KYT(危険予知訓練)とは、職場の労働災害を予防するために、メンバー全員の危険意識を高め、職場の危険源を対策・低減するトレーニングです

製造現場や建築現場など危険が伴う作業現場において、ヒヤリハットや労働災害を予防するための取り組みとして、全国的に普及し一般的に行われるようになりました。この記事では危険予知訓練について、特徴や目的、実施方法、例題などを紹介していきます。

KYT(危険予知訓練)とは?

KYTの概要

KYT(危険予知訓練)とは、製造業を中心に、作業や職場で災害に繋がる危険を探し出して対策を行う能力を高めるために考案・実施されている訓練のことです。小集団で活動するのが一般的で、メンバー同士で職場や作業に潜む危険要因を見つけ、話し合いを行い、対策を検討する活動です。これらの頭文字を取って、KYTと呼びます。

似た言葉にKYK(危険予知活動)がありますが、こちらは危険(Kiken)・予知(Yochi)・活動(Katsudou)の略字です。KYTと基本的な内容は同じですが、KYKは実践に重点を置いた活動です。

KY活動の進め方については、元労働基準監督署署長の村木 宏吉氏が解説する動画を無料で公開していますので、以下より併せてご覧ください。

KYTの由来

もともとは住友金属工業で始まった手法です。現在では日本全国、様々な業界で活用されるようになりました。中央労働災害防止協会がゼロ災運動(労働災害や疾病をゼロにする活動)の一環として、1973年に取り入れたことが起源とされています。

1978年に問題解決4ラウンド法と結びつけたKYT4ラウンド法が実施されるようになり、翌年から中央労働災害防止が産業界に研修を開始していき全国展開されるようになりました。中央労働災害防止はその後現在に至るまで、ゼロ災運動とともに危険予知訓練を推奨しており、活動内容の普及に努めています。

また厚生労働省の設定している「交通労働災害防止のためのガイドライン」にも、危険予知訓練が職場の事故防止に効果があると記載しており、交通事故においても有効な事故予防手法として定義しています。

KYTの特徴

危険予知訓練が行われる前の事故防止の考え方は、発生した事故原因を追求して対策を行うことでした。類似災害を防止する観点から、原因を追求して対策を行うことは重要な手段です。

ですが、それだけでは本質的な安全を考えると不足しているといえます。なぜなら時間とともに人間の記憶は低下していき、どのような災害があったかは忘れられていくからです。その点、危険予知訓練は事故を未然に防ぐために行うことに特徴があります。

KYT(危険予知訓練)で参加者の危機意識を高めることで、事故が起きにくい風土や職場環境を醸成します。つまり「安全の先取り」を行う訓練だといえます。

KYT(危険予知訓練)に取り組む4つの目的

それでは続いて危険予知訓練に取り組む目的について4つ解説していきます。

  • 労働災害を未然に防止する
  • 職場/作業の危険ポイントを洗い出す
  • 参加者の危機意識レベルを高める
  • 行動目標を指差し呼称で顕在化する

労働災害を未然に防止する

危険予知訓練を行う一番の目的はもちろん、職場での労働災害を未然に防止することです。労働災害の発生件数は、会社や労働者などの安全に関する取り組みで減少してきてはいますが、依然として被災者が発生しています。

厚生労働省労働基準局の「令和3年 労働災害発生状況」によると、死亡者数は長期的には減少傾向にある一方で、休業4日以上の死傷者数は、減少幅の鈍化や増加の傾向が伺えます。

<労働災害による死亡者数、死傷者数の推移>
労働災害による死亡者数、死傷者数の推移

【引用元:令和3年労働災害発生状況(厚生労働省労働安全基準局

特に製造業はほかの業種に比べて、労働災害の発生件数が多い業種です。そのため今後も労働災害を防止する活動である危険予知訓練には重要な意義があるといえます。

危険予知訓練を通して、普段の作業に気付かない危険なポイントが無いか、職場内に潜んでいる危険な設備が無いか、関係者全員で一斉に点検すれば、これまで気付かなかったリスクが顕在化して事故を予防することができるからです。

未然防止によって事故ゼロの現場を目指す方法については、専門家が解説する動画を公開しているのでこちらもご覧ください。


未然防止研究所の代表が解説!未然防止で実現する事故ゼロの現場 (1)

職場・作業の危険ポイントを洗い出す

多くの製造業において、生産現場である工場は日常生活の場に比べて多くの危険源が潜んでいます。そもそも製品自体が重量物であれば、製品の取扱いを誤れば落下させて怪我する可能性があります。また製品を運搬するフォークリフトやホイストクレーンなどの車両や運搬具が、工場内を歩行する作業者と衝突する可能性もあります。

その他にも鋳造機や機械加工設備などの生産設備は挟まれれば死亡災害に至る危険な機械です。そのような危険源に対して、多くの職場で保護具の着用や安全柵で囲うなどの安全対策が施されていますが、完全に危険をなくすことは難しいことも事実です。

危険予知訓練ではそのような残存する危険源を、その職場で働くメンバー間で作成した小集団で洗い出しを行います。それにより、危険源を見える化させることや、安全意識の醸成が可能になります。

参加者の危機意識レベルを高める

危険予知訓練は危険ポイントを洗い出すとともに、参加したメンバーの危機意識を高めることができます。なぜなら訓練を実施する職場の多くは、すでに基本的な安全対策を実施済みであり、すぐ目に見えて危険な点は対策が打たれていることがほとんどだからです。

そのため参加者は、想定を超えたレベルで危険なポイントが無いかを探し出す作業が必要です。例えば職場の蛍光灯が切れて、脚立に上って交換するような何気ない作業の中にも多くの危険源が隠れています。

  • 脚立の位置が悪くて姿勢を崩していて脚立が倒れる
  • 蛍光灯の下の床に凹凸があってバランスを崩しやすい
  • 脚立がドアの近くで、誰かが入ってきてぶつかるかもしれない
  • 脚立の留め金をつけないと作業中に脚立が開いてバランスを崩す

このように可能性は低くても危険に陥るパターンをメンバー同士で洗い出して、どうしたら事故なく作業が行えるのか考えることで、それぞれの危機意識レベルを高めることが可能です。

行動目標を指差し呼称で顕在化する

危険予知訓練では事故を未然に防止するために、それぞれが最終的に守るべき行動目標を設定します。上司や職場で言われた目標と違って、自らが設定した目標のため、より高い意識付けが可能になります。そして指差し呼称で行動目標を意識や習慣に植えつけることができるため、危険予知訓練が終わってからも継続的に危機管理ができるようになります。

ただし危険予知訓練は一度終わればずっと効果が続くわけでは無いので、定期的に実施して常に高い危機管理能力を職場が保持し続けることが重要だと考えられます。

KYT(危険予知訓練)の実施「4ラウンド法(4R法)」

中央労働災害防止協会の定めている危険予知訓練は、旧国鉄が実践していた安全確認手法「指差し呼称」と、危険予知活動を組み合わせた「KYT4ラウンド法」を標準的な活動方法としている点に特徴があります。

「KYT4ラウンド法」は以下の4ステップで進めていきます。

  • 1ラウンド:現状を把握する
  • 2ラウンド:本質を追求する
  • 3ラウンド:対策を立案する
  • 4ラウンド:行動計画を決める

それでは各ステップの内容を1つずつ解説していきます。

1ラウンド:現状を把握する

4ラウンド法では実際の作業場所で行われる場合や、作業風景などが書かれたイラストシートを用いて行います。そして最初のステップでは、作業場所やイラスト内にどのような危険が潜んでいるか参加者が意見を出し合います。司会進行役のリーダーが各メンバーに意見を求め、出された意見を書記役のメンバーが記録していきます。

このステップで重要なことはすべての危険源を洗い出すことです。そのためにはより多くの意見を出すことが重要で、活発にコミュニケーションを取れる雰囲気作りが大切になります。

2ラウンド:本質を追求する

次のステップでは危険の本質を追求する作業を行います。1ラウンドで洗い出した危険源の中で、どの項目が特に重要であるかをメンバー間で話し合い決めていきます。本質的な危険源だと認められた項目には目印をつけておきます。

このステップで気を付けることは、多数決でどの項目が本質的な危険源であるかを決めないことです。あくまでメンバー全員が納得して話し合いを進められるように、コミュニケーションを取り、決めることが大切です。

3ラウンド:対策を立案する

3つ目のステップでは、本質的な危険源と決めた項目に対してどのように対策を行うのかを検討していきます。このときもメンバー全員で意見を出して、それぞれに納得感のある対策を決めることが重要です。

本当にその対策が有効だと腹落ちしない場合、せっかく話し合いで決めた対策が職場に定着しない可能性があるからです。司会進行役のリーダーが、メンバー全員が納得できる対策を引き出せるかが重要なポイントとなります。

4ラウンド:行動計画を決める

最後のステップでは、これまでのステップで特定した危険ポイントに対して、今後どのような行動目標で取り組むかを決めます。まずはメンバー全員で行動目標を話し合い、出された案の中から実際に取り組む行動目標を決定します。

そして決定した行動目標を、メンバー全員で指差し呼称して修了します。

KYT(危険予知訓練)による3つの効果は?

危険予知訓練を実施すると、以下のような効果が期待できます。

  • 職場の事故や災害が減少する
  • 職場の5Sが徹底される
  • チームワークが向上する

職場の事故や災害が減少する

危険予知訓練が全国展開された年と比較すると、労働災害の発生件数は減少を続けています。前述の厚生労働省労働基準局「令和3年労働災害発生状況」によると、昭和54年(1979年)の労働災害による死亡者数が約3,000人に対して、令和3年(2021年)の死亡者数は約900人以下となっています。

危険予知訓練以外の安全対策が進んだことも要因に考えられますが、危険予知訓練の広まりによって製造業など、危険が伴う現場で働く従業員の危機管理能力が向上したことも大きく貢献していると考えられます。

危険予知訓練が開始された昭和中頃の労働災害では、生産優先的な考えを持つ作業者や職場の雰囲気が事故の原因となっていました。例えば設備を止めずに異常処置を行うために、加工設備やコンベア内に侵入して挟まれる死亡災害が多く発生していました。

こうした悲惨な事故を無くすためには、上司部下に関わらずお互いに負安全な行動を見かけたら注意し合える風土を醸成することが重要です。トップダウン型だけの安全対策から、ボトムアップ型の安全対策の双方を取り入れて、より安全レベルがアップした職場づくりを進めることが重要だといえます。

職場の5Sが徹底される

危険予知訓練は職場の5S活動の推進にも貢献することができます。5S活動とは、整理(Seiri)・整頓(Seiton)・清掃(Seisou)・清潔(Seiketsu)・しつけ(Shitsuke)のローマ字読みしたときの頭文字をとったものです。

危険予知訓練を行い、洗い出しをすることで、職場内の整理整頓されていないデスクや、油が付着して汚いまま放置された設備などが危険源として洗い出されてくるので整理整頓や清掃作業が進みます。

また、危険予知訓練を通して、ベテランメンバーが若手メンバーに対して危険なポイントの見つけ方や、整理整頓の重要性を伝える機会となるため、5S活動のしつけを行うことも可能です。

一旦整理整頓が完了しても安全な職場を保つためには、整理整頓されていて清潔な職場を保つことが必要になるため、5S活動を定着させる機会にもなります。

5S活動で生産性を向上させるためには正しい手順で進めることが大切です。そこで、現場改善ラボでは数々の企業で5S改革を行ってきた、株式会社ヒューマン・ナレッヂの代表取締役である前田 康秀氏による、現場で実践できる「正しい5S活動」の解説動画を無料で視聴できます。ぜひ本記事と併せてご参照ください。


現場改善ラボ ウェビナー用 (7)

また、5Sについての詳細な解説や実際の事例について知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。

チームワークが向上する

危険予知訓練では基本的に、該当職場で働くメンバーで小集団を作って活動を行います。日頃は生産活動に追われて、コミュニケーションが不足しているような職場でも、危険予知訓練を通して安全意識を高めるとともに、コミュニケーションを活発化させる機会となります。

また、安全に関する内容は、職場の上下関係や年齢に関係なく、誰でも発言しやすいテーマであることもコミュニケーションを活性化するポイントです。普段は作業に従事していて発言する機会が無い若手メンバーも、自分の作業で危険なポイントを感じていれば積極的に意見を出して議論することができます。

このように危険予知訓練を通して、職場内のチームワークを高める副次的な効果も期待ができます。

業界別のKYT(危険予知訓練)の例題

それでは具体的に危険予知訓練で取り扱われる例題を紹介します。業界ごとのイラストシートで考えられる危険を検討していきます。

製造業の例題

製造業の危険予知訓練

回答例は以下の通りです。

  • 工作機械の刃物で手などを怪我する
  • 話をしていて注意が散漫になる
  • 床に置かれた荷物につまづき機械に衝突する
  • 荷物が落ちてきて体にぶつかる
  • 踏み台がずれて転倒する
  • 床に置いてある荷物につまづいて転ぶ
  • 荷物が重くてバランスを崩して転ぶ
  • コンベアの荷物を取るときにコンベアに手を挟む
  • 運転手の死角から他の作業者が侵入してくる
  • 誘導員が後ろを見ずに後退して、車両と衝突する
  • 運転手がハンドル操作を誤って他の作業者とぶつかる
  • ブレーキとアクセルを踏み間違える

物流業の例題

物流業の危険予知訓練

回答例は以下の通りです。

  • 荷物が落ちてきて体にぶつかる
  • 踏み台がずれて転倒する
  • 床に置いてある荷物につまづいて転ぶ
  • 荷物が重くてバランスを崩して転ぶ
  • コンベアの荷物を取るときにコンベアに手を挟む

建設業の例題

建築業の危険予知訓練

回答例は以下の通りです。

  • 運転手の死角から他の作業者が侵入してくる
  • 誘導員が後ろを見ずに後退して、車両と衝突する
  • 運転手がハンドル操作を誤って他の作業者とぶつかる
  • ブレーキとアクセルを踏み間違える

危険予知訓練ではこの他にも、メンバー全員で洗い出す取り組みが必要になります。
定期的なトレーニングをすることで、小さな危険を見逃さない感覚が身についていきます。

まとめ

ここまで危険予知訓練とは何か、目的や方法、実施効果などを解説してきました。危険予知訓練は主に、製造業などで働く従業員の危険予知能力を高めて、労働災害を未然に防止するために全国で行われています。

実際の作業現場や作業風景を記載したイラストを用いて、同じ職場で働くメンバーどうしで危険源を洗い出し、対策や行動目標を決めていく訓練です。その中で職場の本質安全を定着させることや、安全を注意しあえる風通しの良い職場を形成することで、より事故や災害の起きにくい環境を作ることが可能になります。

労働災害は一度起これば会社や従業員だけでなく、周囲の家族や友人などを巻き込んで多くの被害者を産んでしまいます

そのような事態を防止するためにも、これからも危険予知訓練の定期的な実施は必要不可欠です。

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