生産現場で生じるムダは、生産効率や作業効率、従業員のモチベーションなどを低下させる大きな要因です。とはいえムダは多岐にわたっているため、簡単には排除できません。そこで今回はトヨタが提唱する「7つのムダ」とその排除方法について解説します。

トヨタ生産方式の構成

トヨタ生産方式とは、トヨタが生み出した生産方式で、「ムダの排除」を目的にしています。トヨタ生産方式の基本は「ジャストインタイム」と「自働化」です。さらにこの2つの生産方式を実現する4つの手法も提唱されています。その4つの手法のひとつが「7つのムダの排除」です。

ジャストインタイムは必要なものを必要な分だけ生産する方式

ジャストインタイムは、「ちょうど間に合う」「ギリギリに間に合う」といった意味です。トヨタ式のジャストインタイムは、ムダな在庫を持たず、必要なものを必要な分だけ生産する方式のことを指します。

ジャストインタイムを実現するための生産方式が「かんばん方式」です。かんばん方式では、納入時間や必要数量などを記載した作業指示書を使用して、数だけでなく納品時間もコントロールします。

自働化で人の働きを着替えに置き換える

一般的な自動化は人間の作業を機械に任せます。たとえば「梱包の自動化」であれば、手作業で行っていた梱包作業を梱包専用機器に任せることを指すでしょう。一方で、トヨタ式の自働化は、一般的な自動化ににんべんがついています。自働化では、人間が判断していたことを機械に判断させます。

たとえば、従来の生産ラインで不良が生じた場合、「責任者や担当者が製品の不良を見つけて、機械の稼働を停止する」という流れで製造を停止して、不良が生じた原因を究明して、対策を検討します。

ところがトヨタの自働化は「品質の異常を製造機器が検知して、製造を停止する」という方式をとっているのです。これにより、責任者や担当者は製品やライン稼働を常時監視する必要がなくなります。また機械は即時に不良品を検知できるため、原材料と時間のムダも最小限で済みます。

4つの手法

トヨタ生産方式を実現する4つの手法は以下の4つです。

・カイゼン……現場の作業効率をよくすること

・問題の見える化……問題が生じたときに全員で共有すること

・なぜなぜ分析……問題の原因を洗い出して、原因1つに対して5つの質問を行うこと

・7つのムダの排除……生産現場で生じるムダを徹底的に排除すること

本記事では、7つのムダの排除について解説します。

7つのムダ

トヨタ式の7つのムダとは?

続いてトヨタ式の7つのムダを1つずつ詳しく確認していきましょう。

加工のムダ

加工のムダとは、必要のない加工を行うことで生じるムダのことを指します。図面で仕様が変更になり工程が減っているにも関わらず、現場まで指示が行き届いておらず、旧図面のまま加工をしているようなケースが加工のムダといえます。また必要のない検査も加工のムダです。

必要のない作業の事例

「作業効率向上のために、メックネジ(ネジ部に接着剤があらかじめ付着されているネジ)が導入されたにも関わらず、現場にメックネジについての説明がなされずに、接着剤を用いていた」という事例は、わかりやすい加工のムダです。

振動等によって緩みやすい箇所は、ネジ締めを行う際に接着剤を用いることがあります。しかし手作業での接着剤塗布は、塗りむらや作業者によるバラツキが出てしまいやすい傾向です。

そこで開発部署は、使用するネジをメックネジという、ネジ部にあらかじめ接着剤を塗布する仕様に変更して、生産管理者はメックネジを発注しました。ところがその変更が現場には伝わっておらず、現場ではメックネジを締める際に接着剤を塗布し続けていたのです。

必要のない検査の事例

必要のない検査を行っていた事例を2つピックアップしました。いずれも、本来であれば必要のない作業であり、加工のムダといえます。

・良品率、直行率ともに高い製品にも関わらず、品質保証部が外注企業に全数検査を依頼していた

・従業員の不正を防止するために監視員を配置したところ、監視員がまともに業務を遂行しないため監視員を監視する人員も配置した

在庫のムダ

在庫のムダとは、以下の4つの在庫を持ちすぎることをいいます。

・原材料

・部品

・仕掛品

・完成品

「なぜここにあるのか」を説明できない在庫はすべてムダと定義されています。

材料のムダ事例

たとえば「原材料の投入ミスが発生したときのために多めに原材料在庫を用意しておく」という在庫の持ち方は、一見合理的に思えます。しかし、原材料を多く在庫しておくことで「倉庫の維持・管理コストのムダ」「在庫管理のムダ」を生み出します。

さらに「失敗したら予備の原材料を使う」というスキームが恒常化することで、「原材料の投入ミスが頻繁に生じる異常な状態」が隠れてしまいます。本来は「原材料の投入ミスが発生しないような作業工程を考えること」が正しい対処法といえるでしょう。

完成品のムダ事例

「顧客が急納期で発注するから完成品を多めに在庫しておく」という判断も、完成品のムダに繋がります。たしかに短納期・急納期が多い顧客の製品は、発注書が届いてから着手していては納期に間に合わないケースが少なくありません。

しかし、発注が確定していない状態で在庫を持つと、仕様変更等によるデッドストック化のリスクがあります。さらに過剰な在庫は「顧客がラインに投入したところ不良が混ざっていた」といったトラブルが生じたときに、検査・手直し、作り直しなどのムダな加工も生み出します。

完成品の在庫が増えると、倉庫に搬入する手間も増えます。在庫がわずかであれば、平置き倉庫に保管できますが、在庫量が増えれば立体倉庫や回転ラックなど、出し入れ工程が面倒な場所に保管することになるでしょう。

そうなると、生産現場のスタッフだけでなく倉庫スタッフの工程も増えてしまいます。さらにいえば、棚卸に引っかかると生産管理担当などの事務スタッフの手間も増加するのです。

不良や手直しのムダ

不良や手直しのムダには多数のムダが内包されています。ここではその代表的なものをご紹介します。

・不良品の発生によるライン停止のムダ

・不良品の選別によって生じる人件費のムダ

・不良品の回収のために生じる人件費のムダ

・不良品の原因究明にかかる人件費のムダ

・不良品の手直し/作り直しによって生じる人件費・材料費のムダ

・不良品の再発防止策を講じるためにかかるコストのムダ

・不良品の廃棄によって生じる原材料のムダ

・不良品の廃棄によって生じる廃棄コストのムダ

製造している製品の用途や材料、単品なのかアッセンブリーなのかによっても不良によって生じるムダは異なりますが、いずれにしても不良によって生じるムダは他のムダと比較しても、損失が計り知れません。

不良のムダの事例

不良のムダは、生産現場のメンバーだけでなく、生産管理、営業担当者、品質担当者まで、製造業に関わる多くの方が身にしみて実感しているムダかと思います。ここでは一般的な不良が発生した場合の流れを見ながら、ムダを考えてみましょう。

顧客から不良発生の一報を受け取った営業担当者はすぐさま顧客の元に向かい、不良品を確認します。顧客のラインを止めるわけにはいかないので、営業担当者がスーツを着たまま選別作業に取りかかりますが、在庫数が多く手が回りません。他の営業担当者やバックオフィススタッフにも応援を頼みます。さらに品質保証部のスタッフも呼び出して、不良を持ち帰ってもらい、速やかに原因究明を行う必要もあるでしょう。

同時並行で、生産現場では品質保証部と連携をとりながら、在庫品の選別を行い、速やかな良品の納品に努めます。それでも足りなければ急ピッチで良品を生産しなければなりません。とはいえ同じ作業工程で作れば、不良が生じるリスクは変わりませんので、完成品は全数検査です。もはや社内には全数検査を行える人員はいないため、外注することになります。

ここまでの作業は不良発生から1日〜2日程度で行われますが、不良対応はこれだけでは終わりません。不良の原因が特定できたら、再発させないための対策を検討することになります。治具の設計・製作や、目視検査の実施、原材料の切り替えなどが代表的な再発防止策です。

すべての関係部署が連携を取りながら顧客への報告書も作成しなければならないでしょう。顧客からの信頼を取り戻せる状態になるまで、全数検査は継続する必要があります。不良の収束を、「全数検査から抜き取り検査への移行」と定義するのであれば、発生から収束までに1年以上要することも少なくありません。

不良が発生してから収束するまでに発生するムダがいかに大きなものであるかがおわかりいただけるかと思います。不良がなければ、営業担当者は新規開拓や新製品の売り込みに注力できたはずですし、生産現場は製造を継続できました。選別や手直しの外注費も不要です。

品質保証部は、本来行うべき検査と同時並行で不良対応を行うので、残業代も増加したことでしょう。さらに、すべてのスタッフのモチベーションにも影を落とします。

手待ちのムダ

手待ちのムダとは、作業者がやるべき仕事がない遊んでいる状態で生じるムダです。手持ちのムダは、「前工程の遅延」や「おおざっぱな生産計画による不均一な作業量」「機械の故障による作業のストップ」「原材料の配送遅延」といった原因で発生します。手待ちのムダは、人件費のムダや生産効率の低下に直結するムダです。ときには手待ちのムダによって、「忙しく働いている作業者」が「手待ちの多い作業者」への不満を募らせて、現場の人間関係が悪化することもあります。

手待ちのムダの事例

手待ちのムダについては代表的な事例を複数ご紹介します。

・前工程で不良が発生したため後工程の作業者が手待ちになった

・日産3000個製造できる機械の生産計画が「月6000個、火1000個、水5000個、木400個」というように均一化されておらず、残業が生じる日と手待ちになる日の落差が大きい

・原材料の配送が遅れてしまい、やることが何もない

・前工程の作業者の手が遅く後工程のベテランが手待ちになる

・製造機械が故障してしまい、作業を進められない

これらの手待ちのムダは、手待ちとなっている作業者の人件費のムダだけでなく、手待ち状態が解消されたときに生じる残業代のムダにも繋がります。前工程の作業遅延や不良の発生、原材料の到着遅延などによって、一部の工程が手待ち状態になっていたとしても、納期や納品数の変更は難しいケースが多いでしょう。そうなると法定労働時間内に手待ち状態であった作業者が、法定外労働を行うことになり、会社は超過勤務手当を支払う必要があります。

作りすぎのムダ

作りすぎのムダとは、製品を作りすぎることによって生じるムダです。作りすぎのムダは在庫のムダや手待ちのムダに繋がります。作りすぎて在庫が増えれば在庫管理の手間がかかりますし、過剰在庫状態になれば、手待ちのムダが生じてしまいます。また作りすぎの状態が常態化すると、さまざまなミスや異常状態が見過ごされやすくなるリスクもあります。

作りすぎのムダの事例

とあるマシニング加工機のベテラン作業者は、担当している機械の故障によるラインの停止や、不良品の発生に備えて、自主的に発注書や指示書よりも多めに製品を製造していました。彼の隠し在庫は、生産管理のメンバーからは好評で、「いざというときに頼りになる」と評判は上々です。指示ミスなどで、急に製品が必要になったときに、すぐさま納品できます。

ところが、前触れもなく仕様変更が実施されました。ベテラン作業者の隠し在庫はすべてデッドストックとなってしまいます。仕様変更前に顧客の指示で製造していた製品は、顧客によって買い取ってもらえますが、余剰在庫はすべてスクラップとして売却するしかありません。

この事例の表面上のムダは「デッドストック」ですが、実はベテラン作業者のリソースもムダになっています。本来であれば、彼は他の製品を製造できたであろう時間に不要な製品を作り続けてきました。また生産管理メンバーのミスも、彼の隠し在庫によって挽回されているので、ミスが繰り返されてしまいます。

動作のムダ

トヨタ式の「動作のムダ」は製造の進捗に関係しないすべての動作です。たとえそれが製造するために欠かせない動作であっても、その動作によって製品が完成に近づかなければ動作のムダと判断されてしまいます。

たとえば、「作業手順をを忘れたから事務所に戻って調べる」「治具が見当たらないから探す」「棚の下にある材料や工具を取るためにしゃがむ」「作業を進めるために、何度も工具を持ち替える」といった動作は「動作のムダ」です。

動作のムダの事例

動作のムダに該当する複数の事例を紹介します。

・作業員の数に、工具の数が見合っていない状態で、作業員は工具を使うために工場内をくまなく歩いて探す必要がある

・冶工具が工場内のあちこちに保管されており、作業者の移動距離が長い

・作業標準が現場に掲示されていないため、不慣れな作業者は、事務所に閲覧しに行く必要がある

・作業標準がテキストベースだから、作業者の理解が進まず、作業標準を読んでいる時間が長い

・製造に際して必要な工具・材料等の保管場所が、地面に近く何度もしゃがまなければならない

運搬のムダ

運搬のムダとは、必要のない運搬のことです。仕掛品や原材料、部品等を取りに行く作業や、仮置き場所への運搬、余剰在庫の倉庫への運搬、在庫の管理などが運搬のムダといえます。運搬のムダは、原材料や仕掛品、完成品などの過剰在庫によって生じることもあれば、作業場のレイアウトの悪さによって生じることもあります。

運搬のムダの事例

以下のような事例は運搬のムダです。

・原材料の「仮置き場」と「保管場所」が存在しており、原材料が届いたら両方の在庫状況を確認した上で保管場所を決めるため、原材料の運搬に時間がかかる

・前工程と後工程の作業場が工場内で離れており、仕掛品を後工程に運ぶ時間がかかる

・完成品の在庫が多すぎるため、完成するたびに箱詰めをしてからフォークリフトで立体倉庫に運ぶ必要がある

・原材料や部品置き場と作業場が離れており、運搬に時間がかかる

7つのムダの排除方法

7つのムダの概要をマスターしたところで、ムダを排除する方法も確認しておきましょう。ムダの排除方法は多岐にわたりますので、ここでは代表的なものを紹介します。

ムダの名称ムダの見つけ方ムダの排除方法
加工のムダ・現行の図面と作業標準、現品が一致しているかどうかを確認する

 

・作業者ごとに作業状況を観察して、バラツキを確認する

・最新の作業標準に従った加工に是正する

 

・作業者ごとに加工のバラツキがある場合は、OJTや研修等で均一化を図る

在庫のムダ・原材料・仕掛品・完成品の在庫数を調査する

 

・生産計画に即した在庫か否かを判断する

・原材料は保管場所を統一して、小ロットで発注する

 

・仕掛品・完成品のムダな在庫を減らすために、小ロット生産は一個流し生産などを取り入れる

不良のムダ・製品ごとの不良率と直行率を調査する

 

・検査体制を調査する

・不良率が高い製品、直行率が低い製品の生産工程や作業標準、原材料等を見直す

 

・不良品を早期に発見できる仕組みを作る

手待ちのムダ・工程ごとの標準時間を計測する

 

・一個流しで全体の流れを検証する

・計測した標準時間にしたがって生産計画を見直す

 

・手待ちがの発生が、機械のエラー等の作業者に起因しない場合には、機械のメンテナンスを実施するなど抜本的な解決策を講じる

作りすぎのムダ・工程ごとに1日当たりの生産量を調査する

 

・原材料の使用量を確認する

・完成品置き場をひとつにまとめて在庫状況を可視化する

 

・定期的に実地棚卸を実施する

動作のムダ・工程ごとに作業者の一連の動作を確認する

 

・作業標準と作業者の実際の作業を比較する

・作業者にムダな動作についてヒアリングを実施する

・作業標準を定めて、実践を徹底する

 

・冶工具を、作業者が容易に取り出せる場所に配置する

・冶工具を一箇所にまとめて、「○○製品用冶工具」と明記するなど、探す時間を最小限に抑えるよう工夫する

・作業標準を動画化するなど、作業者が理解しやすい方式に変更する

運搬のムダ・原材料・仕掛品・完成品の保管場所を確認する

 

・前後工程間の距離を確認する

・各在庫品の保管場所は1つに固定する

 

・前後工程間の距離が長い場合は、移動する

・使用頻度によって、保管場所を決める(使用頻度が低いものは立体倉庫、頻繁に使用するものは工場内平置きなど)

7つのムダを把握して、現場の生産性を向上させよう

トヨタ式の7つのムダという考え方は、企業や生産体制の規模を問わず活用可能です。7つのムダを洗い出して、排除策を講じることで、生産性の向上だけでなく利益率の向上や、従業員のモチベーションアップも期待できます。

「どうもうちの工場はムダが多くて困る」とお悩みのご担当者様、経営者様は7つのムダの考え方に沿って、問題点を可視化してみましょう。

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