し込んで受講することが可能です。受講内容は特別教育によって異なりますが、教育の背景や目的、危険作業の原因や予防方法、関係法令などについて講義が実施されます。

受講後の修了証の配布は任意ですが、受講記録の保管は3年間が義務です。こうした法令を遵守しない場合、コンプライアンス違反に対する社会的責任が重要視される現代では信頼を失う可能性があります。

受講漏れや記録不備が起きないよう事業者や管理者は一層厳重に管理する必要があります。

元労基署長が解説!
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