「ヒューマンエラーを無くしたい」そう考えていても起きてしまうのがヒューマンエラーです。業界・業種問わず、さまざまな現場で起きてしまいますが、どのようにすれば未然防止できるのでしょうか?本記事では、ヒューマンエラーはなぜ起きるのか?原因を深掘りしつつ、8つの対策を解説します。
また現場改善ラボでは、ヒューマンエラーの原因を分析する方法と対策について、専門家が解説する動画を無料で公開していますので併せてご覧ください。
ヒューマンエラーとは?2つの種類
ヒューマンエラーとは、人が原因となり発生するミスや間違いのことをいいます。ヒューマンエラーが発生する原因には、プロセスミスや選択ミス・思い込みや時間のミスなどが該当します。
このヒューマンエラーは、以下2つの種類に分類されます。それぞれ順に、詳しく説明していきます。
1.意図的ではないヒューマンエラー
意図的ではないヒューマンエラーとは、当人は意図していない中で発生してしまうミスのことです。具体的な例として、知識が不十分であったり技術不足などが該当します。この原因の根底には、当人の業務に対する経験不足が挙げられますが、その他にも報告不足や教育不足、連携ミス、思い込みなども該当します。
当人は自分のプロセスや選択が正しいと思い行動したけれども、結果として間違っていたためヒューマンエラーを起こすパターンです。
2.意図的なヒューマンエラー
意図的なヒューマンエラーとは、当人が何らかの目的のもとに行動した結果、引き金となり発生するミスのことです。具体例として、そもそも規定のマニュアルがある中でマニュアルに従わず、自己流の方法により簡素化させた結果、ミスが起こることが該当します。
なぜ、当人は自己流の方法を取り入れてしまうのかというと、業務負担の軽減や単純作業から来る疲労の軽減などや、経験を重ねてきたことによる慣れや自己判断など、極めて個人的事情が背景にあることが大多数となっています。
上記2種類のヒューマンエラーは、基本的にどちらも発生すべきでないミスになります。そのため、日頃より作業者の1人ひとりが事故を起こすことのないよう意識しながら、個々の業務を進める必要があるのです。
厚生労働省のヒューマンエラーに関する資料によると、事故により発生するヒューマンエラーや、安全と関わりの深いものについて、以下のように公表しています。
事故を分析すると、多くの場合にヒューマンエラーが見つかります。労働災害の8割に人間の不安全な行動が含まれています(厚労省、労働災害原因要素の分析)。事故の原因は人間が直接引き起こすエラーだけではなく、人間を取りまく多くの要因、作業環境、施設や設備、教育訓練、企業の安全への取り組みなど多くの要因が含まれます。これらをヒューマンファクターといい、ヒューマンエラーを防止するときの大事な要因となることもしばしばあります。
ヒューマンエラーの代表的な分類のうち安全と関わりが深いものとしてしばしば紹介されているものに、行動からの分類(①やり忘れ、②やり間違い)人間の情報処理過程からの分類(①実行上の誤り、②意図の誤り、③記憶間違いによる誤り)、外部のきっかけを認知からの分類(SRKモデル)などがあります。
【引用:厚生労働省 職場のあんぜんサイト:ヒューマンエラー】
関連記事:ヒューマンエラー対策12選!5つの要因とミスを回避するポイントは?
ヒューマンエラーはなぜ起きる?主な原因
ヒューマンエラーが発生する主な原因には、以下の7つが該当します。それぞれ順に説明します。
1.確認不足や見落とし等の注意不足
きちんとチェックできていなかったり、見落としといったポカミス発生するヒューマンエラーのことです。例えば、毎回同じ作業のため、今回も同様であると自己判断し、確認を怠った結果引き起こされるミスになります。
このようなポカミスは、明らかな確認不足や見落としから生じることが多く、発生頻度も高い傾向にあります。
関連記事:製造業でポカミスが起きる原因は?対策の4つの流れを解説
2.情報伝達や指示の不足
社員間での情報共有や報告・指示などがきちんとできなかった結果、発生するヒューマンエラーです。例えば、ベテラン作業者が多忙のため新人作業者に伝えるべき情報をきちんと伝えられず、新人作業者が自己流で業務を進めなければならないような状況が該当します。
このような状況は、遅かれ早かれヒューマンエラーを引き起こす恐れが高いでしょう。
3.教育や訓練の不足
ベテラン作業者が新人作業者を上手に教育(OJT)できなかった結果、発生するヒューマンエラーです。これにはベテラン作業者が多忙であったり、新入作業者とのコミュニケーションを、日頃からとれていないことが背景にあります。
この問題は中小企業が広く抱える課題です。きちんと教育されなかった新入作業者は、やはり後にヒューマンエラーを起こしやすい傾向にあります。また作業者によっては、そのまま退職してしまうケースも少なくありません。
関連記事:OJTとは?OFF-JTの違い、負担を減らして効果を出す方法も解説!
4.慣れによる思い込みや判断ミス
ある程度業務に慣れてくると、マニュアルを把握していることから、少しでも作業を手早く終わらせたいと考える作業者も出てくるかもしれません。業務への慣れが定着すると、作業者の思い込みから判断ミスというヒューマンエラーを引き起こすことがあります。
例えば、一度もミスがないからと最終確認を怠ってしまったり、マニュアルの確認を行わなかった結果、マニュアルの変更に気付かず作業を終えてしまったなどの判断ミスが該当します。意外にもこのミスを起こしやすいのは、ベテラン作業員であるケースが多くあります。
5.ルールや手順が浸透していない
独自のマニュアルが浸透しているはずの現場に浸透していないときに発生するヒューマンエラーです。これには例えば、作成済みの独自マニュアルが頻繁に変更されるケースや、そもそもベテラン作業者がマニュアルの手順を遵守していないケースで多く生じるミスになります。
特にベテラン作業者が規定を守っていない現場では、部下や新人作業者にも影響する恐れがあります。
6.心身ともに疲労が蓄積している
残業や休日出勤などの長時間労働は、作業者により身体だけでなく精神的にも蝕まれる恐れがあります。特に残業や休日出勤の続く日々は、作業者次第で大変辛いものにもなり得ます。こうした労働を無理して継続してしまう作業者は、後にヒューマンエラーを起こしやすくなります。
例えば、自社の優秀な作業者が突然退職してしまうようなケースにも当てはまります。作業者は表向きの退職理由としてスキルアップなどを挙げたけれども、実は本当は長時間労働から心身に不調を来し退職を選ぶケースも数多くあるのです。
7.職場環境が悪い
毎日勤務する職場だからこそ、円滑な人間関係を築いておくことも重要です。しかし多くの現場で、人間関係のトラブルがあるのも事実です。例えばグループごとに業務を行う際に、作業員同士のコミュニケーション不足から情報の抜け漏れや未共有などのミスが発生すると、それらは後のヒューマンエラーにつながります。
こうした作業員間のコミュニケーション不足などは、作業員の人数が増えるほどに起こりやすくなります。またこのような職場環境をもつ現場では、人間関係の問題だけに留まらず、設備不足や5S活動が徹底されていないなどの問題も抱えていることもあります。
関連記事:5Sとは?意味や活動の目的と効果、ケース別の事例を解説!
ヒューマンエラーを防ぐために必要な8つの対策
ヒューマンエラーを防ぐためには、以下8つの対策を講じる必要があります。これら8つの対策の中でも、特に4つ目と8つ目の項目は重要な内容となりますので、きちんとインプットしておくと良いでしょう。
より詳細な情報を知りたい方は、専門家が解説する以下の無料動画もご覧ください。
1.エラーが多い業務の見直し/効率化
日頃よりエラーの多い業務は、定期的に見直しを行ったり、効率化を図れるようマニュアルのプロセスやルールを見直す必要があります。その中で不要であると複数の作業者が思う業務は、思い切って削ってしまうことも1つの方法です。
該当する業務を削れば、そもそもエラーが発生することもありません。もちろん必要な箇所には追加を行い、不要な箇所を思い切って削ることにより、効率化の推進にも寄与します。
このような工程における不要な箇所を「ムダ」と捉え、徹底的に排除したのがトヨタ生産方式です。
関連記事:【トヨタ式】7つのムダとは?具体例を交えてムダを解説
2.エラーが起きない工夫をする(フールプルーフ)
エラーを起きにくくすることは、ヒューマンエラーを発生させないように工夫を施すことでもあります。この工夫を施すことをフールプルーフともいいます。
具体的な工夫として、複数同時にログイン不可の仕組みを取り入れたり、入力ミスでエラー表示がなされるなどの工夫などが該当します。こうした仕組みを取り入れると、そもそもエラーが起きることもありません。そのため、ヒューマンエラーを未然に防ぐことができるのです。
関連記事:フールプルーフとはどういう設計?品質不良/ヒューマンエラーを未然防止する考え方、使用例を解説
3.危険な業務は自動化する
業務の内容によっては時に危険を伴うことがあります。このような危険業務については人を活用せず、システムに頼り自動化させることが効果的です。
例えば、ヒューマンエラーが発生し作業者にケガをさせる危険性のあるような業務は、出来る限り自動化することで安全性を高められます。また、システムによる作業の為、ヒューマンエラーも解消できます。
4.複雑な業務を分かりやすくする
プロセスが複雑な業務の際には、ヒューマンエラーが起こりやすくなります。このような業務を行う場合には、業務フローを出来る限り分かりやすくすることが求められます。
この対策として適切なものに、マニュアルを作成することが該当します。マニュアルを作成すると、その通りに作業を進めれば良いため、結果としてヒューマンエラーを効果的に削減できます。
またこの他に、定期的に研修や勉強会の場を設けることも有益です。例えば作業者には事前に業務フローに関するマニュアルを確認してもらい、ある程度の内容を把握しておいてもらうことで、その後スムーズに業務に取り組みやすいでしょう。
ただ、やみくもにマニュアルを作成しても、現場で活用されなくては意味がありません。別の記事では、現場で活用されるマニュアルを作成するポイントを解説しています。
関連記事:マニュアルの意味とは?わかりやすく作るコツと流れを解説
5.ヒヤリハットの報告や共有を徹底する
今回は未然に防ぐことはできたけれども、大きなトラブルにつながり兼ねなかった出来事のことを、ヒヤリハットといいます。このヒヤリハットは、作業中にヒヤリとした出来事や、ハッとした出来事が該当します。
例えば、会議時間を勘違いしあと少し遅れていれば遅刻していた・クライアントへの電話を他のクライアントと間違えそうになったなどの事例などがこれに当てはまります。
もしヒヤリハットを起こしてしまったとしても、慌てずに落ち着いて対処し、報告や共有を徹底することが重要になります。
関連記事:ヒヤリハットの意味は?報告書の書き方や業界別事例集を解説!
6.安全に関する教育を定期的に行う(KY活動)
KY活動とは危険予知活動の略称で、安全についての教育を定期的に行う活動のことをいいます。具体的には、作業を始める前に作業への危険性や、危険箇所に対し話し合いを行います。そして、話し合いの後に対策や目的を定めて呼称設定をし、指差し呼称で安全衛生を先取りしながら作業を進める活動のことを指します。
指差し呼称のやり方に関しては、厚生労働省のKY活動に関する資料に掲載されています。
(2)指差し呼称のやり方
練習では、指差し呼称の基本形を次のとおり徹底して身につけます。
目は・・・
確認すべき対象を、しっかり見る。
腕・指は・・・
左手は親指が後ろになるようにして手のひらを腰にあてる。右腕を伸ばし、右手人指し指で対象を差す。「○○」のあとで、いったん耳元まで振り上げて、本当に良いかを考えて確かめた上で、「ヨシ!」で振り下ろす。右手は、縦拳(親指を中指の上にかけ、握りの渦巻きを天井に向ける)から人差し指を伸ばす形をとる。
(※左利きの人は、その逆で行う。 )
口は・・・
はっきりした声で、「○○ヨシ!」、「スイッチ・オンヨシ!」「バルブ 開ヨシ!」と唱える。
耳は・・・
自分の声を聞く。目、腕、口、指を総動員し、自分の作業行動や対象物の状態を確認する手段です。
【引用:厚生労働省『第3章 KY活動』】
7.職場環境の課題を改善する
職場の人間関係などの課題がある際に、その課題を改善することにより、ヒューマンエラーも改善される可能性が高いでしょう。例えば、ベテラン作業者と部下の間で、情報共有や連絡事項の報告などがスムーズにいっていないケースには、コミュニケーション不足などの課題が背景にあるはずです。そのため、出来る限り多くのコミュニケーションをお互いにとることが求められます。
この課題では、ベテラン作業者から部下へと積極的なコミュニケーションをとることにより、改善されやすい傾向にあります。
8.いつでも確認/学べるようにマニュアルを整備する
ヒューマンエラーを防ぐためには、常時確認することが必須であると言えます。どのような業務を進めるにしても、とにかく確認を怠らないようにしましょう。また、マニュアルを整備することも効果的です。
マニュアルの整備とは、これまで使用していたマニュアルを定期的に更新したり変更し、新たに付け加えたり不要な箇所は削除をするなどしてマニュアルそのものを整えることを指します。この整備を行うことにより、自社のルールをより強固なものにしたり、徹底させるために役立ちます。
注意点として、マニュアルを更新・変更した際は、作業員にも周知をするという点が挙げられます。
ヒューマンエラー防止のマニュアルに適するのは紙?動画?
厚生労働省のヒューマンエラーに関する資料によると、ヒューマンエラーを防ぐ方法について、以下の方策を公表しています。
ヒューマンエラーの防止は難しいのですが次のような方策を採ります。
1)人が間違えないように人を訓練する。
2)人が間違えにくい仕組み・やりかたにする。
3)人が間違えてもすぐ発見できるようにする。
4)人が間違えてもその影響を少なくなるようにする。
人が行うのですから、どんなに人を訓練しても間違いは避けられません。人間は適度な緊張のときにはエラーの発生は少ないのですが、過度の緊張や緊張感が少なすぎるとエラーが多く発生します。また単調な監視業務では30分を超えると緊張が続きません。
ヒューマンエラーは原因ではなく結果であると考えると納得出来るのではないでしょうか。こうした人間の特性を知りながら人の持つ柔軟性などの長所を活かす工夫が求められます。
【引用:厚生労働省『職場のあんぜんサイト:ヒューマンエラー』】
上記の方策や人の特性や長所を活かす工夫には、適切なマニュアルの作成が必要となります。尚且つマニュアルには紙のものよりも、映像などの動画を活用したものが最適です。
特に、危険を伴う業務やエラーを繰り返してしまうような作業に関するマニュアルには、視覚的に誰でも理解でき、大切なポイントをダイレクトに伝えられる動画の活用が最も効果的です。
視覚と聴覚の両面から訴求可能な動画には、文字だけの静止画よりも短時間で、大変多くの情報を伝達できるというメリットがあります。一般的に、動画の情報量は文字の5,000倍ともいわれています。
一方で、動画というと撮影や編集が難しいイメージを持たれがちです。別の記事では、現場で活用される動画マニュアルのポイントは『撮影や編集』にこだわりすぎないことをご紹介しています。併せてご覧ください。
関連記事:活用される動画マニュアルの作り方は?ポイントや企業事例を解説!
現場改善ラボを運営するTebiki株式会社では、動画マニュアルをだれでも簡単に作成/共有できるクラウドサービス「tebiki」を提供しています。tebikiでは、普段のOJTを動画に撮影することで、字幕や翻訳も自動生成される仕組みとなっています。翻訳言語は、100カ国以上を超える言語に対応しているため、外国人スタッフの教育場面にも使用可能です。
そのため、作業の中でヒューマンエラーが起こりがちな工程を動画マニュアル化することで、作業前の確認により未然防止をすることも可能です。
動画マニュアルのメリットやデメリット、実際の作り方は「はじめての動画マニュアル作成ガイド」で解説しているのでご覧ください。
まとめ
ヒューマンエラーはさまざまな原因が引き金となり発生しますが、その中でも意外と多いものに「思い込み」から生じるミスが該当します。そしてヒューマンエラーを防止するためには、数多くの対策を講じる必要があるけれども、現状それらの策を講じる時間をもつ企業や現場は非常に少ないというのもまた事実ではないでしょうか。
このような場合に、先述の動画マニュアルを利用すると、ヒューマンエラーを効率的に防止することができます。
