生産現場において、製造原価の抑制や生産性の向上のために必要な指標のひとつが歩留まりです。歩留まりが発生している原因を把握することで、現場の課題を洗い出して改善策を検討できます。また歩留まり率を求めることで、歩留まりがどれくらい発生しているのか定量的な把握にも繋がります。
本記事では歩留まりの意味や歩留まり率の計算方法、歩留まりが悪化する要因や改善手法について解説します。
現場改善ラボでは、歩留まり発生の原因を明らかにし、現場で歩留まり改善を実践する具体的な方法について、専門家による解説動画を無料でご視聴いただけます。ぜひこの記事と併せてご参考ください。
歩留まり/歩留まり率とは?計算方法
製造業の製品開発や生産管理において、重要な指標が歩留まり率です。製品価格の見積もり、材料の発注量の計算などに歩留まり率の把握が欠かせません。生産効率や粗利率の向上に取り組む際も、現状の歩留まり率について知っておく必要があります。
まずは歩留まりと歩留まり率の意味や計算方法、歩留まり率に関係するその他の指標を説明します。
歩留まりと歩留まり率の意味
歩留まりとは製造業において、原材料や素材などの使用量に対する完成品の割合のことをいいます。
歩留まり率とは、歩留まりを百分率で示した数値のことです。たとえば100kgのステンレス板をプレス加工して、80kgの製品が完成した場合の歩留まり率は80%となります。
歩留まり率の計算方法
【歩留まり率の計算式】
完成品数÷原材料数×100=歩留まり率(%)
歩留まり率が高ければ、原材料のロスが少なく効率的に生産できている状態です。ここでいう完成品数には、良品と不良品のいずれも含まれます。ただし、業種によっては歩留まり率の分子を完成品数ではなく良品数としていることもあります。
適正な歩留まり率とは?
適正な歩留まり率は、一概に算出することはできません。なぜならば、歩留まり率は製品の形状や材料、加工方法によって異なるからです。
加工方法によって異なる歩留まり率
たとえば金属を抜き型のプレス製品や切削品は原材料を切ったり削ったりして製造しますので、歩留まり率は低い傾向です。一方で樹脂ペレットを射出成形機に投入して成型する樹脂製品や、金属を折り曲げる板金加工の歩留まり率は高くなります。金属や樹脂を金型に流し込んで成型する鋳造品も歩留まり率は高い傾向です。
同じ姿の完成品であっても、製造方法によって歩留まり率は変わります。たとえば「ネジ」を製造する場合、切削加工であれば、歩留まり率は45%から50%ですが、冷間鋳造であれば90%以上の歩留まり率も実現可能です。とはいえ冷間鋳造には、製品ごとに金型が必要となりますので、冷間鋳造を選択したからといってすぐさま製造原価が減少するわけではありません。
不良品が歩留まり率に与える影響
歩留まり率を、「良品数÷原材料数」で算出する場合は、加工機への材料残りや、切削によるロスの発生に加えて、不良品が歩留まり率を悪化させます。たとえば樹脂成形品における「完成品数÷原材料数」で算出した歩留まり率が90%であった場合、原材料数が1000だった場合は完成品数は900となります。この製品の良品率が90%の場合の良品数は810です。したがって「良品数÷原材料数×100=歩留まり率(%)」の式に当てはめると、歩留まり率は「810÷1000×100=81%」となります。
製造過程で止む無く生じるロスの減少は容易ではありません。しかし不良品の発生は、作業標準の策定や人材育成、スキルの向上といった施策によって抑制可能です。したがって、歩留まり率の適正化の第一歩は不良品の減少にあるといえ、ひいてはQCDの最適化につながります。
QCDを最適化させ、利益と結び付けるためにはどうすればよいのか?現場改善ラボでは専門家が解説する動画を無料で公開中なので、本記事と併せてご覧ください。
歩留まり率が悪化する原因と分析手法
歩留まり率が悪い製品は、原価率が高くなる上に不良品の選別などのリソースも割かれ、全体の利益率や生産性にも影響を及ぼします。なぜ歩留まり率が悪くなってしまうのでしょう。まずは原因を分析してみましょう。ここでは「良品数÷完成品数×100」で算定する歩留まり率について説明します。
歩留まり率が悪化する原因
歩留まり率が悪化する原因を大別すると「不良品の多さ」と「材料ロスの多さ」に分類できます。
不良品が多い原因
不良品が発生する原因はさまざまです。ヒューマンエラーを始めとする作業の不備によって生じる不良品もあれば、製造設備の不具合や、製品設計のミスや金型設計のミス、材料の不具合等によって引き起こされるものもあります。代表的な不良品の発生原因は以下の通りです。
- スキル不足
- 単純なヒューマンエラー
- 設備の不具合
- 指示書の誤り
- 非効率な生産プロセス
- 製造工程の煩雑さ
- 製品設計のミス
- 適切な治具がない
- 金型設計のミス
- 材料の選択ミス
- 不良材料の使用
- 温度、湿度管理等の誤り
何かしらの原因によって異常が発生しない仕組みづくりが第一に大事ですが、現実的に厳しいでしょう。そのため異常が発生した際に、製品の品質はどうなのか?作業の品質はどうなのか?を把握し改善することが必要です。
製造現場で不良品を防ぐために必要な品質改善の手法は以下の記事をご覧ください。
関連記事:製造業における品質改善5つの手法は?品質バラつき防止の取組事例を解説
原材料のロスが多い原因
原材料のロスが生じるおもな原因は以下の通りです。金型の設計を変更しなければならないケースもありますが、生産現場での取り組みで、原材料ロスを抑制できることもあります。
- 金型設計のミス
- 材料取りが不適切
- 原材料投入方法が不適切
- 作業習熟度の低さによる初歩的なミス
歩留まり率が悪化している際の分析手法
歩留まり率が悪化している原因を分析するためにまずやるべきことは、不良品数と材料ロスの把握です。不良品の発生数は、生産数と良品数をカウントすることでわかります。材料ロスを把握するためには、不良品や材料の廃棄物、排出物を把握する必要があります。
射出成型の場合であれば、成型機の中に残っている材料を計量することで製造過程で生じるロスがわかります。プレス加工であれば「抜きカス」の重量を量ることでロスを把握可能です。これらの分析によって歩留まり率が悪化している原因を、不良品によるものなのか、原材料ロスによるものなのかを切り分けます。
不良品の発生で歩留まり率が悪化している場合の分析手法
不良品の発生頻度が高い場合には、不良品の発生状況を記録しつつ不良内容を分析します。不良品の発生状況を記録することで、その不良が発生する時間帯を把握できます。特定の従業員が担当しているときに不良が頻発している場合には、当該従業員の作業習熟度の低さが不良が発生する一因といえます。
また不良品自体を分析することで、設計ミスや設備の不具合、製造工程の不備、材料不良等といった原因がわかります。
原材料のロスで歩留まり率が悪化している場合の分析手法
この場合、原材料のロスがどの工程で発生しているのかを分析する必要があります。
たとえば射出成型であれば樹脂材料の通り道の形状によって材料残が発生することがありますし、樹脂・金属製品を問わずバリが多ければロスも増えます。原材料のロスが多い原因を分析するためには、生産現場のリーダーやマネージャーが現場で手を動かすことが重要です。
図面や完成品、検査証のチェックだけでは原材料ロスの原因はわかりません。
歩留まりの改善手法
歩留まりを改善する方法は「製品品質の向上」と「原材料ロスの改善」です。これらの目標を達成するためには以下の方法が検討できます。
製品の品質を向上する手法
製品の品質を向上するためには、複数の施策を組み合わせる必要があります。また一朝一夕で達成できるものでもないため、継続した取り組みが必要です。
作業習熟度を上げるための講習会・OJTの実施
作業者の習熟度が低いことで不良が発生している場合には、スキルの均一化やスキルアップが欠かせません。ベテランによるOJTの実施、品証担当者や、開発担当者、外部講師による全体講習の実施などが有効です。
▼講習会・OJTのメリット
・作業習熟度が低い作業者のスキルを一度に底上げできる
・OJTの場合、個別に指導することで、特定の作業者に対してもアプローチできる
・外部講師の指導を受けることで新たな技術・手順を社内に導入できる
▼講習会・OJTのデメリット
・外部講師を招聘する場合はコストがかかる
・勤務時間内に講習会を開催する場合は、生産量が落ちる
・教育担当者によって教える内容がバラつく恐れがある
・ベテランに質問が集中し定常業務の生産性に影響を及ぼす
デメリットを解消しつつ、OJTを効果的に進める方法は、以下の記事でご覧ください。
関連記事:OJTとは?OFF-JTの違い、負担を減らして効果を出す方法も解説!
QC工程表の作成・運用
QC工程表は製品の品質を一定にするための作業計画や基準等を明記した書類です。QC工程表を作成することで、すべての工程の担当者が作業の流れや品質の基準を確認できます。
▼QC工程表の作成・運用のメリット
・すべての関係者が全工程の作業内容や品質基準を把握できる
・作業標準を作成する際の基準になる
・作業者が自分の担当箇所を点ではなく、流れとして把握できる
▼QC工程表の作成・運用のデメリット
・作成には生産現場だけでなく、品質保証部や開発など複数部署の連携が必要で手間がかかる
・現場で活用されなければ無意味になる
QC工程表の作成に関しては、以下の記事で公開しているので併せてご覧ください。
関連記事:QC工程表(QC工程図)の作り方は?項目例も解説!
SOP(標準作業手順書)の作成や見直し
SOPを作成することで、製品や工程に応じた作業内容を明文化します。手順や使用する材料の分量や工具・治具の指定等を細かく記載しておきます。すでに標準作業手順書がある場合も、手順に不備があることもあるので見直しましょう。
▼SOP(標準作業手順書)の作成や見直しのメリット
・作業者による品質のばらつきを予防できる
・作業を細かく指定することで、作業内容の曖昧さを回避できる
▼SOP(標準作業手順書)や見直しのデメリット
・具体的かつわかりやすい作業標準でなければ、意味をなさない
・作業者が活用しなければ無意味になる
SOP(標準作業手順書)の作り方やコツは、以下の記事で公開しているので併せてご覧ください。
関連記事:SOP(標準作業手順書)とは?マニュアルとの違いや作成のコツを解説
適切な工具・治具の採用
作業内容・設備に応じた適切な工具・治具を導入し、使用を徹底することで、作業効率が向上します。また全員が同じ工具・治具を使用することで品質のばらつきを防止できます。
▼適切な工具・治具の採用のメリット
・作業効率が向上する
・適切な治具を活用することで、若手・ベテランの品質を均一化が可能になる
・生産速度が向上する
・作業が容易になる
▼適切な工具・治具の採用のデメリット
・工具の購入や治具の製作などに費用がかかる
・工具・治具の管理作業が増える
製造設備へのIoT機器の導入
設備のIoTを導入することで、稼働状況データや、エラー、温度等のデータの取得が容易になります。
▼製造設備へのIoT機器の導入のメリット
・手間をかけることなく生産状況を把握できる
・不良品発生時のエラーの状況や機械の温度を確認できる
▼製造設備へのIoT機器の導入のデメリット
・導入費用がかかる
・製品によってはランニングコストがかかり、固定費が増加してしまう
IoTに関する基礎知識を改めて確認したい方は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:IoT をわかりやすく解説!普及した背景や今後の動向も交えて解説!
原材料ロスの改善
原材料ロスの改善も、品質向上の取り組みと同様に、継続して実行し続ける必要があります。端材の再利用やスクラップの売却は、実行しやすい施策です。現場責任者と相談をしながら推進しましょう。
材料取りの見直し
金属プレスや切削品は、材料取りを見直すことで、歩留まり率を改善できます。
▼材料取りの見直しのメリット
・材料のロスを確実に削減できる
▼材料取りの見直しのデメリット
・作業内容の均一化のための研修が必要
設計の見直し
設計上の不備がある場合は、設計を見直すことで原材料ロスを削減できます。
▼設計の見直しのメリット
・根本的な課題を解決できるため、ロスの削減が確実である
▼設計の見直しのデメリット
・非常に手間がかかる
端材の再利用
材料の端材を別製品で利用するなどすると、現場全体の製造原価を低減できます。
▼端材の再利用のメリット
・サステナブルな取り組みとして企業イメージの向上に繋がる
・利益率がアップする
▼端材の再利用のデメリット
・サイズが合致する別製品がなければ実現できない
・端材の移動や管理などの手間が増える
スクラップの適正価格での売却
樹脂、金属、ゴム等素材を問わず、廃材を廃棄していた場合は、適正価格での売却を検討します。
▼スクラップの適正価格での売却のメリット
・利益率がアップする
▼スクラップの適正価格での売却のデメリット
・市場価格によって売却価格が上下し、収入が安定しない
歩留まりの改善事例
ここでは歩留まりの改善した実際の企業事例として、ダイヤテックス株式会社をご紹介します。ダイヤテックス株式会社は、粘着テープ・農業資材・産業資材・シート類・人工芝等の開発、製造、販売を行っています。
生産課題として、画像処理技術を用いた探知機械にて製品の不良箇所を検知していますが、探知レベルを上げると異常箇所の過検出(正常部を異常部と判定すること)が生じてしまいます。そこでAI外観検査ソリューションを導入したことで、探知機械では実現できなかった正常部の過検出抑制を実現しました。
AI外観検査に関して、以下の記事で公開しているので併せてご覧ください。
関連記事:AI外観検査とは?メリットや導入の流れ、事例を解説!
まとめ
製造業における歩留まり率とは、使用した原材料における完成品の割合です。歩留まり率を把握して、その悪化の原因を分析・改善策を講じることで、生産性の向上や原価率の抑制に繋がります。低水準な歩留まり率、低下する歩留まり率の改善を目指す場合は、今回歩留まり率を計算した上で、業種・製品に適した分析法や改善法を検討してみましょう。
現場改善ラボでは、企業の設計・生産技術・購買・製造部門における原価管理システムのコンサルティング業務に従事する大塚氏による4Mの視点から実践する歩留まり改善の解説動画を無料で視聴できます。歩留まりロスを改善し、総合的なコストダウンを実現したいと考えている方は、ぜひこの機会にご視聴くださいませ。